蒲田のピリ辛創作カレーに果てしない野望を見た ~蒲田「タージ・マハール」のオヤジ学~
またしてもカレーの話である。
先日予告したとおり、蒲田の「タージ・マハール」へと足を運んでみた。
蒲田西口より徒歩1,2分。商店街の中にあるカウンターだけのカレー専門店である。
インド料理屋みたいな名前だがカレーしか出していない。
とにかくウマいから一度、食べてみては、と何人かの友人に勧められていた。
このような未知の強豪に出会うのはB級グルマンの至福の幸せといえよう。
そこで、この店に長年、足を運んでいるという友人に連れられて「タージ」の門をくぐった。
店内にはインドの写真やらポスターやらシヴァ神やらが飾られている。
インド料理屋……の趣がないでもない。
メニューを見てみる。
定番メニューが7、8種類程度。スペシャルインドカレー、ポーク、ラング豆とラム、オクラ、ナスなど肉と野菜のカレーがバランスよく配置されている。
それに加えて、旬のメニューがこれまた7,8種類程度張り出されている。
中には「サメ JAWS」などと書かれたメニューもある。
聞いたところによると「羊の脳味噌のカレー」、「ワニカレー」、「ダチョウカレー」などというメニューも秘かに登場したりするという。
オヤジの気分でいろんな肉を仕入れてくるのだろう。
このヘンのセンスは明らかにB級であるが、肝心の味はどうなのであろうか?
初心者らしく店のオヤジに「すんません、初めてなんですけど何食べたらいいですかね?」と聞いてみる。
オヤジはぶっきらぼうな感じで「なんでもいいよ、どうせオレが勧めたのなんか食べないでしょ」ときた。
「結局、何言ったってさ、嫌いなもんは食べないわけだから。オレが野菜がいいって言ったって、野菜嫌いな人は注文しないわけよ」
「いえ、ボクは好き嫌いなんで…ゴニョゴニョゴニョ」ってな感じになる。
ま、好きなものを食え、ということだろう。
なので、スペシャルインドカレー(チキン)を注文してみる。
(濃厚サラサラのスペシャルインドカレー)
まずオーダーと同時にサラダが出される。
それから4,5分して炒め上がったカレーが登場した。
見た目、超サラサラの液体状カレー、である。
札幌風のスープカレーとはちょいとわけが違いそうだ。
スープカレーというのはあくまでもルーはスープのようなもので具がメイン、といったイメージがあるが、
タージのカレーはスパイシーな香気が立ちのぼるカレールーにそそられる。
ご飯は赤い、赤飯のように赤い。
赤飯かと思ったら古代米だという。古代米がこのカレーに合うとのことだった。
いよいよルーをご飯に掛け、口に運んでみる。
「ム……、濃厚だ」
スープ状のサラサラカレーというとどうしてもスープテイストというか軽~い感じがする。
ブイヨンの味だとかなにかニゴリが感じられるのだ。
が、タージカレーは見た目とは異なり濃厚な深みが感じられ、しかもかなりスパイシー。
スパイスのみで出来ている本格インドカレーの様相を呈している。
しかし、いわゆるインドカレーと決定的に違うのは、
このサラサラ感であろう。
サラサラだが濃厚、濃厚だがサラサラ。
一見すると相反するこの2つの命題が見事に調和しているのである。
さすがだぜ、タージ・オヤジ!
チキンもふっくらとした食感がたまらない。
なんだか作り置きのようなパサパサした肉が出てくるとガッカリするのだが、
タージ・チキンはテリテリのできたて、みたいなふくよかな味わいがあった。
食べ進むうちにジンワリと汗がにじみ出てくる。
ジンワリと汗が出る、というところが、程よいスパイス加減であることの証明だ。
あー、満足。
かなりスパイシーであったため、口腔内にスパイスの余韻がじんわりと長く残る。
その余韻がただ辛いだけではなく、いい感じの余韻であるのだ。
余韻の残るカレー……蒲田的風流ですな。
食後にいろいろとオヤジに話を聞いてみた。
なんでもインドの各地でカレーの勉強をしまくったという(いまでも年に数度インドに行くらしい)。
それでたどり着いたオヤジ的究極のインドカレーをさらに日本風にアレンジして、
23種類のスパイスを調合したサラサラ濃厚カレーに仕上げた、とのことだった。
オヤジは語る。
「近くの会社員とかがさ、転勤になるじゃない?するとうちの味が恋しいっていうのよ。
だからパック詰めにして地方発送も承ってんの。
そこでいろいろとパックづめの研究をして、半年くらい防腐剤なしで腐らないようにしたのね。
これをね通販ベースに乗せて、全国で売ろうと思って、工場の建設とかも考えたんだけどそれは断念したのよ」
全国で売る?
なんということを考えるオヤジだ。
この手作りカレーをいったいどのくらい量産できると考えたのだろうか?
大勝軒(永福町)のオヤジは、ラーメンセットの通販で年商が数億円だと店のパンフに記してある。
そんなことを考えているのか?
いや、このオヤジのことだからそこまでの野望はないとみるが…。
「常連さんの中にはね、1日2回食べに来てくれたりとかね、毎日食べに来てくれる人もいるのよ。
毎日食べても食べ飽きないカレー、それがうちの味だと思うのね」
毎日食べても食べ飽きないカレー…
なんという理想の高さだろうか。
これこそがオヤジの野望に他ならないだろう。
そんなことを考えながら帰途についていると口腔内に残っていたスパイシーさがだんだんと調和されていくというのか、
すっきりとした余韻に変わっていった。
なるほど、毎日食べたくなるカレーか…、ちょいとオヤジの言っていることがわかったような気がした。
「タージ・マハール」には蒲田的究極カレーが眠るのであった。
●「タージ・マハール」
東京都大田区西蒲田7-70
電話:03-3734-0913
営業時間:11:00~14:00 17:00~21:00
定休日:日曜、その他適宜