SKE48の苦悩と未来とは? ~選抜総選挙と地方文化を考える~ | 男の娘文化時評

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たまにまじめな話をします。

先日、AKB48による選抜総選挙が行われました。
結果はAKB48の渡辺麻友さんが第1位となり、次回のシングルのセンターをつとめることとなりました。


私は48グループのファンになってから、毎回投票しており、
今回はSKE48の松井珠理奈さん、古川愛李さん、松村香織さん、そして大場美奈さんに投票しました。
いわゆるSKE48の「箱推し」という投票行動なのかもしれません。


名古屋とは縁のない私ですが、AKB48の「大声ダイヤモンド」という曲でセンターとなった松井珠理奈さんに惹かれ、
それをきっかけにAKB48とは違う、個性的で躍動感のあるSKE48のパフォーマンスに魅力を感じるようになりました。


そんな松井珠理奈さん。今回の選抜総選挙では第4位にランクインしました。
彼女は順位の発表を受けたコメントで、半ば泣き崩れながら
「悔しいです」
と発言しました。


前回の選抜総選挙と比べ、得票数も順位も上げたにも関わらず、このようなコメントとなったのは、
彼女が1位を目指していたからにほかならず、彼女もファンも同じ気持ちだったと思います。


この状況に代表されるように、SKE48は今回の選抜総選挙でも多くのメンバーをランクインさせ、
48グループの中では「勝ち組」と称されていることもありますが、
選挙に強いと言われるSKEのファンの中には、逆風の中で苦戦したとの空気が漂っています。


それは、名古屋を本拠地として活動するSKE48が抱える構造的問題があるものと私は考えます。


ここからは視点を広げて、SKE48が抱える問題を通じて、
地方発の文化の課題と可能性について考えてみたいと思います。



■地方は独自のコンテンツを発信する能力が小さい


名古屋をはじめとした中京圏は、日本の都市圏の中では東京、大阪に次ぐ第3位の人口規模を持っています。
その規模を背景とした地域に根ざした独自の文化も持っています。

しかし、テレビ番組のようなメディアの発信力という点では上位2都市圏に大きく水をあけられているのが現状です。


それは、東京や大阪との距離や、中京圏の地域的広がりの狭さに起因するものと思われます。

現在、全国ネットで放送されるテレビ番組の多くは、キー局である在京メディアおよび準キー局である在阪メディアが制作しています。
また、全国区で活躍するタレントの多くは東京や大阪の事務所に所属しています。
もちろん、地方局でも独自の番組を制作していますが、もちろん全国ネットではなく、
制作費等の問題もあり、多くがテレビ局のアナウンサーが進行する、長くても30分程度の情報番組です。
これは中京圏でも例外ではなく、多くが東京および大阪発の番組が放送され、
その合間に地域向けの番組が流れています。


また、中京圏とは、愛知・岐阜・三重の3県と、地域的な広がりが狭いため、
東北地方や九州地方のような、人口としてはさほど多くはなくても、地域レベルで結びつきが強く、
広域での情報共有が可能な地域と比べると、ローカル番組の必要性が薄くなっています。

結果として、中京圏では他の地域に向けた番組がほとんどなく、
地域独自のコンテンツも限られた時間でしか放送されない状況にあります。


さらに近年ではテレビの影響力の低下、それに伴うスポンサーの減少により、
安価に制作でき、視聴率を取る実績のあるタレントを起用した番組が求められる傾向が顕著であり、
経験値の少ない若手タレントの活躍の場が少なくなっています。


そのため、SKE48は中京圏内のアイドルとしてはトップに立っていますが、
それ以外の地域のファンの獲得には苦戦しています。
また、48グループ初の姉妹グループとして誕生したため、メンバーの数がAKB48に次いで多いにも関わらず、
露出できるメディアの数が少ないため、劇場公演以外の仕事の数が少なく、
それが遠因となって主力メンバーの大量卒業を招いてしまったと考えられます。



■キャズムを超えるツールとしてのメディア


もちろん48グループは結成当初から、テレビをはじめとする既存メディアとは距離を置いた、
「会いに行ける」劇場公演主体のアイドルとして活動し、握手会やネットを多用しながらファンを獲得してきたため、
メディアへの露出が少なくても、活動の存続に関わるような事態にはならないでしょう。


しかし、熱狂的な固定ファンを獲得した上で、さらにその裾野を広げるためには、
劇場を知らない人たちにも、グループやメンバーを広く知らしめるツールが必要になってきます。
それこそがテレビをはじめとした既存メディアなのです。


本店であるAKB48も熱狂的な固定ファンの動きを見たメディアが徐々に扱い始め、
活動内容や個々のメンバーの個性を多くの人に伝播し、「秋葉原のアイドル」から「国民的アイドル」へと変化させていきました。


これをビジネスに置き換えるならば「キャズムを超えた」と言うことができるでしょう。
キャズムとは、製品やサービスが初期市場からメインストリーム市場へ移行する際に立ちはだかる大きな溝のことで、
これを超えることで一気に大衆化するタイミングのことです。


AKB48にとってキャズムを超えた瞬間は、「RIVER」というシングルが発売された時ではないかと私は思います。
「RIVER」は、それ以前で最大の売上枚数(約16.8万枚)であった「涙サプライズ!」を大きく超える売上(約40万枚)を記録し、
これをきっかけに売上を伸ばし、ミリオンセラー連発の時期へと移行しました。
これは、熱狂的な固定ファンを大きく超える数の人々が注目し、CDを買った結果と言えるでしょう。


「RIVER」の歌詞の通り、この曲によってメンバーはキャズムという、目の前の深く大きく横たわる川を渡り切り、
国民的アイドルへと変貌していきました。


SKE48も「パレオはエメラルド」のあたりからキャズムを超えたかに見えたのですが、
それ以降思ったほど売上枚数は伸びず、現在では停滞感さえ漂っています。
それは中京圏内のファン層の獲得の限界に達したという見方ができます。



■名古屋の産業構造の影響


中京圏の産業構造の特徴として、「製造業主体」「大企業と中小企業の二極分化」というものが挙げられます。
中京圏内には多数の日本を代表する企業が集積しています。
トヨタ自動車、アイシン精機、デンソー、日本ガイシなどその多くが製造業です。
また、製造業の特徴としてピラミッド型で裾野が広く、周辺に中小企業が数多く存在しています。


この、「製造業主体」「大企業と中小企業の二極分化」という中京圏の産業構造が、
名古屋の文化に影響を与えていることにも注目したいと思います。


先ほど挙げた企業の中で、中京圏の消費者にとって直接的に影響があるのは、トヨタ自動車くらいでしょう。
そのトヨタ自動車にとっても、中京圏は本社や生産拠点がある重要な地域ではあるものの、
自動車販売においては、世界中の販売拠点の1つに過ぎません。
そのため中京圏に特化してマーケティング活動を行う必要がなく、
したがって、中京圏のためのCMを制作したり、スポンサーとなって番組を放送するということは重要性が低いのです。


また、その他の製造業はそもそもコンシューマー向けの製品を製造していないため、
企業イメージの向上や地域貢献活動以外での広告出稿の必要性がありません。


その一例として、昨年AKB48に「チーム8」というトヨタ自動車がスポンサーとなって作られたチームが誕生しました。
チーム8はオーディションで全国各都道府県から一人ずつメンバーを選び、
「会いに行くアイドル」として全国で公演を行うチームです。
この狙いは、トヨタ自動車がクルマ離れを防ぐための、全国の若年層に対するマーケティング活動の一環だと言えるでしょう。
中京圏にあるトヨタ自動車であれば、地元のSKE48を起用するという選択肢も考えられたはずですが、
そのような手法は取りませんでした。


このように、全国あるいは世界規模でマーケティングを行う必要がある産業が集積する中京圏では、
マーケティングにおいて地元密着への意識は少なく、結果として中京圏の文化の育成の中心にはつながっていないのです。



■指原莉乃の奇策


今回の選抜総選挙で注目されたのは博多を拠点とするHKT48の大躍進でした。
48グループ最後発のグループにも関わらず、先輩格のNMB48よりも多くのメンバーをランキングに送り込み、
その象徴とも言える指原莉乃さんは(私としては第1位でないのが残念ではあるものの)第2位となりました。


先ほどから触れている地域特性で言えば、HKT48の地元福岡は、48グループの中で最も人口が少ない地域です。
さらに既存のローカルアイドルも多数活躍する、アイドル激戦地とも言える地域です。
それにも関わらず、最後発で、地盤も弱いHKT48が前述のような結果となったのは、
劇場公演主体の48グループとしては異例の、「浅く広く」ファンを獲得する戦略を取ったからだと思われます。


AKB48からHKT48へ移籍し、以降グループをプロデューサー的視点から牽引してきた指原莉乃さんが発した言葉に、
「HKT48を九州一のアイドル、そして日本一のアイドルにする」
というものがあります。


劇場公演を定期的に見るファンを徐々に増やし、握手会等に参加する熱狂的な固定ファンの支持を受けた上で、
次にメディアへの露出によってファン層を拡大していくというのが、AKB48からNMB48までの戦略であったと思います。
しかし、地域的に不利であることを見越したHKT48は、今までの戦略を踏襲せず、
劇場公演と平行して他の活動の領域を広げ、地盤以外の地域のファンを獲得しようとしたのです。


実際にHKT48は九州ツアーを大成功させ、活動する地域を広げるとともに、
指原莉乃さんの全国的な人気を利用して、HKT48のメンバーを全国ネットのテレビ番組へいち早く出演させることで、
博多の劇場からはるか遠くにいるファンの獲得に成功しました。
一気に全国的な知名度を上げることに成功したHKT48は、今後さらに活動の幅を広げていくことでしょう。



■地方発の文化の、未来とは?


過去の選抜総選挙でSKE48ファンは数多くのメンバーをランクインさせ、「選挙に強いSKE」と呼ばれるようになりました。
それはSKE48にとっては、選抜総選挙においてでしか全国的なメディアへの露出のチャンスがないという、
現状に対する危機感からの行動とも言えるでしょう。


しかし、HKT48が今までとは違う手法で活動を行い、48グループの勢力図を一気に塗り替えたことで、
SKE48にとっても今後の活動や運営に一石を投じるきっかけが生まれたのではないでしょうか。


奇しくも今回の選抜総選挙で、第5位となった松井玲奈さんは
「SKE48は今年、全国ツアーをやります」
と宣言しました。
また、終身名誉研究生として既存メディアへの露出はおろか、劇場公演の活動さえ少ない松村香織さんが、
ぐぐたす(グーグルプラス)で独自の映像配信を行い、徐々に注目を集め、アンダーガールズのセンターとなりました。


おそらく地方を拠点とするアイドルの頂点(言い換えると「限界に近い領域」)に達したSKE48が、今後どのように活動し、
その幅を広げ、個々人が全国的な知名度を上げていくかは、全国にいる地方アイドルの未来の方向性を左右するものだと思います。


人口も資本も集中する東京には、多様な文化を生み、育てることができる環境があります。
しかし、地方にはそれらが足りません。
その限られた環境の中、地域文化の担い手として活動していくためには、地域に根ざしつつも地域外にも活動の幅を広げ、
それを支援する人々を増やしていくことが求められるでしょう。


もちろん、「地域の文化は地域で完結していればよい」であったり、
「商業的価値で文化を計るな」との声もあるでしょう。


しかし一方で、地域の文化を積極的に外部へ伝えることで、その文化の価値を高めることができ、
また文化が商業的に成功することによって、その周辺産業、ひいては地域経済を活性化させることができるとも考えられます。


地方出身の私にとって、地元の文化に光が当たり、有名になることは誇らしいことです。
48グループはそのような夢を与えてくれる、素敵なアイドルグループだと思います。