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されど空の高さを知る

共感の時代へ―動物行動学が教えてくれること/フランス・ドゥ・ヴァール
¥2,310
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5月に読売朝日 に書評が載っていたのと、自分の研究テーマに

比較的近いものだったので、買った本。


11月中旬から読み始めて、卒論の片手間に読んでいたために、

読み終わるまで1カ月ちょっとかかってしまったが、昨日、読了。


レビューします。



著者は生物学者であり、動物行動学者でありながら、

自らを、「心理学に関心を持つ生物学者」(p.343、第二章注20)とする。


この言葉からも分かる通り、著者は、

生物学の進化や遺伝子を重視する立場と、

心理学の個体の成育歴や「心」といったものを重視する

立場との間に立ちながら、共感について論を進めていく。


難しい言葉で言うと、個体発生(その個体がどう生きてきたか)と、

系統発生(その種がどのような進化をしてきたか)の融合を試みる。


このような立場をとれる学者というのは、案外少ない。


とかく、共感というものは生得的なのか、後天的(学習によるもの)なのか、

という議論がしばしば行われるが、著者はもっと広い視点から、

つまり、約40億年続いてきた生物の進化という視点から

共感というものについて迫っていく。生物全体の進化という点で、

進化心理学者の見解とも少し異なる立場だ。


そして、共感という能力は、人類がたかだか数百万年前に誕生したその時、

いきなり身に付けた能力ではなく、それ以前から脈々と進化してきた能力であり、

動物にも見られるのだということを、様々な証拠に基づいて示していく。


これまで確かに、生物学者や心理学者は動物に宿る

「心」というものの検討を意図的に行ってこなかった。

それは、「心」は見えないものであるし、観察だけしかできない動物では、

科学的に立証困難だったからだ(ちなみに人間の乳児に関しても同様)。


しかし著者は、これにも増して、動物と人間を明確に区別する

キリスト教の思想がこの検討を避けてきた大きな要因であることを示す。


著者は、一連の共感に関する議論を

社会、経済、政治、そして宗教へと広げて論じていく。


その論じ方は、さながら哲学者のようであり、

下手をすると私の卒論研究(ひいては心理学の研究全部)を

無意味化してしまうほどのインパクトが本書にはある。



生物の進化は外見や機能だけに限らず、心も進化する。

この事実を忘れず、今後は研究しなければならないと

考えさせられた一冊だった。