フランス  “壁”に阻まれたルペン氏、一定に“成果”も 極右・ポピュリズムの台頭阻止に向けて | 碧空

フランス  “壁”に阻まれたルペン氏、一定に“成果”も 極右・ポピュリズムの台頭阻止に向けて

(大統領の決選投票に敗れ、敗北宣言する国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首=7日 「新たな政治勢力の結成に向け、われわれの運動を変化させる必要がある。愛国者は加わってほしい」と再起を誓っています。【5月8日 iZa】)

【ルペン氏、“壁”を超えることはできず、欧州に安堵感】
欧州極右・ポピュリズムの台頭を阻止できるか、EUの基本枠組みを維持できるかという課題については、3月中旬のオランダ総選挙でウィルダース氏率いる極右政党・自由党の第1党浮上が阻止されたのに続き、最大の山場と目されていたフランス大統領選挙でマリーヌ・ルペン氏の挑戦が大差で退けられたことで、欧州・EU指導者にも、市場関係者にもとりあえずは安堵感が広がっています。

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【仏大統領選】極右候補敗退で欧州に安堵感 なお続く「大衆迎合」の潮流****
欧州ではフランス大統領選決選投票で極右、国民戦線のルペン候補が敗北し、一斉に安堵(あんど)が広がった。反欧州連合(EU)などを掲げる大衆迎合主義(ポピュリズム)勢力の一段の伸長を阻止する最大の正念場を乗り切ったためだ。ただ、大衆迎合の潮流が途絶えたわけでなく、その根本への対処が急がれる。
 
「フランス国民が欧州の将来を選んでくれ、うれしい」(EUのユンケル欧州委員長)。7日、マクロン前経済相の当選が確実になると、欧州の首脳らは待ち構えていたようにツイッター上などで相次ぎ喜びを表明した。ドイツのメルケル首相はマクロン氏と電話し、選挙結果は「欧州への支持表明だ」と今後の協力に向けた期待を伝えた。
 
英国のEU離脱やトランプ米政権発足の影響で大衆迎合勢力の拡大が懸念される欧州にとり、極右の第一党奪取を防いだ3月のオランダ総選挙に続く「対ポピュリズム」での連勝。ルペン氏が勝てば、EU崩壊も現実味を帯びかねなかっただけに歓喜はひとしおだ。
 
だが試練は続く。9月のドイツ総選挙では一時の勢いは低下したが、右派「ドイツのための選択肢」が国政初進出をうかがう。来春までに総選挙を迎えるイタリアではユーロ圏離脱を問う新興勢力「五つ星運動」が支持率首位を走る。
 
大衆迎合の勢いがピークを越えたといえるわけでもない。欧州を対象にした米研究者の調査では、右派の大衆迎合勢力の各種選挙の得票率は1960年代から近年は倍増し、左派は約5倍に増加。じわりと続く成長の途上といわれる。
 
その力は政権を奪取しないまでも、政治を揺さぶるほどに至った。6月に総選挙を行う英国の独立党は低迷するが、EU離脱の目的を達成。他国でも既存勢力による政治秩序が崩れた。
 
大衆迎合勢力に流れるのは失業などで社会に不満を抱く層であり、その対処は「欧州の課題の核心」(ユンケル氏)。マクロン氏勝利は欧州にとって「悪夢を当面逃れた」(フィッシャー独元外相)に過ぎず、気を緩めるゆとりはない。【5月8日 産経】
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ルペン氏は、党首の座を一時的に離れるなど「差別的な極右」イメージの払しょくに努め、“地方の町や農村部を重点的に訪れ、「衰退する地域の実情や、庶民の不安や不満を理解しているのは自分だ」とアピール”【5月8日 NHK】し、グローバリズムの波から取り残された人々の不満の受け皿になることを目指しました。

また、決選投票に向けて、第1回投票で落選した保守派候補のニコラ・デュポンエニャン国民議会(下院)議員を首相に任命すると発表、国民戦線との連携がタブーとされてきたフランス政界にあって、一定に風穴を開ける動きも見せました。

ただ、父娘二代にわたる“極右政党指導者”のイメージはいかんともしがたいものがあり、反ルペンの壁を崩すには至りませんでした。

また政策的にも、ルペン氏のEU・ユーロに対する姿勢には揺らぎが見られ、親EU・ユーロの立場を強調するマクロン氏を追い詰めることができませんでした。

“ルペン氏はフランスの国益を最優先するの立場から、EUからの離脱の是非を問う国民投票を実施し、自国の通貨を復活させるなどの公約を掲げてきましたが、統一通貨のユーロからの離脱については懸念する声が強かったことから、決選投票を前に「離脱を急がない」と主張を和らげました。”【5月8日 NHK】


【これまでにない“成果”も】
そうした壁に阻まれ、乗り越えることができなかったルペン氏ですが、極右勢力としてはこれまでにない成果を勝ち得たこともまた事実です。

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極右「国民戦線」が主要政党として存在感 目標の40%には届かず****
フランス大統領選の決選投票の結果を受け、極右「国民戦線」のマリーヌ・ルペン氏は7日、支持者を前に敗北を認めた上で、「新しい政治勢力として、党を生まれ変わらせる」と述べた。政界で異端視されてきた同党は今回の選挙で、主要野党の一角に台頭した。
 
国民投票の決選投票での得票は、33.94%(開票率99.99%)。ルペン氏陣営は「40%の得票」を目標としていたが達しなかった。
 
2002年の大統領では、国民戦線の初代党首でルペン氏の父、ジャンマリ・ルペン氏が決選投票に進んだが第1回投票から票を上積みできずに惨敗した。
 
マリーヌ氏は第1回投票の得票(21.30%)から上積みできた上、保守系政党の党首を首相候補として発表し、他党との連携の可能性も示した。7日の演説では選挙戦を「愛国主義者とグローバル化支持者」の対決だったと振り返った。【5月8日 産経】
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敗北ルペン氏「歴史的な成果」 決選投票は300万票増*****
国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン氏は7日夜、敗北したにもかかわらず、支持者に「歴史的、圧倒的な成果だ」と話した。決選投票では得票数が第1回投票より300万票増えた。FNのブリオワ臨時党首は「この結果は決して失敗ではない」と胸を張る。
 
FNは、今回の選挙で政界の構図が変わったとする。政権を争ってきた2大政党が初めてそろって決選投票に進めなかった。幹部らは「ルペン氏は大統領にはなれなかったが、確実に野党の代表になった」(地域圏議会議員のフィリップ・バルドン氏)と強調する。
 
だが決選投票は、FNの限界も見せつけた。大統領選でも、小選挙区制の総選挙でも、他の政党がFN包囲網をつくる。「過半数の壁」を崩せない。
 
FNを含め、欧州で「自国第一主義」を掲げる政党の躍進が始まったのは、緊縮財政への批判が噴き出した2014年の欧州議会選からだ。

昨年のオーストリア大統領選も、フランスと同様に2大政党が決選投票に残れず、右翼・自由党が当選まであと一歩だった。【5月8日 朝日】
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ルペン氏敗北もフランスに根付いた「極端な保守主義****
フランスの次の大統領を決める決選投票では完敗したものの、マリーヌ・ルペン氏率いる極右政党「国民戦線(FN)」は、今後の政治的展望にさらなる足跡を残し、主流派への歩みを確実にした。
 
7日の選挙では、移民排斥や反EUなどの公約を掲げたルペン氏の得票率が過去最高の34%に上り、得票数では1060万近い票を獲得した。
 
これは、保守派のジャック・シラク氏が圧倒的な勝利を収めた2002年仏大統領選の決選投票で、ルペン氏の父親であるジャンマリ・ルペン氏が獲得した得票数のほぼ2倍だ。
 
10%前後の水準でとどまっている失業率やイスラム過激派による一連の大規模襲撃事件、主要政党を巻き込んだ数々のスキャンダルといった問題に直面するこの時代にあって、FNが掲げるフランス第一主義は多くの地域で支持されていることがこの選挙で明らかになった。
 
移民の入国制限や安全のための取り締まり強化、そして保護主義の推進といった考えは、経済が低迷する地方でより受け入れられた。
 
父の後を継いで2011年にFN党首となったルペン氏は、党のイメージを一新することに取り組んだ。その努力は報われ、いくつもの地方選で成功を収めた。そして7日の決選投票では、歴史的な得票につながった。
 
この結果について、歴史家のニコラ・ルブール氏は左派日刊紙リベラシオンに「ありのままに評価されなければならない。フランス社会における極右支持が普通になったということだ」と書いている。
 
同時に、FNが掲げる移民に対しての強硬路線やフランスのアイデンティティーを守るといった考え方は、主要政党の政策の中にもみられるようになった。
 
ルペン氏は決選投票を前に、他の政治家と初めて同盟を結んだ。相手は、第1回投票で落選したニコラ・デュポンエニャン氏。大統領に選ばれた際には、右派でEU懐疑派の同氏を首相に据えると約束した。
 
この同盟は、FNがもはやフランスの主流に近い政党の中で「のけ者」扱いされなくなったことを意味する。
 
ルペン氏は決選投票で敗れた後、6月の議会選へ向けてFNの「抜本的改革」が必要だと述べた。彼女の側近の一人は、党名を変更する可能性にまで触れている。
 
目標は議席数を大幅に拡大すること。現在、FN所属の国会議員は2人しかいない。【5月9日 AFP】
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【国民戦線の体質は変わったのか? 党内には軋轢も】
もっとも、マリーヌ・ルペン氏が父親を切り捨てる形で進めてきた改革・ソフト化は、党内に軋みも生んでいます。

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それでもルペンは強い****
ルペンと国民戦線にとって今に至るまでの道のりは長く、その過程で党内の亀裂も生まれた。

2011年に党首の座に就いて以来、ルペンは古臭い極右の党というイメージを振り捨てるため、国民戦線のイメージ刷新に精力的に取り組んだ。

党内から反ユダヤ主義的な発言を締め出し、反移民の訴えと同じくらい声を大にして、大きな政府による経済政策を推進すると強調した。

だがすべての党員がルペンの手法を支持したわけではない。日曜のルペンの得票率は、2002年大統領選の決選投票で父親のジャンマリ・ルペンが獲得した17.8%の得票率の2倍には僅かに届かなかった。

国民戦線は今後、ルペンの路線の正しさを証明できるほど、今回の得票率が高い数字か否かを見極める必要がある。

党内でルペンに異を唱える代表格が、姪のマリオン・マンシャル・ルペンだ。彼女は敬虔なカトリック教徒で、政府主導の経済政策よりも保守的な価値観により重点を置く。

日曜に仏テレビ局「フランス2」の番組に出演したマリオンは、大統領選から「教訓を学んだ」と述べ、党が唱えるユーロ離脱の実現可能性について、有権者を説得しきれなかった点を敗因の一つに挙げた。

彼女は今後、党の現行路線に対して一層批判を強める可能性がある。【5月8日 Newsweek】
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上記の“党内の亀裂”にもダブりますが、ソフト化を進めるマリーヌ・ルペン氏と言われていますが、党幹部には父親類似の考えの者が残存し、党の体質はそんなに変わっていないという国民戦線への警戒感もあります。

父親との対決に続いて、姪との対立となると、マリーヌ・ルペン氏も大変です。
しかし、父親・娘・姪など、指導者が一族に偏っていることも、国民戦線がルペン一族の“個人商店”であり、真の国民政党として脱皮しきれていないことを示すようにも思えます。

マリーヌ・ルペン氏は今回選挙の“成果”を足掛かりにして、来月の議会選挙での更なる飛躍を目指す構えです。

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ルペン氏、来月の仏議会選に照準 党刷新へ****
7日の仏大統領選挙決選投票での敗北が確実な情勢となった極右・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン氏は、党を刷新する方針を示した。来月の議会選挙に照準を定め、有権者は同じ選択を迫られると述べた。

ルペン氏は、支持者らへの演説で、「FNは歴史的な好機に向けて大々的に変革し、フランス市民の期待に応えなければならない」としたうえで「新たな政治勢力を構築するためにわれわれの活動の大転換に着手することを提案する」と述べた。

FNの初代党首で父のジャン・マリー・ルペン氏は7日、RTLラジオに対し、娘の選挙活動について、ユーロ圏や欧州連合(EU)からの離脱を訴えたことが裏目に出たとの見方を示し「われわれは、現実の問題、高齢化や移民の問題について有権者に話しかけなければならない」と語った。

フィリポ副党首は、党名を国民戦線から変更する見通しを示した。【5月8日 ロイター】
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【難しい立場のマクロン次期大統領 失敗すれば“次”は・・・・】
自由主義・グローバリズムを重視するマクロン次期大統領に対しては、ルペン氏を支持する右派だけでなく、第1回投票で急進左派のメランション氏を支持した左派の若者らの間でも強い反発があることは周知のところです。

“前週、ベルテルスマン財団が行った調査では、フランス有権者の分裂ぶりが明らかになった。調査では、約20%が極右ないし極左と回答し、中道と回答した割合は36%だった。EUの平均(極右ないし極左が7%、中道は62%)と比べて極端な思想に偏っている。”【5月8日 ロイター】

こうした国民分断が進む中で、“マクロン氏が対峙する現実は、歴代の大統領よりもはるかに厳しい。国民にグローバリゼーションやEUへの支持を促す政治課題に失敗すれば、5年後の大統領選挙でルペン氏を再び撃退するのが難しくなるだろう。”【同上】と、マクロン次期大統領は難しいかじ取りを要求されています。

マクロン次期大統領にとっての“好材料”は、景気が回復局面に入り、雇用が順調に創出されていること、労組において、強硬姿勢の労働総同盟(CGT)に代わり、穏健な仏民主労働同盟(CFDT)が民間セクターで最大勢力となったことが挙げられています。

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<仏大統領選>「負け組」の声を聴け****
フランス国民は、欧州連合(EU)の統合推進を訴えて仏史上最年少の大統領となるエマニュエル・マクロン前経済相(39)に未来を託した。国際社会も胸をなで下ろしている。

だが、選挙の主役は反EUが旗印の極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン候補(48)だった。英国のEU離脱決定(昨年6月)やトランプ米大統領の選出(同11月)で噴出したポピュリズム(大衆迎合主義)の高まりにブレーキがかかったと安心するのは早計だろう。
 
選挙には既視感がつきまとった。マリーヌ氏の父ジャンマリ・ルペン氏が決選投票に進んだ2002年大統領選の記憶がよみがえったからだ。第1回投票で敗退した左派陣営やアルジェリア系移民2世の元サッカー仏代表のジネディーヌ・ジダン氏がルペン氏の当選阻止を呼びかけたのも同じだった。
 
当時と異なるのはEUへの風当たりの強さだ。ギリシャを震源地とする09年以来のユーロ危機でEU側は加盟国に「痛み」を伴う緊縮財政を求め、各国民の反感を買った。

中東・アフリカの難民流入でも加盟国は足並みが乱れ、結束にひびが入った。

「両危機を予見できたはずなのに防げなかった」(EU特派員)欧州政治指導者の責任は重い。
 
人、物、資本、サービスの移動が自由なEUはグローバル(地球規模)化の先駆けだ。恩恵を受ける富裕層の「勝ち組」と、しわ寄せを食う中間・労働者層の「負け組」の間で社会の分断が深まった。

既成主要政党が溝を埋める有効な政策を打ち出せない中、「EU=悪玉」と断じ、負け組の不満を吸収して勢力を伸ばしてきたのが国民戦線だ。
 
「欧州は一日にしてならず」。67年前のきょう(1950年5月9日)、欧州統合の父、ロベール・シューマン仏外相(当時)はEUの母体となる共同体の創設を提唱する「シューマン宣言」を発表し、粘り強い取り組みを呼びかけた。
 
今秋にはドイツで総選挙が実施される。欧州統合をけん引してきた仏独は負け組の声に耳を傾け、英国の抜けるEUを立て直すことができるのか。「EUの根本的改革」を約束するマクロン氏の胆力が試される。【5月8日 毎日】
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【欧州極右・ポピュリズムには失速感も この時期の対応が重要】
「負け組」というのは嫌な言葉ですが、グローバリズムの波に乗れず、生活が苦しくなる人々の不満は、外国・移民労働者をその原因とみなすポピュリズムに煽られて排外主義・保護主義へと突き進みます。

最近、各国の極右・ポピュリズムにはひと頃の高揚感から失速への変化も見られます。

オランダの自由党の支持率は最盛期の25%から現在は13%に低下しています。

ドイツのAfDも15%から7~10%に支持率を減らし、路線をめぐり党内は内紛状態にもあり、政権を脅かす力はありません。【支持率は5月1日朝日より】

イギリス独立党(UKIP)は、4日行われた地方選挙では146議席から1議席へと壊滅状態で、自身が原動力ともなったEU離脱の実現で、逆にその存在価値を失ったかのようにも見えます。

もちろん、極右・ポピュリズム勢力の脅威は現在も続いていますし、フランスの状況に見るように、対応を誤れば次回では・・・という情勢でもあります。

“一息つける”状況にもなったこの時期の取り組みが、今後に向けて重要になります。