“豹変”するトランプ外交 習近平主席との「絆」が試される北朝鮮問題 今後シリアをどうするのか? | 碧空

“豹変”するトランプ外交 習近平主席との「絆」が試される北朝鮮問題 今後シリアをどうするのか?

(「準備完了」とされる北朝鮮・豊渓里の核実験場を撮影した衛星画像【4月13日 AFP】)

【習近平国家主席との「絆」 ロシアとの関係は史上最悪】
価値観に基づく信念とか総合的・基本的戦略とかはあまりないようにも思えるアメリカ・トランプ大統領の対応が、そのときの状況で“豹変”というか急転換するのは毎度の話ですが、それをご都合主義あるいは節操がないと見るのか、臨機応変・果敢に対応していると見るのか、あるいは、学習・経験で“大統領”として進化していると見るのか(世界で一番影響力のある指導者が学習を必要とするレベルなのも困りますが)、いろいろ意見は分かれるところでしょう。

シリア・アサド政権に対するミサイル攻撃を受けて、トランプ政権の外交姿勢も随分と変わってきています。

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トランプ氏が対外政策を急転換、中国に接近 対ロ関係悪化****
米国のトランプ大統領が就任から3カ月足らずで、対外政策を急転換している。

トランプ氏は、就任前から繰り返し中国を批判、同国を為替操作の「グランドチャンピオン」などとこき下ろしていた。北大西洋条約機構(NATO)についても「時代遅れ」と述べ、ロシアとの関係改善を目指していた。

ところが12日の一連の会見やインタビューでは、対ロ関係の悪化と対中関係の改善に言及。NATOについても、世界の脅威の変化にうまく対応していると持ち上げるなど、態度を一変させた。

ストルテンベルグNATO事務総長との共同会見に臨んだトランプ氏は「私はNATOは時代遅れだと語った。もはや時代遅れではない」と発言。米ロの接近に神経を尖らせていた欧州諸国の懸念が後退する可能性がある。

対中関係については、習近平・中国国家主席との「絆」に言及。中国の台頭を警戒するアジア諸国の間に困惑が広がるとの見方も出ている。

政権内部では、黒幕と呼ばれたバノン首席戦略官が、大統領の娘婿クシュナー上級顧問と対立。バノン氏の影響力低下が指摘されている。

<「史上最悪の冷え込み」>
トランプ氏は、選挙戦の最中の昨年9月、「(ロシアのプーチン大統領が)私を称えれば、私も(プーチン氏を)称える」と発言。プーチン氏との関係強化に意欲を示していた。

ところが、この日は、シリアのアサド大統領を支持するプーチン氏に懸念を表明。「ロシアとの関係は、もしかしたら史上最悪に冷え込んでいるかもしれない」と述べた。

一方、フロリダの別荘で会談した中国の習主席については、「絆」で結ばれていると発言。会談前は「厳しい」通商交渉を予想していた。

また、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙とのインタビューでは、中国を為替操作国には認定しない意向も表明。選挙期間中は、就任初日に同国を為替操作国に認定すると主張しており、見解を180度転換した格好だ。

オバマ前政権で国防次官を務めたクリスティーン・ワーマス氏は、トランプ氏について、就任直後は「(外交政策の)習得に困難を来たしていた」が、その後「多くの問題について、以前よりも繊細な、深い理解を示し始めている」と分析している。

この日の一連の発言は、選挙期間中の側近の影響力が低下し、マティス国防長官、ティラーソン国務長官、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)の影響力が増していることを浮き彫りにしたといえそうだ。3氏はいずれも、ロシアを強く警戒している。

トランプ政権では今年2月、大統領補佐官に起用されたマイケル・フリン氏が、政権発足前にロシア大使と会談していたことが発覚し、辞任を余儀なくされた。バノン首席戦略官も、クシュナー上級顧問と対立しており、トランプ氏が事態の打開を目指す中での、一連の発言となった。

トランプ氏は11日付のニューヨーク・ポストとのインタビューで「スティーブ(・バノン氏)は好きだが、彼が私の陣営に参加したのは(選挙戦の)最終盤だ」と発言。バノン氏を強く支持する発言を避けている。【4月13日 ロイター】
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選挙期間中以来の中国批判・公約から“中国を為替操作国には認定しない”と急変した背景には、“中国はここ数年、人民元安・ドル高を抑制する為替介入を行っており、認定するとかえってドル高が進む可能性があった。”【4月13日 毎日】という現実があります。

トランプ大統領もそうした現実に目を向けるようになったということでしょうか。
それにしても“習近平・中国国家主席との「絆」”というのも、「そこまで言うか・・・」という感も。


【「絆」が試される北朝鮮問題 北朝鮮は核実験準備完了とも】
シリア攻撃を会談中の習主席に伝えたときの様子は、トランプ大統領自身が以下のように明らかにしています。

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トランプは習近平とチョコレートケーキを食べながらシリアを攻撃した****
<アメリカによるシリア攻撃を晩餐会の席でトランプから知らされるという不意打ちを喰らった習近平。2超大国の首脳を衝突から救ったのはチョコレートケーキだった>

・・・・「私たちはテーブルに着き、晩餐後のデザートを食べるところだった。これまで食べた中で最高に美味しいチョコレートケーキだった。習も堪能していた」。その間に習に「イラクに59発のミサイルを発射した」と伝えたという(イラクというのはシリアの言い間違いだ)。

フリーズした習近平
シリア攻撃を習に知らせるタイミングについてトランプは、「パームビーチでの会談後すぐに帰国を控えていたため、食事の間に伝える必要があった」と言った。中国に到着してから習近平の耳に入るのは避けたかったという言い分は理解できる。

「彼は10秒ほど答えなかった」とトランプは、その瞬間を説明した。「それから習は再度通訳するよう求めたが、それは良いサインではないと思った。しかし習は私に向かって『幼い子供や赤ん坊に対して化学兵器を使ったやつなら仕方がない』と言った。彼はOKと言ったのだ」

チョコレートケーキは、2つの超大国の指導者が緊張高まる北朝鮮問題について話し合った米中首脳会談の終わりも飾った。

「中国との関係は非常に進展した」とトランプは言い、「習との関係が発展したのは素晴らしいと思う。今後とも面会を重ねることを楽しみにしている」と語った。

美味なるチョコレートケーキの外交力を侮ってはいけない。【4月13日 Newsweek】
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“OK”と了解した習近平主席の反応・思惑が注目されるところですが、それはまた別機会で。

北朝鮮問題で「軍事行動も厭わない」「何をしでかすかわからない」というトランプ大統領の与える恐怖が功を奏したのか、あるいは強い「絆」のせいか、シリア問題に関する国連安保理での中国の対応は、それでのロシア同調の“シリア非難決議に反対”から“棄権”に変わっています。

そのことは、トランプ大統領をいたく喜ばせてもいます。

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<米国>「大きな勝利」中国棄権評価 安保理シリア非難決議****
ホワイトハウス高官は12日、シリアに関する国連安保理決議案の採決で中国が棄権に回ったことについて「大きな勝利だ」と高く評価した。米南部フロリダ州パームビーチで6〜7日に開いた米中首脳会談による成果だと強調した。
 
中国は今年2月に同様の決議案を採決した際、ロシアとともに拒否権を行使している。ティラーソン米国務長官によると、習近平国家主席は6日夜の夕食会で、シリア攻撃を知らされた際、米軍の行動に「理解を示した」とされている。【4月13日】
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北朝鮮問題に関しては、何としても朝鮮半島有事は避けたい中国側がトランプ大統領に譲ったような形にもなっています。

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米中、急接近か=シリア・北朝鮮対応で変化****
・・・・しかし、12日のホワイトハウスでの記者会見では、中国の習近平国家主席について「昨晩、既知の人物と(電話で)話した。プーチン・ロシア大統領は知らないが、彼とは多くの時間を一緒に過ごした」と紹介。「習氏との相性は非常に良い」と強調した。
 
米政府高官は、首脳会談でトランプ氏の孫娘アラベラちゃん(5)らが習主席夫妻に中国語の民謡などを披露したことが「(両首脳の)関係に大きな影響を与えた」と説明した。
 
米中両国は北朝鮮の核・ミサイル問題への対応をめぐって溝があるとみられていた。米側が軍事行動も辞さない強硬姿勢を示す一方で、中国は対話に基づく平和解決に固執しているためだ。
 
トランプ氏は記者会見で、中国が北朝鮮石炭船の入港を認めなかったことを評価。「中国はこれ以外にも多くの別の措置を用意している」と述べ、習氏との間で何らかの取引があったことをにおわせた。【4月13日 時事】
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孫娘アラベラちゃんの歌った民謡「茉莉花」は、歌手としても有名な彭麗媛夫人のレパートリーでもありますが、ジャスミン革命が激化した当時は中国共産党が波及を恐れてこの歌の歌唱を規制したともいわれている曲で、中国ネット上ではいろいろ取り沙汰されているという話もあるようです。【4月10日 産経より】

それはともかく、孫娘アラベラちゃん云々はほほえましい話ではありますが、シリア攻撃に関しては娘のイバンカさんの助言が大きかったという話など、「トランプ一家の対応で世界は動くのか?」という感も。

現実世界に戻ると、衛星写真の分析結果によれば、北朝鮮北東部・豊渓里の核実験場で新たな核実験の「準備が完了し、待機中」だと発表されています。【4月13日 AFPより】

トランプ・習近平の間の「絆」だか「取引」だかが、どのような結果をもたらすのか・・・・。在日米軍をかかえ、有事の際には後方支援に動く日本としては他人事ではありません。

アメリカの事前研究によれば、北朝鮮から報復の核爆弾が東京・大阪に撃ち込まれれば、双方とも50万人近い死者が出るという数字も出されているとか。


【戦略なき攻撃で複雑化したシリア情勢をどうするのか?】
中国・習近平主席と「絆」で結ばれる一方で、急速に悪化したのがロシア・プーチン大統領との関係です。

訪ロしたティラーソン米国務長官とロシア・ラブロフ外相の会談の最中に、プーチン大統領がTVインタビューで「特に軍事面における実務的な信頼レベルは改善しておらず、むしろ悪化したと言える」と発言したことが発表されています。(会談中に発表するというのは、米中会談中にシリア攻撃を中国に報告したことへの当てつけでしょうか)

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ロシア孤立化図るトランプ政権 アサド政権への働きかけが試金石に***** 
トランプ米政権は12日の米露外相会談で、シリアでの化学兵器攻撃にも関わらずアサド政権を支えるロシアの孤立化を図った。

トランプ大統領は表面上は関係改善をうたいながらも、ロシアからの圧力にさらされている欧州で北大西洋条約機構(NATO)の共同防衛を強化し、対露追加制裁も視野に入れる。「孤立主義者」の色は薄れた。(中略)
 
ティラーソン氏は12日、外相会談後の共同記者会見で2014年のロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合に端を発する対露制裁を維持すると強調。米大統領選へのロシアの干渉疑惑をめぐる追加制裁の可能性にも言及した。
 
シリアでのイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)掃討作戦には、優勢にあるアサド政権を支援するロシアの協力が不可欠なのも事実だ。

ティラーソン氏は「ロシアには緊密な同盟者としてアサド氏に現実を認識させる手段がある」と迫った。ロシアがアサド氏の「残虐な攻撃」(トランプ氏)をやめさせられるかが今後の米露関係にとり試金石となる。【4月13日 産経】
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米軍シリア爆撃、今後も継続か=緊迫する米露、偶発的衝突の恐れあり****
2017年4月12日、国際情報筋は6日の米軍によるシリア軍事施設攻撃について言及、米軍爆撃が今後も繰り返される可能性が高いと指摘した。

標的が、シリアの軍事施設から同国指導者に向けられた場合、ロシア・イラン両国と米国の間は「直接対決」となる懸念を明らかにした。

またシリア内戦地域における米露間の相互連絡システムが破棄されたため、相互の連絡や調整が途絶えた中で攻撃が実施されれば、偶発的な衝突の恐れもあると警告した。(後略)【4月13日 Record China】
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実際、“ロシアの防空網に引っかかることを恐れた米国のIS攻撃は激減、IS壊滅作戦が遅れる懸念が高まっている”【4月13日 WEDGE】といった支障が出ているようです。

もちろん、トランプ大統領は「われわれはシリアに入っていかない」と明言し、これ以上の“深入り”は否定しています。

では、今後どうするのか?

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突然だったシリア攻撃後、トランプ政権に必要なシリア戦略****
<トランプ政権はアサド政権が化学兵器を使用したとしてシリアをミサイル攻撃したが、その後のシナリオは不透明だ。ロシアやイランがアサド政権の存続に向けて対抗姿勢を強めるなか、トランプは1日も早くシリア政策を打ち出す必要に迫られている>

トランプ米政権はシリアの空軍基地に対するミサイル攻撃に踏み切り、化学兵器を使用したシリアのアサド政権を容赦しないという姿勢を見せつけた。しかしその後シリアをどうするのかという展望はまだ示していない。

トランプ政権は早急に、この新たな状況下でシリアとロシア、ISISがもたらす課題に取り組むための戦略を打ち出す必要がある。一貫した国家安全保障戦略がなければ、この複雑な事態を乗り切るのは困難だ。

筆者はここ6週間で2度シリアに渡航した者として、米軍の特殊部隊がISISやシリア、イラン、ロシア軍部隊にどれほど近いところにいるか知っている。このまま睨み合いが続けば、状況の誤認やちょっとした挑発行為で予期せぬ軍事衝突を招くリスクがある。

アメリカは豊富な証拠を示せ
アメリカが率いる有志連合がこれまでシリアやイラクでISIS掃討作戦を実施できたのは、アサド政権とこれを支援するロシアやイランが黙認していたからだ。だがそれも、もう終わりかもしれない。(中略)

シリア政府軍が化学兵器を使ったと非難するなら、アメリカは証拠を提示し、堅実な外交と確かな軍事力を持ってするほうがいい(中略)

外交から武力行使に切り替えるべきだと言いたいのではない。外交の効果をよりよく発揮するために軍事力の裏付けを使うべきだ、ということだ。

1)・・・・できる限り多くの証拠を提示して対抗しなければならない。その証明ができれば、2013年にロシアがシリアに合意させた化学兵器禁止合意の遵守を改めて求めることができる。

2)ISIS掃討作戦に関わる米軍や有志連合に対する脅しは、今後容認できないとはっきりすべきだ。ロシアが本気でISISの壊滅を目指すというのなら、その証としてシリア上空での偶発的な衝突を防ぐためのホットラインを再開するようロシアに求める手もある。

3)アメリカはイラクやシリアにおける対ISIS軍事作戦という目にばかり捉われず、長年悲惨な暴力に苦しんできた両国にとって満足のいく政治的解決策を見つけられるよう、より広範な支援を打ち出すべきだ。同地域の紛争解決や安定を実現するだけの力を国際社会から結集できるのはアメリカだけだ。【4月12日 Newsweek】
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ただ、トランプ政権は内部対立でシリア政策を策定することがさらに困難な状況になっているとも。
そもそも、基本的な戦略がない段階で攻撃をしかけて、あとはどうするつもりなのか?という話も。


【「証拠」に関する気になる報道】
「証拠」に関しては、以下のような報道も。

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シリア通信を米傍受、化学兵器の証拠か…CNN****
米CNNテレビは12日、化学兵器を使ったとみられるシリア軍の空爆を巡り、シリア軍とシリアの化学兵器の専門家がやりとりした通信内容を、米軍と米情報機関が傍受していたと報じた。
 
米政府高官の話として伝えた。米側は、化学兵器使用の有力な証拠の一つに位置付けている模様だ。
 
ただ、米国はシリアやイラクで大量の通信を傍受しているため、当初は詳細に解析されず、シリアが化学兵器を使うことを米政府は事前に察知できなかったと、同高官は強調しているという。(後略)【4月13日 読売】
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“シリアが化学兵器を使うことを米政府は事前に察知できなかった”とは言っていますが、実際はアメリカは事前に知っており、それを「証拠」として公表すると、化学兵器使用をアメリカが止めなっかたことも明るみに出るために詳細の公表はできない・・・という話でしょうか????。