チベット  僧侶焼身自殺でチベット僧拘束、外国人立ち入り禁止 | 碧空

チベット  僧侶焼身自殺でチベット僧拘束、外国人立ち入り禁止

碧空-ロブサン・サンゲ氏
(チベット亡命政府のカロン・トリパ(首相)に当選したロブサン・サンゲ氏(43)。 投票時の様子のようです。ダライ・ラマの政治引退表明によって、今後の新しい政治指導者としての手腕が期待されます。
“flickr”より By thepoeticdream
http://www.flickr.com/photos/poeticdream/5547331890/ )

【過去の亡命政府の政治との決別】
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(75)が、権限を「自由な選挙で選ばれた指導者」にたくして政治的指導者の地位から退きたいと表明したことから、選挙の行方に注目が集まっていたチベット亡命政府の首相選挙については、3月21日ブログ「チベット ダライ・ラマ14世の政治引退表明のなかでの新首相選挙」(http://ameblo.jp/azianokaze/day-20110321.html
)でとりあげましたが、予想されたように米ハーバード大学で国際法を研究しているロブサン・サンゲ氏(43)が新首相に当選しました。

****チベット亡命政府の新首相にハーバード大のサンゲ氏*****
2011年04月27日 18:35 発信地:ダラムサラ/インド
インド北部ダラムサラにあるチベット亡命政府の首相を選ぶ選挙は27日、米ハーバード大学の研究員、ロブサン・サンゲ氏(43)が当選した。
亡命政府の選挙管理委員会によると、国際法が専門のサンゲ氏は55%の得票を得て、2人の対立候補を大差で破り当選した。インドおよび海外在住の亡命チベット人8万3400人のうち、4万9000人以上が投票に参加したという。

インド北東部生まれで、生涯で一度もチベットを訪れたことがないサンゲ氏の当選は、年配の宗教関係者が占めてきた過去の亡命政府の政治との決別を意味する。
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世(75)が、政治的指導者の地位から退く意向を表明していることから、政治的な権限は新首相に移譲される見通しだ。
このため、チベットの精神的指導者の地位は引き続きダライ・ラマにあるが、サンゲ氏には、これまでの首相以上に重要な役割を担うことになる。

サンゲ氏は、チベットの独立ではなく、ダライ・ラマの中道路線を継承した「意義ある自治」を求めていくことを明言している。【4月27日 AFP】
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一度もチベットを訪れたことがないサンゲ氏が、どのようにチベットの人々をリードしていくのかには懸念も感じられますが、膠着して身動きがとれない中国とダライ・ラマの関係とは別の動きが出てくることを期待します。

【「寺院での法制宣伝教育の実施は正常な宗教秩序を維持するためのものだ」】
一方、中国の対チベット政策は相変わらず強硬で、最近でも中国四川省アバ・チベット族チャン族自治州アバ県で3月16日におきた若いチベット僧侶焼身自殺をめぐって、チベット僧の拘束、その混乱に伴う住民死亡などが報じられています。

****中国:チベット僧300人以上を拘束****
亡命チベット人のニュースサイトや国際支援団体によると、中国四川省アバ・チベット族チャン族自治州アバ県で21日夜、治安部隊がチベット仏教寺院「キルティ僧院」の僧侶300人以上を拘束したほか、僧侶の連行を阻止しようとしたチベット族の住民と部隊が衝突し、住民2人が死亡した。
支援団体は、死亡したのは60歳代の男性と女性としている。拘束された僧侶はトラック10台に乗せられたが、どこに連行されたかは不明という。

中国国営新華社通信は23日、地元当局が僧侶に対する法律教育を実施するとの通知を出したと伝えた。当局が僧侶を別の施設に移し思想教育を強化するものとみられる。英語版でのみ配信された記事は「一部の僧侶による反社会的な活動」を理由に挙げており、中国当局が国際社会に向け、僧侶に対する締め付けの正当性を主張する狙いもありそうだ。

キルティ僧院では3月16日に若い僧侶が焼身自殺をしたことから緊張が高まっていた。08年3月にチベット自治区ラサで起きた大規模暴動から3年になるのに合わせ、中国当局のチベット締め付けに抗議したとみられる。
チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世は今月15日に声明を発表。「僧院には約2500人の僧侶が暮らしているが、武装警察部隊に完全に包囲され、食料や物資を運び込むことができない」と指摘していた。これに対し、中国外務省の洪磊(こうらい)副報道局長は19日の定例会見で、「僧侶の生活や宗教活動、現地の社会秩序はすべて正常だ」と述べていた。

同自治州では、08年のチベット自治区での暴動を受け、僧侶や住民らがデモ行進し、治安部隊の発砲で少なくとも15人が死亡したと亡命チベット人組織が指摘している。【4月23日 毎日】
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焼身自殺した若いチベット僧については下記のように報じられています。
“事件は3月16日、チベット仏教の重要寺院であるキルティ僧院で起きた。直後に現地で僧院の僧に聞き取りした関係者によると、同日夕、同僧院から1人で歩いて街に出た「ルオサン」という僧名の青年僧が、突然「チベットに自由を」「ダライ・ラマ万歳」と叫び、ガソリンをかぶって火をつけた。”
“僧侶に聞き取りした関係者によると、青年僧は遺書も遺言も残さなかったが、以前から中国当局の民族政策に不満を持ち、チベット語で勉強できる民族学校が閉鎖されたり、ダライ・ラマ14世側が認定したチベット仏教の指導者パンチェン・ラマ11世が失踪したりしている現実を嘆いていた。2008年3月の騒乱にも加わり、犠牲になった仲間の法要のたびに激しく泣いていたという。”【4月22日 朝日】

中国外務省の洪磊(こうらい)副報道局長は26日の定例会見で、アバ県で治安部隊が僧侶を拘束し、巻き添えで住民2人が死亡したと伝えられたことについて「寺院での法制宣伝教育の実施は正常な宗教秩序を維持するためのものだ」と強調しています。

【外国人を締め出して何をするのか・・・】
こうした緊張の高まりを受けて、四川省アバ・チベット族チャン族自治州などへの外国人の立ち入りが禁止されています。
****四川省チベット自治州、外国人の立ち入り禁止****
中国当局とチベット族住民の緊張の高まりで、四川省アバ・チベット族チャン族自治州などへの外国人の立ち入りが禁止されたことが分かった。同自治州にある人気観光スポット九寨溝は禁止区域から除外されている模様だが、地元旅行会社に受け入れ自粛の動きが出ている。一方、同自治州でチベット僧300人が拘束されたとの情報もある。

禁止区域は、同自治州と同省甘孜チベット族自治州。省内の複数の旅行会社によると、数日前に同省旅遊局が外国人の立ち入り禁止を通告した。「現地で騒乱があったため」との説明だったという。解禁時期は不明で、ある旅行会社の担当者は「メーデーの連休も厳しいと思う」と話した。(後略) 【4月24日 朝日】
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中国有数の観光スポットである九寨溝については、23日の段階で九寨溝へのツアーは禁止されていないが、四川の業者の多くは「外国人の受け入れはやめている」とのことです。
九寨溝へのツアーはともかく、外国人を締め出して何をするのか・・・という根本的な疑問がありますが、中国当局はチベット問題に関しては譲る気配はありません。

【青海省地震復興計画でもチベット住民の不満】
チベット問題に関連しては、昨年4月に起きた青海省地震の被災者の当局に対する不満も表面化しています。
****中国:復興計画に不満の声…青海省地震から1年****
約2700人の死者と約24万人の被災者を出した中国青海省玉樹チベット族自治州の地震は、昨年4月14日の発生から1年が経過。住宅建設などの復興事業は一定程度進んだが、復興計画に基づく立ち退きなどを巡って被災者から不満の声が高まっている。チベット族が大半を占め、分離独立運動がくすぶる地域だけに、中国政府は神経をとがらせている。

新華社によると、中国政府は昨年末までに50億元(約643億円)を投入。農民用の住宅約1万1700戸、都市住民用住宅約1万3700戸を建設した。今年はさらに200億元を投入する計画だ。
ただ、復興計画では倒壊した市街地の住民らを別の区域に移動させることになっている。住民の間には政府に対する不信感が根強く、香港メディアなどによると、4月には1000人以上の住民が補償金支払いの公平性などをめぐってデモを行い数十人が拘束されたという。被災地に住むチベット族の僧侶、ロージャンさんは「実行段階で問題が起きている」と不満を述べた。【4月16日 毎日】
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チベット問題やウイグル族問題は中国政治を硬直化させており、中国の政治改革に対する足かせとなっています。
当分は変革は期待できないように見えます。