カンボジア  水祭りの惨事 進まないカンボジア特別法廷 | 碧空

カンボジア  水祭りの惨事 進まないカンボジア特別法廷


碧空-水祭り 群衆
(プノンペン 橋の上でパニック状態になり押し合う群衆 “flickr”より By NotiZulia
http://www.flickr.com/photos/notizulia/5199160531/ )

【「ポル・ポト派時代以来の最悪の悲劇だ」】
カンボジアから大きな事故のニュース。
****見物客ら345人死亡=「水祭り」でパニック―カンボジア****
AFP通信によると、カンボジアの首都プノンペンで22日夜、年中行事「水祭り」に集まった見物客がメコン川に架かる橋の上で折り重なるように倒れ、少なくとも345人が死亡、400人以上が負傷した。外国人が巻き込まれたとの情報はまだない。
フン・セン首相がテレビを通じて発表、「(人口の4分の1が死亡した)ポル・ポト派時代以来の最悪の悲劇だ」と述べ、25日を追悼の日にするとした。事故の原因究明のための委員会も立ち上げる。
詳しい事故原因は不明だが、AFPは政府報道官の話として、犠牲者のほとんどは窒息と内臓の損傷が死因だと伝えた。報道官は、見物客の間に橋が壊れそうだとのうわさが広まり、逃げ場のない混雑した場所でパニックになったとの見方を示した。
目撃者によると、市街地と川の中州ダイヤモンド島を結ぶ狭い橋の上で、見物客の中で押し合いが始まった。川に飛び込む人も多かったという。【11月23日 時事】 
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プノンペンはトンレサップ湖からのトンレサップ川とメコン本流が合流する地点にあり、水祭りは元来、メコンの与えてくれる恩恵に感謝を込め、陰暦の満月に合わせて開催されます。
トンレサップ川沿いのウォーターフロントは、外国人観光客を相手にするレストラン、バー、ホテル、マッサージ店などが立ち並び、普段は欧米人が溢れているエリアですが、水祭りの期間にはカンボジア全土から300万人もの人々がプノンペンに集まり、このエリアも人々で埋め尽くされます。

昼間はトンレサップ川でカラフルなドラゴンボートのレースが行われ、夜になると王国の紋章やハヌマン、ナーガなどを無数の電球で形どった大きな浮船が色鮮やかに人々の目を楽しませてくれる祭りです。


碧空-水祭り 救助
(救助される犠牲者 “flickr”より By NotiZulia
http://www.flickr.com/photos/notizulia/5199754760/  )

【カンボジア特別法廷の幕引き】
今回事故は確かに大惨事ではありますが、人口の4分の1が死亡したポル・ポト派時代の大虐殺には比べようもありません。
そのポル・ポト時代の責任者を裁くカンボジア特別法廷の審議については、7月、ツールスレン政治犯収容所での犯罪を問われたカン・ケク・イウ元収容所長(67)(通称ドッチ)に実刑判決が言い渡されました。
ただ、彼は一応罪を認めていますが、立場的には政権の末端にあった人物です。
政権中枢にあった政権ナンバー2だったヌオン・チア元人民代表議会議長(84)、イエン・サリ元副首相(84)、キュー・サムファン元幹部会議長(79)、元副首相の妻イエン・チリト元社会問題相(78)については、本人らが虐殺への関与を否定し、裁判には非協力的な姿勢を貫いており、審議は進展していません。
ポル・ポト自身は死亡している現在、彼ら4名の最高幹部の審議は、なぜあのような惨劇が起こったのかを明らかにするうえでどうしても必要です。

本来であれば、ポル・ポト時代の惨劇の責任者は当然ながら彼らに限定されるはなしではなく、その周辺にいた多くの者が関与しています。
責任者の範囲を広げるべきとの意見は国際的には強くありますが、フン・セン首相は現在拘束している5名で幕引きを図りたい意向と伝えられています。

****首相がポル・ポト裁判の幕引きを急ぐ訳****
もうこれ以上、ポル・ポト派は裁かない----カンボジアのフン・セン首相は10月末、同国を訪れた国連の浦基文事務総長に対し、元ポル・ポト派の裁判を来年で終わらせると告げた。
カンボジアでは、ポル・ポト政権時代の75~79年に国民200万人が虐殺された。国連とカンボジア政府が裁判権を共有する特別法廷が設置され、政権元幹部らが裁かれている。今年7月には政治犯収容所の元所長に実刑判決が下された。ほかに起訴されている元最高幹部4人の公判は来年始まる予定だ。
この5人以外の元ポル・ポト派も起訴すべきだという動きが高まっているが、フン・センは否定的だ。告発される恐れがある者の多くは、彼の友人や元同志。フン・センは保身に走る仲間に自分の過去を暴かれるのが心配なのだろう。
裁判はテレビ中継されているが、家に電気が通っていなかったり関心がなかったりで見ている人は少ない。国民にとっては、自分が生まれる前の政権に正義を下すことより、口々の生活のほうが大事なのだろう。だが、あの「暗黒の時代」から目を背けていてはカンボジアの未来は開けない。【11月17日号 Newsweek】
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フン・セン首相自身がもとはクメール・ルージュに属していた過去がありますので、あまり過去に触れたくないという気持ちはあるのでしょう。かつてのポル・ポト派兵士がまだ力を温存している地域もありますので、それを刺激したくない事情もあるでしょう。
それだけでなく、“「暗黒の時代」から目を背けていてはカンボジアの未来は開けない”との考えの一方で、一定年齢以上の国民の殆んどが惨劇に巻き込まれ、家族に多くの犠牲者を抱えているなかで、あまりこの問題にかかわっていては社会全体が不安定化し、先に進めない・・・との事情も分からなくはありません。生き残った人間には今日と明日が問題です。
どうするかは、カンボジア国民が決定するべき問題ですが、現在のカンボジアの政治事情からすれば、フン・セン首相の意向が大きく影響しそうです。