アメリカ・中国のパワーゲーム  南シナ海・ベトナム、黄海軍事演習への原子力空母参加 | 碧空

アメリカ・中国のパワーゲーム  南シナ海・ベトナム、黄海軍事演習への原子力空母参加


碧空-南シナ海
(中国が主張する南シナ海領有権 西沙諸島(Paracel Islands)はベトナムと、南沙諸島(Spratly Islands)は東南アジア5カ国と領有をめぐって争っています。 地図で見る限りは、中国の主張は強引な感もしますが・・・“flickr”より By patpbui http://www.flickr.com/photos/23681731@N07/4774095391/ )

【「核心的利益」対「国益」】
中国は、南沙諸島や西沙諸島の領有権で東南アジア各国との軋轢がある「南シナ海」を、台湾やチベット、新疆ウイグル両自治区などと並ぶ「核心的利益」と位置付け、今後更にこの地域へのプレゼンスを強める意志を明確に示しています。

一方、アメリカもクリントン国務長官が、ハノイで23日に開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)で冒頭発言の3分の1を「南シナ海問題」の説明に充て、(1)南シナ海の「航行の自由」が米国の国益(2)領有権問題の外交解決(3)武力行使や威嚇に反対--を主張。
これに対し中国外務省は25日、「中国を攻撃するものだ」、「(東南アジア諸国を)脅迫している」と、反ばくする楊外相の談話を発表しています。

このように、南シナ海は、海上覇権を目指す両国、中国の「核心的利益」とアメリカの「国益」がぶつかる舞台となりつつあることは、7月31日ブログ「南シナ海での存在感を強める中国、アメリカとの覇権争いも」(http://ameblo.jp/azianokaze/day-20100731.html
【アメリカの関与で軋轢を増す中越関係】
この流れの中で、中国の進出を警戒するベトナムがアメリカに接近する・・・という構図で、ベトナム・中国の間の緊張も高まっています。

****南シナ海領土問題 米への急接近 中国、ベトナム批判強める****
中国とベトナムの関係がぎくしゃくしている。東南アジアで経済・軍事的影響力を拡大させる中国に警戒を強めていたベトナムが最近、米国との協力関係を強化、これに中国側が疑心を募らせている。8月に入ってから双方の非難合戦は激しさを増すばかりだ。

中国外務省の姜瑜報道官は6日、定例会見が行われない夏季休暇中にもかかわらず、国内メディアの記者の質問に答える形で、ベトナムに関する2つの問題でコメントを発表した。
1つ目は、中越両国が領有権を主張する南シナ海のパラセル(中国名、西沙)諸島問題。同海域で中国の船舶が活動していたことについて、今月、「主権侵害だ」と中国を批判したベトナム政府に対し、「中国の西沙諸島への主権を侵犯するいかなる言動にも中国は断固反対する」と強い調子で反発した。
2つ目は、米越原子力協定交渉についてで、米国がベトナムにウラン濃縮を例外的に容認するとの報道に、「各国は核の平和利用と国際協力の権利を有するが、核不拡散への義務も順守すべきだ」と不快感を表明した。

1979年の中越戦争以降、中国とベトナムは民間貿易などを通じて少しずつ関係を好転させ、91年に国交を回復した。近年は両国首脳が相互訪問するほどの関係にまで発展していたものの、未解決の領土問題のほか、ベトナムに進出する中国企業への住民の反発など、対立の火種を抱えているのが実情だった。
こうした中越両国の微妙な関係に影響を与えたのが、対東南アジア外交に力を入れ始めた米国だ。クリントン米国務長官が7月下旬、安全保障や経済、環境問題でベトナムと協力を強化する方針を発表。中国と東南アジア諸国などが領有権を争うスプラトリー(中国名、南沙)諸島や、パラセル諸島を抱える南シナ海への関与姿勢も示した。
こうした中、香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは7日、中国人民解放軍が広東省韶関(しょうかん)にミサイル基地を新設、数週間前に戦略核ミサイル部隊を配属したと報じた。南沙・西沙諸島の大半を射程に入れる弾道ミサイルが配備される可能性があるという。【8月8日 産経】
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ともに事実上の共産党一党支配体制で、また、「改革・開放路線」「ドイモイ」のもとで市場経済を重視した経済拡大を続けている隣接する両国ですが、歴史的経緯もあって、あまり良好な関係とは言い難いところがあります。
(隣接する民族・国家が侵略・支配の歴史、近親憎悪的な感情を有することは、古今東西で一般的にみられるところです。)

上記産経記事にもあるように、中国とベトナムの間では首脳の相互訪問などで関係改善は進んでいますが、“現代の中越関係は、ベトナム戦争期における社会主義兄弟国としての友情、カンボジア問題をめぐる憎悪と対立を経て、いまやビジネスライクに共通利益を目指す共存関係に変わりつつあるが、南沙諸島の領有権を巡って領土問題は残されており、近年も双方の武装船が相手方漁船を銃撃する事件がたびたび起こっている。”【ウィキペディア】という状況です。

中国が問題にしているのは、西沙諸島における領有権問題と、もうひとつがアメリカとベトナムの原子力協定の問題です。

****ウラン濃縮容認か 核不拡散「二重基準」批判も 米、ベトナムと原子力協定交渉*****
米国が核燃料や原子力発電技術での協力を促進する協定締結に向け、ベトナムとの交渉を進めている。ベトナムは今後20年以内に原子力発電所を13基建設する計画で、協定締結はこうした事業への米国企業の参入に道を開く。
ただ、協定ではベトナム独自のウラン濃縮を例外的に容認する可能性があり、核不拡散に関する「二重基準」の批判を招く危険性もはらんでいる。ウラン濃縮容認の場合、核問題で米欧から非難されているイランが反発するのも不可避だ。(中略)
一方、米メディアによると、ベトナムがウラン濃縮の放棄を受け入れる可能性は低く、米国も黙認する姿勢に傾いているとされる。
だが、米国はすでに原子力協定を結んだアラブ首長国連邦や交渉中のヨルダンには核不拡散を理由に濃縮放棄を求めており、ベトナムの特別扱いはオバマ政権の核不拡散戦略に影を落とすことになりかねない。【8月8日 産経】
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アメリカの原子力協定では、核拡散防止条約(NPT)枠外の核保有国インドとの協定も「二重基準」との批判があります。インドとの協定を押し通したのは、台頭する中国を牽制する思惑がありますが、今回のベトナムへの接近も同様の思惑があるのかも。
いずれにしても、アメリカは「国益」のためには「基準」も相当弾力的に運用するようです。

【再燃した黄海軍事演習問題】
米中両国は、北朝鮮による韓国哨戒艦沈没事件を受けた米韓合同軍事演習でも対立を表面化させています。
黄海での米韓の軍事演習に対抗する形で、中国も演習を活発化させています。
“中国人民解放軍が、先月末から今月初めにかけて黄海周辺や南シナ海で最新鋭の兵器を投入した演習を相次いで行うなど活動を活発化させている。中国の世論は米国が朝鮮半島や南シナ海への関与を強めていることに反発しており、人民軍の動きも、米国による「封じ込め」への警戒感の高まりが背景にあるようだ。”【8月4日 毎日】

一方、アメリカは、中国が「裏庭」とする黄海での演習への原子力空母ジョージ・ワシントンの参加を、中国の反発も考慮して一旦は取止め日本海での演習参加にとどめましたが、ここにきて、再び黄海演習への同空母参加を明らかにしています。
****米原子力空母、黄海で軍事演習参加へ 中国反発の可能性****
米国防総省のモレル報道官は5日の定例会見で、韓国哨戒艦沈没事件を受けた米韓合同軍事演習の一環として、米海軍原子力空母ジョージ・ワシントンを数カ月以内に黄海での演習に参加させる方針を明らかにした。同空母の黄海での演習を懸念してきた中国が激しく反発する可能性がある。(中略)
国防総省などによると、同空母が最後に黄海を運航したのは昨年10月で、これまでも黄海での演習に参加してきたという。【8月6日 朝日】
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アメリカも中国に譲歩したと見られる政策は、国内保守派の反発などでとりにくいのでしょうか。
イラン制裁を巡っても、アメリカを中心とする国際社会が制裁を強めているなか、中国が逆にイランとの経済関係強化に動き出していることに対し、アメリカは不快感を強めています。
しかし、石油採掘事業を含め、イランとの経済関係を深めている中国にすれば、3日に発表されたアメリカの追加制裁そのものが不快ということにもなります。
中国は、国際的批判に対し、(イランへの投資は)正常なビジネスのやりとりで、安保理の制裁決議に違反していない。他国や国際社会の利益を損なうこともない」と反論しています。【8月6日 産経より】

再燃した黄海演習への米原子力空母参加問題については、いまのところ中国側は比較的柔軟に対応しているとも報じられています・
****中国:再考求める談話 強硬姿勢に変化?米空母の黄海派遣****
米国防総省が原子力空母ジョージ・ワシントン(GW)を中国に近い黄海に派遣する方針を発表したことに、中国外務省の姜瑜副報道局長は7日、「中国側の関心と立場に厳粛かつ真剣に対処するよう促す」と再考を求める談話を発表した。米中関係の極度の緊張を回避するため、中国側はこれまでの「断固反対」姿勢から、柔軟に話し合う姿勢に転じた模様だ。(中略)
中国政府関係者はGWの黄海派遣に猛反発してきたことについて、「中国は、米国防総省内の対中強硬派をオバマ大統領が抑えてくれることを期待している」と明かす。中国側が反発のトーンを落としたのも、大統領が外圧に屈したとの印象を持たれないようにし、結果的に大統領に行動を促すためとの見方だ。

米中関係を巡っては、中国が南沙(スプラトリー)諸島などで周辺国と領有権を争う南シナ海に米国が関与姿勢を強めて緊張が高まっていた。中国は南シナ海の「核心的利益」(当局者)を守るためにも、前例のある米空母の黄海派遣で決定的に対立することは得策でないと判断した模様だ。
姜副局長は談話で「米韓合同演習問題で、中国側の明確で揺るぎない立場を何度も表明してきた」とも述べ、演習への反対姿勢を変えていないことを確認している。これは中国国内の対米強硬世論への配慮とみられている。
中国主要メディアはGWの黄海派遣方針について、事実関係だけを短く報じている。一方、中国の外交政策に詳しい香港誌「鏡報」最新号は「黄海については中国の伝統的な対米強硬路線から硬軟両様への変化がみられる」と指摘している。【8月7日 毎日】
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相手の出方を窺いながらの、いつもの大国間のパワーゲームです。
これ以上、南シナ海や日本近海での波を高くしてほしくないところですが、なかなかそうもいかないようです。
なお、こうした米中間の対立表面化のため、9月とみられていた胡錦濤国家主席の公式訪米が延期される見通しになったとも報じられています。