チャド  国連PKO撤退を要請  安定化したのか? | 碧空

チャド  国連PKO撤退を要請  安定化したのか?


碧空-チャド 反政府勢力
(08年2月 攻勢をかけたチャド反政府勢力の兵士 かなり幼いようにも見えますが・・・ “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos
http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/2242906009/ )

【チャド政府:PKO撤退を要請】
アフリカでスーダンと国境を接するチャドは、世界最悪の人道危機と呼ばれたスーダン西部ダルフール地方の紛争に絡んで多数の難民を抱え、また、スーダンとチャド双方が相手国の反政府組織を支援しあう形で対立していました。
そのチャド政府が、スーダンとの関係改善もあって、PKOのチャドからの撤退を要請、国連安保理もこれを採択したそうです。

****チャドPKO撤退を採択 政府の要請で安保理*****
国連安全保障理事会は25日、国連平和維持活動(PKO)の「中央アフリカ・チャド派遣団」を撤退させる決議を全会一致で採択した。チャド政府が撤退を要請していた。受け入れ国の求めでPKOが撤退するのは異例。
同派遣団は2007年、隣国スーダン・ダルフール地方からの難民保護などを目的に設立。チャドでは大統領選が近く予定され、治安維持能力をアピールしたい思惑に加え、スーダンとの関係改善などがPKO撤退を求める理由としてとりざたされている。しかし、実際の治安情勢は流動的で、撤退による治安の悪化を懸念する声も強い。【5月26日 朝日】
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【スーダンとチャドの関係正常化、ダルフール停戦】
確かに、今年1月スーダンとチャドは、関係正常化の取り組みの一部として、それぞれの領土への反政府勢力の駐留を止めさせ、その活動を停止させるため国境合同軍を配備することに合意しました。
2月には、チャドのデビ大統領がスーダンを訪問し、敵対関係の終結に合意しています。

こうしたスーダン・チャドの関係改善を受ける形で、ダルフール紛争についても、スーダン政府と最大の反政府勢力「正義と平等運動(JEM)が2月23日、仲介国カタールの首都ドーハで、和平の枠組み合意に正式署名して停戦しました。
****ダルフール停戦成立 政府と反政府勢力が正式署名*****
世界最悪の人道危機と呼ばれたスーダン西部ダルフール地方の紛争で、スーダン政府と最大の反政府勢力「正義と平等運動(JEM)」は23日夜、仲介国カタールの首都ドーハで、和平の枠組み合意に正式署名し、停戦した。
国連の推計で30万人が犠牲になった紛争の解決に大きな期待がかかる。だが、JEMとの交渉は過去に失敗例がある上、20日に合意がまとまった後も政府軍とJEMの衝突が起きたとされる。交渉期限である3月15日までに、最終合意できるかは不明だ。また、ほかにも反政府勢力が20近くあり、全体の和平交渉は難航している。
AFP通信などによると、枠組み合意は12項目。交渉期限や停戦、避難民らの帰還、政府による被害者への補償のほか、JEMの政党化と政権参加に合意する内容だ。(後略)【2月24日 朝日】
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しかし、最終合意に向けた交渉は難航し、継続協議に入ったことが報じられていました。
****スーダン:和平合意至らず、継続協議に ダルフール紛争*****
アフリカ北部スーダンの西部ダルフール地方の紛争を巡って先月23日、和平枠組み合意に調印したスーダン政府と主要反政府勢力「正義と平等運動(JEM)」などは、期限として定めた15日を過ぎても最終合意に至らず、カタール・ドーハでの継続協議に入った。AP通信が伝えた。
政府は4月に予定される大統領選など総選挙を前に最終合意を実現したい方向だ。しかし、和平合意に参加しているのは、20以上ある反政府勢力の一部だ。JEMは数百万人のダルフール避難民の選挙参加を求め、選挙の延期を要請。また、政府が他反政府勢力とも並行して交渉していることに不快感を示している。【3月16日 毎日】
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小規模組織10派が2月に統合した組織「解放と正義運動(LJM)」は、3月18日、スーダン政府との間で和平交渉の枠組み合意に調印、3か月の停戦に入りました。
最大組織「正義と平等運動(JEM)」は、こうした政府とLJMとの合意に強く反発しています。

【なおも続く戦闘】
その後、スーダンは大統領選挙に突入し、「正義と平等運動(JEM)」との最終合意交渉がどうなったのかよくわかりません。
よくわかりませんが、ダルフール及びチャド・スーダン国境付近の情勢はそんなに安定している訳もないようです。今月初めには、チャド東部スーダン国境近くで247人の死者を出す戦闘があったことも報じられています。

*****チャド東部スーダン国境近くで激しい戦闘、247人死亡*****
アフリカ中部チャドの東部のスーダン国境近くで政府軍と反政府武装勢力との戦闘が激化し、8日までの2日間に247人が死亡した。チャド政府は反政府勢力がスーダン政府の支援を得ているとして、スーダン政府を批判している。
AFP通信などによると、スーダン西部ダルフール地方を拠点にするチャドの反政府勢力が、4日ごろに国境を越えて侵攻してきたという。首都ヌジャメナの 東約600キロの町アムダムなどで激しい交戦となった。チャド政府は8日、前日からの戦闘で反政府勢力の民兵225人が死亡、政府軍も22人が犠牲になっ たと明らかにした。
チャド東部には「世界最悪の人道危機」と呼ばれるダルフール紛争のスーダン難民が約25万人おり、チャドの国内避難民も約16万人いる。戦闘でNGOや国連の援助活動に支障が出ている。
チャド政府は、背後にスーダン政府が絡んでいるとして批判、スーダン政府は「チャドの国内問題」と否定している。両国はこれまでも互いに反政府勢力を支援していると批判し合ってきた。5月に入りカタールの仲介で関係正常化に合意したばかりだった。【5月9日 朝日】
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【権力と金をめぐる争い】
こうして見ていくと、PKO「中央アフリカ・チャド派遣団」の撤退は大丈夫かしら・・・という感がします。
もっとも、かねてより、外国勢力、特にフランスがチャドの独裁政権を支えているとの批判もありました。
チャドには、国連PKO「中央アフリカ・チャド派遣団」に連携してアフリカ連合ダルフール派遣団(AMIS)や欧州連合部隊 チャド・中央アフリカ(EUFOR Tchad/RCA)も活動しています。
今回のPKO撤退で欧州連合部隊EUFORはどうなるのでしょうか?

欧州連合部隊の中核は旧宗主国フランスで、08年2月の反政府勢力攻勢の際には、ミラージュ戦闘機による攻撃などで政府軍を支持する軍事介入を行ったとの反政府勢力側からの批判もあります。
デビ大統領にしても、反政府勢力にしてもあまり評判はよくないようです。

****チャドはいつの日か主権を失うのではないか*****
(08年)1月31日、イドリス・デビ大統領の転覆を目指し反政府3派がンジャメナ攻撃を開始。数日間の戦闘の後、フランスに支援された政府軍隊が鎮圧に成功した。しかし、同戦闘により民間人約160人が死亡。数万人が避難を余儀なくされた。チャド政府は、隣国スーダンが反政府グループを支援していると非難。これに対し、スーダン政府はデビ政権がダルフールの反乱グループを支援していると非難している。
この様な状況下、スイス在住の反対派リーダー、モーリス・ヘル・ボンゴ氏は、アムネスティ・インターナショナルに対し次のように語った。

ンジャメナを攻撃したのはマハマト・ノウリ、ティマネ・エルディミそしてアブデルワヒドだ。ノウリは、ハブレおよびイドリス・デビ政権の閣僚で、デビの義理の兄弟だ。また、エルディミはデビの甥で、長い間デビの首席顧問を務め、彼の政策を指導してきた。彼らの経歴からして、突然民主主義者になったとは思えない。彼らが欲しているのは権力と金だ。チャドは石油産出国になって、多くの金があるのだから。デビは、開発政策を推し進め自身と血族のために金を得たいのだ。

チャドは、北部はイスラム教、南はキリスト教と土着宗教に分かれている。北部の指導者はスーダンを始めとするアラブ諸国にチャド問題の本質は宗教であると告げている。スーダンはチャドに対し強い影響力を持っており、その力は、人種差別主義政府になってから更に悪くなっている。
デビは、チャドとスーダン国境およびダルフールに住むザガワ族の出身で、この部族はスーダン政府から軽んじられてきた。デビは、大統領になる前からダルフールのザガワ族の支援を約束していた。
フランスの介入は逆効果だ。フランスは、アフリカに民主政権が誕生することを欲していない。彼らは腐敗したリーダーを望んでいる。だから独裁者のデビを支援しているのだ。【IPSJapan2008/02/28】
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スーダンとチャド、政府側と反政府勢力側、更に権益を求める外国勢力・・・住民の生命・安全を委ねるべき存在は?