移民問題  イタリア・フランス・オーストラリアの場合 | 碧空

移民問題  イタリア・フランス・オーストラリアの場合


碧空-フランス 移民
(フランス 労働許可が得られない不法移民のデモ “”より By austinevan 
http://www.flickr.com/photos/austinevan/3274621603/ )

日本とは異なり多数の移民を抱える欧州・オーストラリアから、移民に関する記事が入っています。

【「ここはアフリカじゃない」】
****イタリア:アフリカ系移民、迫害に抗議 住民と衝突*****
イタリア南部カラブリア州ロザルノで7日以降、アフリカ系移民の農場労働者が差別などに抗議してデモ行進し、地元民と衝突する事態に発展している。9日までに警官を含む67人が負傷した。マローニ内相は当初、「不法移民に甘すぎた」と移民側を一方的に非難し、暴力をあおる結果となった。これまでに約500人の移民が、当局の用意したバスで遠方の都市に脱出した。
地元紙によると6日、ロザルノ郊外で果樹栽培のアフリカ系移民2人が空気銃で撃たれ、重傷を負った。7日、「差別だ」などと書かれたプラカードを手に移民らがデモ行進。「出て行け」と叫ぶ地元住民や警官とぶつかり、商店のガラスや車を壊す暴動に発展した。その後、「移民狩り」や「報復」を唱える者が移民らを襲撃。3人がショットガンで撃たれ重傷を負った。

ロザルノ周辺では、北部の工業地帯などで失業した移民約1000人が日給25ユーロ(3300円相当)ほどで果樹の摘み取り作業などに従事。チーズ工場やサイロの廃虚などで暮らしていた。
イタリアの失業率は10%だが、南部では20%を超す。地元民は低賃金で重労働の農業を嫌い、移民と職を奪い合うことはない。だが、ベルルスコーニ首相は度々、「イタリアは多文化じゃない」「最近、町が汚い。ここはアフリカじゃない」などと移民排斥感情をあおるような発言を繰り返しており、社会には失業を外国人のせいにする風潮が広まっていた。【1月10日 毎日】
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別記事【1月10日 AFP】によれば、“9日には衝突は沈静化し、地元住民が設置したバリケードは道路から取り除かれ、商店も営業を再開。(中略)地元住民らは移民を乗せたバスが街を去るのを見て、歓声を上げた。
ガーナ出身のフランシス(25)さんは、まだ受け取っていない給料が200ユーロ(約2万7000円)あるものの、恐怖のためロザルノに残ることができないと語った。「逃げなければ殺される」と語り、「働くためにここに来たのに、ここの人たちは自分たちに発砲するんだ」と述べた。”とも。

【「フランス人を定義し、国民の誇りを再確認しよう」】
****フランス:「フランス人とは何か」サルコジ政権が問い ゆがむ論議、広がる反発*****
 ◇「崇高な運動」か「移民・イスラム排斥」か
「フランス人とは何か」。そんな根源的な国民論議がフランスで続いている。国民の10人に1人が移民(不法移民も含む)であるという現実を前に、保守派のサルコジ政権が「フランス人を定義し、国民の誇りを再確認しよう」と呼び掛けた。フランス語を話す、国歌を歌える、伝統的な政教分離主義を守る、などさまざまな意見が出る一方で「こうした論議自体、移民やイスラム教徒の排斥につながる」との反発も強くなっている。【パリ福原直樹】

 ◇国歌斉唱は義務?
政府が昨年10月、国民に求めた論議のテーマは「仏国民とは何か」「フランスや仏国民のアイデンティティー(価値観など)を移民がどう共有するか」の2点。移民省は全国約450カ所で討論集会を開く一方、インターネットの公設サイトでも意見を求めている。2月にも政府報告を行う予定だ。
サイトには既に5万人が意見を寄せた。それによると仏国民の定義として、▽フランスを愛し国是の自由・平等・博愛の精神を信奉する▽(政教分離などを記載した)憲法を順守する▽キリスト教の伝統を受け入れる……などが出された。
政府はその一方で、「若者に年1回、国歌の斉唱を義務付ける」「仏語や共和国の精神を学ぶ機会を設ける」などの政策を提案した。移民らがフランスの価値観を理解する一助にしたいという。

 ◇保守派からも批判
だが、論議開始以降「反移民感情をあおるだけだ」との批判が、野党第1党・社会党や知識人、移民の間に広がった。フランスの移民は「外国で生まれた外国人で市民権取得などを目指して永続的にフランスに居住する者」との定義があり、仏国籍を取得した者も含まれる。
人口約6100万のフランスには、不法移民を除くこうした移民が約500万人居住し、イスラム教徒も約600万人(移民との重複あり)いて、同化政策は仏社会で大きな問題となってきた。
こうしたことから論議のテーマの設定自体が「移民やイスラム教徒にフランスの価値観を押し付けるものだ」との批判を呼んだ。社会党のオブリ第1書記は「(移民排斥の論議につなげることで)政府は移民に(失業などの)社会問題の責任を押し付けようとしている」と指摘した。
保守派からも批判が出た。ジュペ元首相は「論議は国内の対立、特にイスラム教徒への反感をあおった」と発言。ドビルパン前首相も「こんな重大なテーマを経済危機で団結すべき時に持ち出すべきではない」と異を唱えた。
一方、全仏組織の「イスラム教徒会議」幹部は「論議は(イスラム批判という)本末転倒の方向に向かう」と懸念を表明。「サルコジ大統領は3月の地方選を前に(ナショナリズムをあおり)移民排斥を求める極右票の取り込みを狙った」(野党・緑の党など)との指摘もあり、世論調査でも72%が「地方選を念頭にした論議」と見なした。

 ◇相次ぐ問題発言
これらの懸念は当を得ていたとも言えそうだ。国民論議の集会で、政府の家族問題担当長官は「フランスの若いイスラム教徒に望むのは職を見つけ、俗語を使わず、帽子を逆向きにかぶらないことだ」と発言した。「イスラム教との共存の可能性」を問う質問への回答だったが、これは「イスラム教徒への中傷であり、国民論議はイスラム(排除)が目的だ」(社会党など)と厳しい批判を招いた。
また仏東北部での集会では、与党「国民運動連合」の地方幹部が「(移民は)何もせず金だけもらっている」「国民論議は必要であり(移民に)反撃する時だ」と述べた。一方、与党幹部は「仏国内のモスク(イスラム礼拝所)と、キリスト教聖堂の数が等しくなれば、この国はもうフランスではなくなる」と語ったと報じられた。
「フランスのアイデンティティー確立」は、07年大統領選でのサルコジ大統領の公約で、大統領は国民論議を「フランスとは何かを知る崇高な運動」と強調している。だが当初、論議を支持した中立系のルモンド紙は、最近の社説で「論議は悪い方向に向かっている」と主張。社会党同様、論議の中止を求める立場に転換している。【1月11日 毎日】
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【「フランスのルーツはキリスト教だ」】
フランスでは、イスラム教徒の女性が公共の場で顔を覆うベールや髪を隠すスカーフを着用するのを禁止する法案(違反の場合は罰金)を与党が近く提出することが明らかになっています。
サルコジ大統領はかねてより「フランスのルーツはキリスト教だ」と強調し、「(宗教を)締め出すなど狂気のさたであり、文化や思想に背く」と主張。公的生活にも宗教を持ち込む余地を与える「前向きな政教分離主義」の持論を唱えています。
一方、イスラム教徒の女性が身体を覆って着用する衣服ブルカについては、「ブルカは宗教の象徴ではなく、抑圧のしるしだ。フランス共和国の領土では歓迎されない」と述べています。

昨年6月にサルコジ大統領と会談したオバマ大統領が、「西洋諸国は、イスラム教徒が適当と考える宗教的行為を妨げないようにすることが重要」と語り、女性のイスラム教徒がヘッドスカーフを着用する権利を擁護したのに対し、サルコジ大統領は「公務員は、カトリックであろうとユダヤ教徒であろうと、ギリシャ正教、プロテスタント、イスラム教徒であろうと、宗教的なものは身につけてはならない」と反論。また、ヘッドスカーフは、自分の意志で着用する場合には認められる、と付け加えています。【09年6月22日 AFP】

【1月13日号 Newsweek日本版】では、「大予測 2010年の世界はこうなる」と題して、「フランスで人種暴動が再発する」を挙げています。
これは、3月の統一地方選挙に向けて、左右両派が移民問題を政治問題化しようという動きがあることに関連しています。

【「レッツゴー・カレー・バッシング」】
オーストラリアでは、インド人留学生に対する暴行事件が主にメルボルンやシドニーなどの都市部で続発して問題となっています。
地元の若者数人がグループでインド人留学生を襲い、パソコンを奪ったり、ドライバーで刺したりするもので、警察によると、ほとんどが「愉快犯」といい、合言葉は「レッツゴー・カレー・バッシング」だそうです。

****豪でまたインド人襲撃 「人種差別だ」感情的対立に****
オーストラリアのメルボルンで9日、インド人男性(29)が4人組の男に襲われ、車ごと火を付けられ顔などに大やけどを負った。メルボルンでは2日にも、インド人男性(21)が公園で何者かに刺され死亡した。襲撃事件が一向に解決しないことから、インド紙は最近、オーストラリアの地元警察を人種差別主義者だと揶揄(やゆ)する漫画を掲載。これにオーストラリア側が反発するなど、感情的対立へと発展しつつある。(中略)
州警察側は「犯人も分からないのに人種差別につなげるのは、ばかげている」と非難した。
ただ、フランス通信(AFP)によると、同州内のインド人襲撃事件は昨年7月までの約1年間で1447件に上り、その後も毎月数十件発生しているだけに、州警察も焦燥感を強めている。【1月11日 産経】
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「カレー・バッシング」のような愚行は論外ですが、移民を受け入れ共存・統合を可能とする社会を築くことは現実問題としては至難の業でもあります。
オバマ大統領の発言は、協力を求めるイスラム国家向けのアピールという点を除いても、移民を前提とした国家であるアメリカと欧州各国との認識の差を示すものでしょう。