台湾  陳総統、南沙諸島訪問 関係国反発 | 碧空

台湾  陳総統、南沙諸島訪問 関係国反発


南沙 太平島
(南沙諸島太平島にある台湾領有を主張する碑 “flickr”より By kechinyuan )

台湾の陳水扁総統は2日、南シナ海で周辺各国が領有権を主張している南沙(スプラトリー)諸島の太平島を訪問しました。

南沙諸島を含む南海諸島には石油資源が眠っているとされ、南沙諸島に対しては、台湾のほか、中国、ベトナム、ブルネイ、マレーシア、フィリピンが全体もしくは一部の領有権を主張しています。
また、西沙諸島は中国、ベトナム、台湾がその領有権を主張しています。
太平島は南沙諸島最大の島で、台湾が軍用空港をつくるなど実効支配しています。

陳総統は、南沙問題を巡る話し合いが、中国とASEAN間だけで行われていることに不快感を表明、「南沙で最大の島を領有している国が排除され、台湾の権益が損なわれている」と述べ、「主権国家」としての台湾の存在を強くアピールしました。
今回の訪問は3月22日に予定されている総統選挙で、独立推進派の民進党の謝長廷候補への支持を訴えるためとも見られています。

陳総統の訪問に合わせて、南沙海域に駆逐艦を派遣しているベトナム政府は、「この行為はベトナムの南沙諸島の領有権に対する著しい侵害であり、同地域における緊張を高め問題を複雑化するものだ」と、台湾を強く非難する声明を発表しています。
また、フィリピンのロムロ外相も、「地域の平和と安定を目指す関係諸国の努力に逆行する行為であり、深刻な懸念を抱く」との声明を発表しています。


南沙 永礁暑
(南沙諸島に出遅れた中国が南沙海域の岩礁に建設した人工島“永暑礁” “flickr”より By masson2007)

この海域は従来より各国の主張が対立する地域で、80年代および90年初めには、東南アジア諸国は南沙諸島に滑走路や漁港、灯台等を建設して領有競争を展開、外国石油企業と共同で石油/天然ガスの開発を開始しました。
その後、中国は、ASEAN諸国との関係強化のため領土主張を弱め、地域全体の開発を強調するようになり、04年には、フィリピンと石油/ガス共同開発で合意。
05年にはこれにベトナムが加わり、南シナ海の埋蔵量調査に着手することとなりました。

この比較的平穏な状態は昨年末から急転しています。
中国が南シナ海の南沙諸島および西沙諸島を管理する市庁を海南島に設立することを決定、これに抗議して12月9日、ベトナムの首都ハノイにある中国大使館前で、南沙諸島と西沙諸島のベトナムの領有権を主張する数百人規模のデモが行われました。
ベトナムでは抗議集会自体が禁じられていますので、警官隊の監視の下で行われたこの抗議デモはベトナム政府の意向を代弁したものと見られています。

1月末には、この問題を話し合うため中国の唐家セン国務委員とベトナムのファム・ザー・キエム副首相が北京で会合しましたが、中国は南シナ海諸島の領有権主張を再開したそうです。
そのような情勢での今回の陳総統訪問ですので、今後この海域の波は更に高くなりそうです。



西沙 永興島
(こちらは中国が実効支配する西沙諸島最大の永興島 大胆に滑走路が島を串刺しにしています。 “flickr”より By masson2007)

先述のように、陳総統の太平島訪問は独立推進派の主張をアピールするものですが、同様の流れで問題になっているのが、3月総統選挙で併せて行われる予定の「台湾名義での国連加盟の賛否」を問う住民投票です。
“ひとつの中国”を否定する「形を変えた台湾独立投票である」として中国は当然反発していますが、東アジアの均衡を壊しかねない問題としてアメリカも懸念を強めていました。
なお、野党国民党は「中華民国名義」での国連復帰の住民投票を、与党提案に対抗する形で総統選挙時に同時に行うかまえをみせていました。

しかし、1月の立法院選挙で与党が大敗したこと、また、立法院選で与党民進党が提出した別の住民投票に国民党が棄権を呼びかけ投票率が成立に必要な5割に及ばなかったことを受けて、与党にも成立を危ぶむ声が出てきました。
そこで、「台湾名義」に言及しない形で、一般論として国連加盟の是非を問う形の第三の住民投票を行うことで野党国民党との妥協が模索されているとの報道がありました。【2月1日 朝日】
この場合、これまで進められてきた民進党の「台湾名義」、国民党の「中華民国名義」での案も形式的に同時に行われることになるそうです。

2月3日朝日には、「中国共産党中央台湾工作弁公室と国務院台湾事務弁公室は2日、台湾の中央選挙委員会が与党・民進党の提案していた“台湾名義での国連加盟の賛否”を問う住民投票を3月の総統選挙と同時に実施すると正式決定したことについて、厳しく非難する声明を出した。」という記事がありましたが、“先の妥協案が決裂して・・・”ということなのかどうか、よくわかりません。

いずれにしても、1月の立法院選挙は“中国本土との経済関係を強めたい。その妨げになるいたずらに中国本土との対立を煽るような政治は困る。”との民意であったように思えます。
その意味で、今この時期に南沙諸島訪問とか、「台湾名義」への固執を前面に掲げる方策は、与党にとってあまり得策ではないように思えます。

もっとも、与党も中国本土との経済関係強化を推進する計画発表(ひとつは、中国の購入希望者が台湾の不動産を取得することをより容易にするもの。2つ目は台湾の上場企業が中国に保有する資産を全体の40%未満に制限している規則の緩和。)を検討しているとも報じられていますので【1月21日 ロイター】、そのあたりは十分に織り込んでのことでしょうか。