映画のある生活 -3ページ目

WATARIDORI

Le Peuple migrateur
2001年、フランス・イタリア・ドイツ・スペイン・スイス
98min、カラー

監督:Jacques Perrin
出演:Jacques Perrin


渡り鳥は北半球に春が訪れるたびに北極を目指す。
各地から訪れた渡り鳥たちはこの地でのみ繁殖する。
そして春が終わりを告げると雛と共に北極を旅立つ。
渡り鳥たちは北極へ"行く"のか"戻って行く"のか。
それぞれの渡り鳥たちの過酷な旅をカメラが追う。

※ネタバレ※
すごい!!映像美!!本当にどのショットを見ても美しい!!芸術!!
これでCGなしですよ。自然って素晴らしい。本当に素敵。

この映画を撮るためにスタッフは渡り鳥たちを手懐けたとか。
故に渡り鳥たちを至近距離で撮影することができたみたいです。
監督曰く「これはドキュメンタリーではない」んだそうです。
渡り鳥たちが主演で監督によって演出された映画なのです。
渡り鳥たちは本当に愛らしい生態を魅せ付けてくれます。
撮影に3年、制作費20億円。スタッフの皆様お疲れ様です。

雪崩に遭おうが、夜になろうが、氷河が崩れようが飛び続ける。
休憩を挟む渡り鳥もいれば、目的地まで飛び続ける渡り鳥もいる。
銃で狙われたり、他の鳥に脅かされたり、はぐれてしまったり。
旅の途中で、ほとんどの渡り鳥たちは命を落としてしまうのです。

世界40ヶ国以上を舞台に、それはアマゾンだったり、砂漠だったり。
歴史的な建造物だったり、紅葉だったり、ネオンが輝く都市だったり。
様々な景色をバックに翼を広げて飛んでいる渡り鳥が本当に美しい。

約100分間、自然の驚異と映像芸術を堪能させて頂きました。

戦艦ポチョムキン

Bronenosets Potyomkin
1925年、ソ連
75min、白黒、サイレント

監督:Sergei M. Eisenstein
出演:Aleksandr Antonov、Vladimir Barsky


帝政ロシア末期、戦艦ポチョムキン号の船員たちは、
うじのわいた食糧をきっかけに暴動を起こす。
船員たちは戦艦を乗っ取ることに成功するも、
反乱の先頭に立っていた船員が犠牲となってしまう。
犠牲になった水兵の遺体をオデッサの街に安置し、
それを見た市民たちも革命への気運を高めていく。

※ネタバレ※
なるほど、淀川長治さんが冒頭で紹介されているとおりです。
何というかこの映画は魂を持っています。エネルギーを感じる。
サイレント映画なので映像と音楽のみ。台詞はほとんど皆無。
でもリアルに伝わってくるんです。人々の怒りが、哀しみが。

水兵たちが船上の権力者に抵抗することで始まったこの戦い。
「一杯のスープのために」死んだ水兵を見て市民も立ち上がる。
小さい少年までもが小銭を置いていく姿が物悲しくさせます。

「皆は一人のために 一人は皆のために」。人々は結集します。
港に群がる人、人、人。画面いっぱいに人が溢れています。
そのスケール感といったら。圧倒されてしまいました。

有名なオデッサの階段のシーン。突如現れるコサック兵。
銃撃される人々の恐怖、惨状は今まで観たどの映画よりも壮絶。
撃たれて倒れている小さな子供を踏みつけてまで逃げ惑う人々。
重症の子供を抱えコサック兵に助けを求めて向かっていく母親。
人々の懇願をよそに無慈悲に母親を撃ち殺すコサック兵。
乳母車を手に逃げることもできず狼狽する母親の恐怖の表情。
乳母車から手が離れる。映し出された手には血がついている。
車輪が段差にぐらつき、手が離れ階段を落ちていくのも象徴的。
この2人の母親の恐怖と怒りの表情が脳裏から離れません。

最後、ポチョムキン号の船員たちは水平線上に戦艦を発見します。
敵か、それとも味方か。一緒になってはらはらしてしまいました。

私の敬愛するBilly Wilder監督が一目置いていた作品。
好きとか嫌いとか、そういう次元を超えて何か特別な作品です。

グランド・ホテル

Grand Hotel
1932年、アメリカ
112min、白黒

監督:Edmund Goulding
出演:Greta Garbo、John Barrymore、Joan Crawford、Wallace Beery、Lionel Barrymore

人気に翳りが見え始めたロシア人のプリマ・Grusinskaya。
男爵を名乗りホテル荒らしを繰り返す紳士・Geigern。
仕事のためにホテルを訪れた実利的な速記者・Flaemmchen。
彼女を雇い経営危機を脱するため合併の交渉へ臨むPreysing。
病気で残り少ない余命を謳歌するために訪れたKringelein。
ベルリン一のホテルを舞台にそれぞれの物語が繰り広げられる。

※ネタバレ※
「グランドホテル 人々が訪れては去る 何事もなかったかのように」
最初と最後にDr. Otternschlagによって語られる台詞が印象的です。
彼がこの映画の案内人のような役目を果たしていますね。

Greta Garboをこの作品で初めて観ました。独特の神秘的な存在感。
私はMarlene Dietrichが好きなのですが並び立てられることに納得。
他の俳優陣たちもこの時代のスターには本当に存在感があります。
スクリーンに登場するだけで華がある。本当に画になりますね。

私の一番好きなキャラクターはやはりGeigern男爵でしょうか。
窮地に陥っても紳士としての気高さを失わない姿勢に感銘。
Grusinskayaと共に旅する資金がなくて、でも彼女に頼りたくない。
その気持ちに共感し、必死で金策に走る姿が痛々しく映りました。

盗みに入ったGrusinskayaの部屋で2人で語らう場面が一番好き。
名声を得たものの孤独感と絶望感でいっぱいのGrusinskaya。
スマートな振る舞いで虚の世界を生きつつも実を見失っていた男爵。
2人は出会い惹かれお互いの人生に輝きを取り戻すのです。

Joan Crawfordは現代的な役柄でしたね。でも愛らしくて憎めない。
Lionel BarrymoreがKringeleinを好演していたように思います。
Greta Garboのオーバーな演技はサイレント映画の名残なのでしょう。
気になりましたが役柄上それほど不自然ではありませんでした。

結末、男爵はマダムとの約束を果たせず社長は地に堕ちて行く。
速記者と病気の老人は男爵の死を悼むうちにハッピーエンドを迎える。
何も知らされないままホテルを去って行くマダムが本当に哀れ。
男爵もマダムを頼ってハッピーエンドを迎えて欲しかったけれど、
それは穢れているといえども彼の誇りが許さなかったでしょう。

彼らと入れ違いに新婚とみられる夫婦がチェックインするシーン。
様々な騒動の中ポーターが子供の誕生に歓喜するシーンが印象的。
宿泊客にとってのドラマもホテルでは日常にすぎないのですね。

アカデミー賞
・作品賞

コールド マウンテン

Cold Mountain
2003年、アメリカ
152min、カラー

監督:Anthony Minghella
出演:Nicole Kidman、Jude Law、Renee Zellweger


牧師の父と共にコールドマウンテンに引っ越してきたAda。
この村でAdaはInmanと出会いお互いに惹かれていく。
ほどなく南北戦争が開戦、Inmanも戦場へと赴くことになる。
瀕死の重傷を負い病院に収容されているInmanの元に、
父を亡くしたAdaから「帰ってきて欲しい」という手紙が届く。
彼は死罪を覚悟で脱走し故郷へと遠い道のりを歩き始める。
一人では何もできずに途方に暮れていたAdaだが、
流れ者のRubyと生活を共にすることで明るさを取り戻す。

※ネタバレ※
Nicole KidmanにJude LawにRenee Zellweger。豪華なキャストです。
Nicole Kidmanは私が最も美しいと思う女優の一人。Jude Lawも素敵。

Anthony Minghella監督は本当に綺麗な映像を撮りますね。
以前に『イングリッシュ・ペイシェント』を観たときもそう思いました。
撮影されているのは同じ方のようです。何というか綺麗過ぎる。

Renee Zellwegerはすごい!!父親を憎みながらも愛している。
そんな愛憎の矛盾を見事にそして自然に演じきっています。
Kathy BakerとNatalie Portmanの役柄と演技も印象的でした。
本筋とはずれるのですが、ただ隣に居て欲しいという気持ちに共感。
しかも隣に居てくれるのがJude Lawだなんて。あぁ、羨ましい・・・。

AdaとInmanの再会のシーン。呆気に取られましたが割と好きです。
2人は戦前から深い愛情で結ばれていたわけではなく、
戦時中お互いを心の支えにすることで愛情が育まれ深まっていった。
微妙な関係の不器用な二人です。照れもあったのでしょう。
予想はしていたけれど結末、もっとハッピーエンドにして欲しかった。

映像も綺麗。Nicole KidmanとJude Lawも綺麗。でもそれだけ。
戦争による人々の心理描写なども巧みに描かれてはいますが、
私の中では特に真新しくもなく、特に心に残ることもない作品でした。

アカデミー賞
・助演女優賞(Renee Zellweger)
ゴールデン・グローブ賞
・助演女優賞(Renee Zellweger)

椿三十郎

Tsubaki Sanjuro
1962年、日本
96min、白黒

監督:黒澤明
出演:三船敏郎、仲代達矢、加山雄三


上役の不正を暴くために立ち上がった9人の若侍。
人気のない社殿で城代の甥ら仲間たちが密談していた。
突然隣の部屋で寝ていた素浪人が現れて彼らに進言する。
実は味方だと思っていた大目付が黒幕だったのだ。
大目付との話し合いの機会を控えていた彼らは窮地に陥る。
頼りない若侍たちに素浪人は助太刀を申し出る。

※ネタバレ※
素晴らしい!!面白かった!!何度も繰り返し観てしまいました。
黒澤明監督の映画は重々しいイメージがあったのですが。
この作品はユーモアに溢れた作品で本当に楽しめました。
用心棒 』がこれの前作に当たるようで。観てみなくては。

何といってもそれぞれのキャラクターが立っていますね。
ぶっきらぼうだけれど心優しく面倒見のよい三十郎。
素直で正義感に溢れているけれども頼りない若侍たち。
聡明だけれども穏やかで浮世離れしている城代夫妻と娘。

若侍たちが金魚のフンのように三十郎についていくシーン。
思わず笑ってしまいます。だって彼らは真剣なんですもの。
若かりし加山雄三や田中邦衛が出演されています。

椿を目の前にして「椿三十郎」という名前の由来も粋ですね。
「もうすぐ四十郎ですが・・・」「白髪の七十郎になっちまう」
うーん、三十郎さんったら素敵。セリフが洒落ています。
小川を椿が流れてくるシーンもとても綺麗で素敵なんです。

三十郎たちに捕らえられた敵の侍もいい味を出しています。
押入れの中に閉じ込められ時々出てきてはアドバイスをする。
そして話が終わると自ら押入れへと戻っていってしまう。
最後作戦が成功して若侍たちと一緒に喜んでいる姿は最高。

城代の妻。「ギラギラしすぎています。あなたは抜き身ですね」
「本当にいい刀は鞘に入っているものですよ」。重みのある言葉。
外見をさんざんコケにされながら最後まで現れなかった城代。
どんなお顔なのかと拝見。失礼ながら納得してしまいました。
それでも温厚で愛情溢れる人柄は愛さずにはいられません。

最後、三十郎と室戸の息詰まる一騎討ちのシーンは圧巻です。
一瞬なのですが今まで観た中で一番重みのある一撃でした。
斬られる方だけでなく斬る方も痛みを伴うものなのですね。
苦虫を噛み潰したような表情で去っていく三十郎が印象的。

ストーリーも十分に練られていて頭脳戦を楽しめました。
黒澤明監督と一緒に仕事をされた方たちを羨ましく思いました。