ステロイド依存!? | 皮膚科医 山本綾子 の アトピー から学ぶ美肌法則

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山本ファミリア皮膚科 駒沢公園の院長、山本綾子の美肌法則ブログ。つきあう病気とされてきたアトピー を根治させようと奮闘して見つけた、身体から健康になる美肌法則。

今日は、脱ステの患者さんからコメントが多い、「ステロイド依存」のお話です。

(念のために。「ステロイド依存」という言葉は教科書的にありません)


私はこのブログを書きはじめる前にTwitterのほうで、たくさんの患者さんの生の声を聞いていました。


「ステロイド依存になった」と。


そもそも、教科書にも「ステロイド依存」などという言葉はありませんし、私の患者さんに「ステロイド”依存”」の方などいないので、いったい、なんのことを言っているのだろう??とずっと不思議に思っていました。


ステロイド外用(内服ではなく、外用ということがポイント!この辺についての基礎知識は日経トレンディの記事を読んでくださいね)には、「皮膚萎縮」という副作用があります。つまり、「塗った部分だけ」「皮膚が薄くなる」ということです。そして、皮膚が薄くなったために、下の血管が浮いて見え、赤く見えるというもの


その副作用は特に皮膚の薄い顔に起こりやすく、下の血管が浮いて赤く見えるため、酒さ(お酒を飲みすぎたみたいに顔が赤くなる)様になった顔のことを「ステロイド酒さ」と呼びます。


ですが、この副作用、使い方で避けることができます。


ステロイドは「ざらざらするところに塗り、つるつるになったら止める」という基本的な使い方があります。きちんと、「触りながら」つるつるになって中止していれば「皮膚が薄くなりすぎる」ということがないのです。


ですから、Twitterでの患者さんにも、「ステロイド依存って、皮膚萎縮によるステロイド酒さのことではないですか?」とお尋ねしたのですが、彼らは、「皮膚萎縮についてはもちろん知っているけれど、それとは違う」とのコメントでした。


う~ん、じゃあ、彼らの言う「ステロイド依存」って何だ???

なかなか、彼らの言う意味がわからなかったのですが、ある日の診察でこんなことがあり、ようやく、「ステロイド依存」と呼ぶ状態がわかったのです。そして、それは、やはり使い方の誤りからきたものであったことがわかったのです


もうすぐ2歳になろうというお子さん。生まれた頃からアトピーがひどく、私に出会ったのは、2歳のお誕生日1ヶ月前くらいのこと。


何軒かの皮膚科を受診したけれど、ずっと全身ひどいままで、きれいにならないと。


私の治療1週間で、みるみるきれいになり、いつもかゆくて熟睡できなかったその子がようやく熟睡するようになったとお母さんは嬉しそうにお話してくれました。


そして、2回目診察(初診から1週間後)で、初回は泣きぐずっていたその子は、かゆみから開放されて、ニコニコ私の診察を受けてくれました。小さいながらに、自分をきれいにしてくれる味方の先生だとわかったのでしょう。私も、ちいさなこの患者さんがきれいになって嬉しく思っていました。


3回目の診察のとき、全身はほぼきれいになったのに、右頬の一部に赤い部分が残っていました。その部分は初回のときに、浸出液が出るくらいひどかった部位です。以前からずっと、その部分は汁が出ていたため、ずっとステロイドを使ってきたとのことでした。


ですが、その頬の赤い部位は赤みこそ残れども、触るとつるつるしており、お母さんに聞いても、痒がることは全くないとのことでした。


そして、この時、私の指示は「赤みはあるけれど、かゆみもないし、つるつるだから保湿剤だけにしてね」だったのですが、この指示がもし、「ステロイド継続」だったら、まさに「ステロイド依存」になっていたのだと、私もぞっとしました。

(ステロイドには、塗りすぎの状態であっても、一旦、少し赤みをひかせる作用があります。ですから、塗りすぎなのに、赤みを軽減させようと、さらにステロイドを塗り続けてしまう、という使い方を間違える患者さんがいるのです。悪循環になってゆきますね。)


つまり、「きちんと皮膚を触りながら、そのざらつきがなくなった時点でステロイドを中止していれば、ステロイドの塗りすぎには決してならなかった」のに、「ステロイド依存」となってしまった患者さんたちは、「しっかり触ることなく、赤いところに塗るのだ」と思い込んでいたから、皮膚科医がしっかり教えなかったから(!)ステロイドを塗ってはいけないところに塗り続け、「依存状態」になってしまっていたのです。まさに、「依存を食い止めた」瞬間でした


確かに、この状態の場合の「依存」に対する治療は、「ステロイドの中止」です。だから、脱ステの患者さんたちは、「脱ステしてよかった」とおっしゃいます。


ですが、ステロイドを中止しても、「湿疹が湧いてくるのを止める」ことはできません。もともとアトピーとなった「湿疹が湧いてくる原因を解明し、それを改善する努力」をしない限り、せっかく脱ステをしても、アトピーは治りません。


私の治療では、ステロイドを使いながら「湿疹が湧いてくる原因をもとから断つ」=「根治的治療」を同時に行います。ですから、ステロイド依存にはなりえません。


「湿疹が湧いてくる発症機序」がわかったからこそ、その機序に従って「湿疹が出ないようにすること」が可能になりました。そして、それにより、湿疹の出方が軽くなり、ステロイド使用量が徐々に減り、卒ステすることが夢ではなくなりました。


機序については、「アトピー理論発見の経緯」でゆっくりお話してゆきます。