「はやぶさ」に学ぶ、リーダーが最低限押さえておきたい3つのこと -書評- 「はやぶさ」式思考法 | 知磨き倶楽部 ~ビジネス書で「知」のトレーニングを!~

「はやぶさ」に学ぶ、リーダーが最低限押さえておきたい3つのこと -書評- 「はやぶさ」式思考法


3.11以降、震災と原発の衝撃が大きすぎて、それ以前の出来事が遠い彼方のことのように感じられます。
そんな忘却の彼方に流されてしまいそうな記憶の一つに、2010年6月13日の小惑星探査機「はやぶさ」の帰還があります。
小惑星「ITOKAWA」から微粒子を持ち帰るという偉業を成し遂げた「はやぶさ」は、途中のアクシデントを乗り越えたということもあって、日本中に大きな歓喜と自信、希望を与えてくれました。
持ち帰った微粒子の初期分析の中間発表が、まさに3.11のその日に行われていたという事実を、僕はこの記事を書くために調べていて初めて知りましたが…。

本書は、そんな「はやぶさ」プロジェクトのプロジェクトマネージャを務められた川口淳一郎さんが、その過程で考えられたことなどを綴った一冊です。
「はやぶさ」は純粋な科学プロジェクトですが、成果を上げるという点においては、考え方などビジネスパーソンにも大いに参考になる内容でした。

副題には「日本を復活させる24の提言」とありますが、今回は、プロジェクトマネージャなどリーダーとしての役割を担うようになっている中堅ビジネスパーソンが押さえておきたい考え方を3点ほど紹介します。


1. 失敗は恐れず次に活かす
何かが本当に身に付くのは、自分の判断でやって失敗し、その原因を自分の頭で考えた時でしょう。そこで初めて本人の技術、知恵になるのです。職人の親方は、自身の経験でそれを知っているので、弟子に多くを語りません。(p.61)
失敗の後に必要なことはたった一つしかありません。教訓を活かすこと、それだけです。(p.73)
川口さんも、「はやぶさ」プロジェクトにおいて成果を上げるまでに、実は色々な失敗を経験されています。
「はやぶさ」プロジェクトですら、色々なところで紹介されている通り、通信不能状態に陥るなどのアクシデントが起きていました。
そうした困難を乗り越えられた要因の一つは、川口さんが積み重ねてきた「失敗の経験」であったことは間違いありません。

失敗学のすすめ (講談社文庫)畑村教授の「失敗学」を挙げるまでもなく、失敗から学ぶことの重要性は耳にタコができるほど聞かされてきています。
しかし、特に日本人には過度に「失敗」を恐れるような風潮がある、ということも否定する人は少ないでしょう。
若い頃から「良い失敗」を経験し、その後に活かせるように自分の中に取り込むことが大切だと、もう一度肝に銘じましょう。

個人的には、そうは言いながらも自分自身が急に失敗を恐れなくなるようになるとは思えません(汗)
むしろ、後輩やプロジェクトのメンバーに言い聞かせ、実際に彼らが「失敗」を経験できるような雰囲気を作り上げる、という角度から始めてみる方がよいかもしれません。
もちろん、やがては自分も…ということは言うまでもありませんが。


2. 常にゴールを見失わない
「はやぶさ」の運用段階でもそうだったのですが、私はいつも「最終的な目標は何なのか」をベースにいろいろ思考をし、判断してきたと思います。そうしないと、対策の準備に眼を奪われて目的、ゴールが霞むということが起きがちです。
対策をとることはゴールへ到達させるための手段であって、それ自体が目的なのではありません。(p.148)
目の前に問題が出てくると、一担当者のようになって問題への対応を優先的に取り組んでしまい(もちろん、それが重要で必要なときもあります)、最終的な目標が意識の奥に追いやられてしまっていることってないでしょうか?
こんなの仕事の基本だ、と言われてしまえばそうかもしれませんが、僕は今でもついつい陥りがちなものですから…。
折に触れて最終的な目標を確認する作業を組み込んでおくといいのかもしれませんね。

余談になりますが、今そこにある危機である原発問題においても、この視点は是非とも持っていただきたいなと。
いや、持っておられるのだろうと思いますが、僕なんかは思いますし、同僚などと話をしていても疑問として出ることは少なくないんですよね。
そもそも「最終的な目標」「ゴールの絵」は何なんだろう? どうなればいいのだろう? どういう状態を目指しているのだろう?
ゴールとロードマップが見えないから不安なんだと思うんですけどね…。


3. 諦めずに粘り続ける
プロジェクトを振り返りつつ、どうして今回はこれほどまでに運に恵まれたのだろうかと考えます。思い当たるのは、しつこいほど粘れたこと、諦めなかったこと、です。諦めが悪いといわれる場合もあります。意地と忍耐、これがキーであったと思います。これだけは自身を持って言えます。「今回のプロジェクトで得たものは何ですか」という質問に「いろいろありますが、いちばんは根性です」と答えています。根性で言いたかったのは、意地(意気込み)と忍耐(諦めない心)です。(p.185)
「根性」などという言葉は、あまり科学者的じゃないなあと思ったりもしましたが(笑)
もちろん、意気込みと心だけで成果を挙げられるほど、世界は僕たちに都合よくできてはいませんが、意気込みと心が欠けた取り組みに成果が期待できないことは直感的に正しそうです。
とはいえ一方で、「諦めが肝心」という言葉もまた正しいと思える側面もあるのが難しいところですね。

ネットで成功しているのは〈やめない人たち〉であるただ、少なくとも今回の原発問題への対応については、諦めてもらっては困りますので、是非ともこの「諦めずに粘り続ける」ことによって、運に恵まれた展開が起きることを切に願います。

ちなみに、どうでもいいことですが、このブログも「諦めずに粘り続ける」ことによって何か次の展開があるんでしょうかねえ…(遠い芽)
そんなことを考えてみると、自ずと「諦めずに粘り続ける」だけではダメだよ、ということも分かって来ますが。


中堅ビジネスパーソンが押さえておきたい考え方といいながら、文章を書いているとついつい原発問題に意識が飛んでしまったりしました。
この記事のゴール、見失ってしまいましたかね(汗)

ビジネス書っぽい部分に焦点を当てて紹介しましたが、「はやぶさ」に纏わるさまざまなエピソードもふんだんに盛り込まれていますので、科学系読み物としても楽しめます。
そういう意味では、文系ビジネスパーソンが読むと、教養の幅も広がって、一冊で2度おいしい本になり得るのではないでしょうか。

※ 本書は本が好き!を通じて、出版社の飛鳥新社様より恵贈いただきました。厚く御礼申し上げます。

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■ 関連リンク

著者サイト: 川口研究室
プロジェクト公式ページ: JAXA|小惑星探査機「はやぶさ」(MUSES-C)


■ 基礎データ

著者: 川口淳一郎
出版社: 飛鳥新社 2011年2月
ページ数: 224頁
紹介文: 「“失敗”をカウントするな!!“成功”をカウントする加点法こそが日本の閉塞を打ち破る!!」―“はやぶさの奇跡”を活かす川口式ポジティブ加点法思考の極意!

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