絶望的な菅首相の国会答弁…専門筋に聞く!国民生活のための政治なのか

(日刊ゲンダイ2010/11/10)

彼が「石にかじりついても」首相を続けたら国と国民生活は一体どうなるのか

―ベトナムへの原発売り込みとレアアース採掘参加に手柄顔で得意満面だが、莫大な国民の税金を注ぎ込んで果たしてウマ味があるのか

―中国の例と同じ、大企業は儲けても納税者の国民にはほとんど利益が還元されないということにならないか

菅首相が8日の国会答弁で、「石にかじりついても頑張りたい」と述べた。民主党の身内議員に「日本は20年間で14人の総理大臣を大量生産し消費してきた。国際的な信用を失墜させた」と聞かれて、“いい気”になって答えたものだ。

衆院の任期は4年ある。4年単位で頑張る、と力んだのだが、聞いている方はゾクッとした。無能首相に4年も居座られたら、国がなくなってしまうのではないか。筑波大名誉教授の小林弥六氏(経済学)はこう言った。
「任期満了まで菅首相に任せていたら、領土も主権も食料も産業も消えてなくなっていると思いますよ。今の日本は菅首相を選ぶのか、国の存続を望むのか、という分岐点にある。こう言っても過言ではないと思います。菅首相を選べば、外交は迷走し、なし崩しに領土を取られ、その一方で、戦略なしにTPPという自由貿易を開放することによって、タダでさえ自給率が低い農業は壊滅し、国内産業も打撃を被る。『石にかじりついても』なんて、冗談じゃありません」

菅の支持率は今や、3割強だ。7割近くの国民が菅を支持していないのに、石にかじりつかれても困る。しかも、その理由たるや、「首相をコロコロ代えるのは良くない」という、相変わらずの「しょうがないでしょっ!」という理屈なのだ。これを錦の御旗に権力にしがみつく菅。これぞ、権力亡者というのだが、だから、コイツはダメなのだ。
権力維持のための政治とは、決断を避ける先送り政治だ。面倒なことからは逃げて、時間稼ぎの政治になる。国民が知らない間に少しずつ既成事実を積み重ね、後戻りできなくさせる戦法だ。玉虫決着のTPPが典型だし、1年をかけて検討という八ツ場ダムもそうだ。検討は方便だし、工事が進む。



◆国内の景気、雇用対策はそっちのけか

こう書くと、菅は「レアアースの共同開発で各国と合意しているではないか」と胸を張り、「ベトナムの原発事業も官民一体で受注に成功したじゃないか」と自慢するかもしれない。
確かに、ベトナム原発受注競争はライバルが多かった。他国に取られるよりはマシだろうが、こんなもんで、得意になられては困るのだ。
前出の小林弥六氏は「これは雇用の輸出ではないか」と言ったが、その通りだ。
原発を受注した企業は儲かる。現地に工場を建てる。巨大プロジェクトがスタートする。しかし、そこに雇われるのは現地の人々なのである。
財政危機で、国内の公共事業を大幅カットしているのに、海外のインフラ整備に熱心な菅政権には違和感を覚える。
内需拡大はどうした?一に雇用じゃなかったのか? 景気対策はどうする? 年金など将来の社会保障への手立てはあるのか。これらを全部、先送りで、ベトナムに原発じゃないだろう。


◆ベトナムは豊かになる一方で日本は焼け野原へ

菅が得意満面にアピールするベトナムのプロジェクトは、菅政権の「新経済成長戦略」に組み込まれた柱のひとつだ。世界最高レベルの日本の技術を集約し、官民が連携して海外にインフラを売り込む、とうたっていて、2020年までに19・7兆円の商売に拡大させると意気込んでいる。ベトナム原発については、昨年末ロシアに敗れたものだから、今回は、日本が是が非でも巻き返したい案件だった。

先月末にハノイで日越両国首脳が合意した中身は、100万キロワット級の原子炉2基で、総事業費は1兆円規模。日本はレアアース分野でも、ベトナムと共同採掘に合意していて、ベトナム北部の鉱山開発のため、探査や人材育成を含めた技術協力、資金支援を行う。港湾整備では790億円の円借款も約束した。ベトナム南部のロンタイン国際空港の建設計画についても日本政府は支援を検討する。何だか至れり尽くせりだ。
インフラ輸出というと聞こえはいいが、「コンクリートから人へ」ではなく「コンクリートは海外へ」ということだ。これが日本経済にどんなメリットをもたらすのか。

現地の労働者を雇い、現地のインフラをピカピカにさせて、巨額の円借款をつぎ込むのに、恩恵はほとんど期待できない。これが専門家の一致した見方だ。
「昔は企業が儲かると、給料に反映し、従業員の消費に火がついたものです。国内の設備投資も増え、サービス産業も潤いました。しかし、いまは企業は儲けを内部留保や、株主への配当へ回してしまう。昔ほどの経済効果は見込めないのです」(双日総研副所長・吉崎達彦氏)



◆新経済成長戦略というブラックジョーク

これは直近の有価証券報告書を見てもよく分かる。上場企業4000社の財務情報を分かりやすく閲覧できるインターネットサイト「ユーレット」を運営するメディネットグローバル代表取締役の西野嘉之氏が解説する。
「08年度から09年度の1年間に内部留保が増えた企業上位40社を調べたところ、平均年収も増えた企業は7社だけでした。利益が出ているのだから、もっと社員に還元しているかと思ったのですが、想定よりはるかに少なかった」

これが大企業の“体質”なのだ。サラリーマン社長が財務諸表という“見てくれ”のためだけに経営する。これじゃあ、いくら政府が後押ししてベトナムのプロジェクトを受注させたところで、ムダだ。儲けたカネは内部留保や配当に回り、国内には戻ってこない。これが新経済成長戦略なんて、ブラックジョークだ。そのうえ、こうした官民一体の海外プロジェクトが日本の経済活動の主流になれば、日本は完全に空洞化してしまう。企業は国外に工場を建て、国内は焼け野原。失業者があふれ、ペンペン草も生えない国になってしまう。経済アナリストの菊池英博氏がこう言う。

「ベトナムへの輸出促進が悪いとは言いません。しかし、国内への波及効果は非常に小さい。原発は一部の中小企業に関連需要があるかもしれませんが、雇用は限定的です。菅首相は、『一に雇用』と言っていたのですから、まずは日本人の雇用を拡大してもらわなければ困る。このままでは来春の新卒の就職率が50%を切るほど雇用環境は冷え込んでいます。必要なのは、海外への投資よりも国内投資と内需拡大です。新規投資から減価償却費を差し引いた純投資は、公共投資では07年以降マイナスで、民間でもリーマン・ショック以降、マイナスに落ち込んでいます。国内に投資をして初めて雇用が増えるのに、菅政権のやっていることは全くピンボケです」

それなのに、菅は何もしないし、アイデアもない。そのくせ、権力にはしがみつく身の程知らず。こんな亡国首相では国民はたまったもんじゃない。




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