「子供が幼い内から性教育をするのはよくない」
「性については教えなくても自然に覚えていくものである」
「性教育は子供の性行動を助長する」


という言葉を幾度となく聞いてきました。

その度に、「ここでいう『性教育』とは何をさしているのかはてなマーク」を疑問に感じるのですが、文部科学省の性に関する指導では、学校での集団教育における性教育はかなり消極的な内容で、「受精に至る過程は小中学校では教えてはいけない」とありますし、「子どもの発達段階に応じて」という言葉が多用されながらもその発達段階の評価の仕方については記載されず、「道徳教育を重視」する姿勢なので、ほとんどの学校では性教育をしないか、「命を大切に」というふんわりした性教育しかされていません。

しかし、世界に目を向けてみると、ユネスコ(国連教育科学文化機関)が中心となり、国連合同エイズ計画、国連人口基金、世界保健機構(WHO)、ユニセフ(国連児童基金)などと、世界中の性教育専門家による集団的検討を重ねて作り上げられた「国際性教育実践ガイダンス」なるものがあります。

>>英語版ですが、無料で見られます!
International technical guidance on sexuality education(UNESCO)

"人間と性”教育研究協議会で毎年恒例の夏の全国セミナーで、「国際性教育実践ガイダンス」(以下「ガイダンス」)を活かした実践のつくり方について、大学等非常勤講師であり性教協代表幹事・『季刊セクシュアリティ』副編集長の水野さんにお話をお伺いしましたので、その内容を少しばかりかいつまんでレポートしたいと思います!

●「国際性教育実践ガイダンス」とは?
「ガイダンス」は、多くの若者が性的な生活に向けての十分な準備をすることができておらず、そのためHIV/AIDSをはじめとする性感染症、予想外の妊娠、性的虐待、性的搾取などのリスクにさらされている若者の現状を重視し2009年に発表されました。
そして、それらは日本においても共通する問題もあります。

しかし!この「ガイダンス」発表から既に6年がたち、欧米諸国のほか中国、韓国、台湾といった東アジアの諸国でも性教育基盤を整えつつあり、「ガイダンス」が求める国際的な包括的性教育の進展に呼応する可能性を広げている一方で、日本の文科省・文科大臣は「ガイダンス」を黙殺中。日本語訳もまだないため、国内では性教育関係者であっても認知が低い状況にあるそうです。(現在日本語訳中だそうです!)

もちろんなんでもかんでも性教育を行えというわけではなく慎重さも大事ですが、子どもたちの今、そして将来の健康につながる教育について世界中の科学者が研究した結果があるのに活用されていないのは、文科省はどっちを向いて学習指導要領を作っているのでしょうかと思わざるを得ないのです。

●「ガイダンス」を理解するためにおさえておきたい!3つの概念
「ガイダンス」を活かした実践のためには、まず「ガイダンス」を支える「性の権利」「セクシュアリティ・ジェンダー平等」「包括的性教育」という基本概念を理解し、それを広げていくことが「性の権利」としての性の学習を子どもたちに保障していくためにも重要だそうです。

第一に、「性の権利(セクシュアル・ライツ)」は、望みうる最高の性の健康(セクシュアル・ヘルス)を実現するために不可欠なものであり、ここで言う「性の健康」とはセクシュアリティ(性)に関する、身体的、情緒的、精神的、社会的に良好な状況にあることを指し、「性の権利はセクシュアリティ(性)に関する人権である」と世界性科学学会(WAS)による「性の権利宣言」で発表されています。

第二に、性を「セクシュアリティ」としてとらえ、その多様性・個別性を重視することが大切です。男女を二分することが前提となる「男女平等」ではなく、性の多様性を含むジェンダー平等の視点を欠落させては性の学習は成立しないとしています。

そして第三に、「性教育は性的関係だけではなく、それを含む全体の関係性を包含するもの」とする「包括的性教育」を「ガイダンス」は提起しています。包括的性教育は、子ども・若者の性的自己決定能力を高め、性的自己決定を励ますことを目的とし、「道徳的判断とは無関係な、科学的に正確な情報を、学校教育の初期から年齢に応じて全面的・段階的に注意深く与えていくこと」が重要とされています。
「ガイダンス」が提起する包括的性教育の分野(原文はKey Concept=重要な概念)は、①人間関係、②価値観・態度・スキル、③文化・社会・人権、④人間の発達、⑤性的行動、⑥性の健康の6つ。
それらを対象とする年齢を4つのレベル(①5~8才/②9~12才/③12~15才/④15~18才)に分けて、学習テーマと課題の設定がされています。

「性教育が幼い子どもにはよくない」とする批判や懸念に対し、「ガイダンス」では、子どもたちは彼らが性的に行動を始めるかなり前から、性的な関係について気付いているからこそ、早い段階から自分自身の体や関係性、感情についての学習が必要としています。さらに、若者と性情報の問題について、質の高い性教育は、正確な情報、価値や関係性の重要性を強調することで、有害な情報とのバランスをとることができる、ともしています。

つまり、性教育とは命の誕生につながる性行為だけではなく、性に関する科学的に正確な情報や、関係性や感情についても学習対象になるということです。

●「ガイダンス」を実践につなげるヒントと課題
「ガイダンス」を実践に取り入れていくためには、①子どもたちの現状から、獲得してもらうべき学習テーマ・学習課題を設定すること、②主体的に参加する授業・学習方法として、多面的な情報や価値観を提示し、友達同士意見交換をしながら自分の考えを形成していくような構想が必要とされています。ピルコンのLILYプログラムや各種イベントもこの考え方に近い方法で設計されていたので嬉しく思いました。

セミナーでは「ガイダンス」の考え方に沿った実践の例として、6つの事例の紹介がありましたが、詳細については『季刊セクシュアリティ』71号にてご参照いただけます。

また、日本における包括的性教育手引き構築の試みについても、『季刊セクシュアリティ』65号の田代さんのレポートに詳しく記載されています。

そして、包括的性教育を創造していくために、学校内でのチームワーク、保護者や地域の医療機関、医師、保健師、助産師、NPO法人、研究者など外部の専門家との協同が重要と水野さんは締めくくりました。

本来はこういう知識を教員養成の課程で身につけるべきだと思うんですけどね。(保健体育だけではなく家庭科や理科、社会などの科目もかかわってくると思うので。)

私はもともと「性教育」という言葉自体がもう流行らない感じがしていて、もっと次世代っぽいネーミングをつけたいと思うのですが、道徳道徳や命は大事と連呼せずに、教育効果としても科学的に検証された質の高い教育プログラムを日本で届けてほしいと思うし、学習指導要領が変わるのを待っていては問題が解決されないのであれば、学校の集団教育にこだわらないアプローチも必要だなと思うようになりました。

それには私自身ももっと学ぶことが必要だし、自分自身の専門家とのネットワークの強みを生かしてピルコンの事業につなげていきたいと思います!目