H&M、しまむら、益若つばさと列記して、この三つの名前とその関連性について、女性はもちろんすぐにわかると思いますが、ファッションに興味ある人以外にピンとくる男性は多くないのではないでしょうか?


HM」なら、最近日本進出で話題なった、GAPZARAについで世界第3位の、1947年にスウェーデンで設立したアパレルブランドヘネス・アンド・モーリッツ Hennes & Mauritzだとわかる人も多いと思います。「しまむら」は、あのファッションセンターしまむらのことで、「益若つばさ」については後述しましょう。


NBOnlineの関橋英作さんのコラム「マーケティング・ゼロ 」、第40「H&Mが正した日本人の価値観 926日付)でこの三つの名前について執筆されています。関橋さんの本文での主眼は、次の通りです。


安いものでも、自分なりに工夫して、ディテールにこだわって「自分をつくる」。誰かにつくられた価値観を借りるのではなく、自分でつくっていく。よく言われる「自分探し」ですが、出来上がった自分などどこにもないと思っています。


自分は、「探す」ものではなく、「つくる」もの。そう考えて初めて、自分の価値観が出来上がる。その価値観を他人が見て、「あ、素敵」と思うのではないでしょうか。そして、たくさんの他人から素敵と思われた人が、記憶に残る人、つまり「自分というブランドを持つ人」になるのです。


H&M

関橋さんはH&Mのビジョンについて以下の4点をあげ、注目される理由を解説しています。


*低価格(世界中で同じものを同じ価格で売る)
*トレンド(有名デザイナーとのコラボ)
*スピード(早く作り、早く売りきる)
*デザインバリエーション(年間約50万点のデザインをつくる)


このビジョンは、消費者の欲求とメーカーの企てが一致しています。いままでのアパレルブランドではあり得ない、パラドックスな考えが成立しているのです。これこそが、真新しい価値観。時代を変えようという狙いが見え隠れしています。消費者は、直観でそれを感じ取ったのでしょう。有名デザイナーに宇宙的な金額のギャラを払い、高級ブランドは高いことが当たり前。そんな常識を作ってきた世界がほころび始めているのです。


こんな消費者サイドの価値観の転換を裏付けるのが、ファッションセンターしまむらの活況にあり、関橋さんはその理由に「益若つばさ効果」を挙げています。勉強不足の私は、どういう「つばさ効果」なのかと、脳裏にブーメラン効果を浮かべていました。「益若つばさ」とは、雑誌のモデルさんだったんですね。



益若つばさ

モデル・益若(ますわか)つばさ;22歳。ティーン向け雑誌の「読者モデル」出身。読者モデルとは、プロファッションモデルとは違った、一般人出身のモデルだ。益若も身長150センチ。「限りなく読者に近いモデル」としてのポジションでティーン世代に圧倒的支持を得た。人気絶頂の昨年は、雑誌やブログで身につけたものが大売れし「経済効果は100億円」とも言われた。ところが昨年暮れ、妊娠・出産のため活動休止。当分の間は子育てと主婦業に専念しようと決めていたのだが、復帰を望むファンからのラブコールに押されて、今年4月に仕事を再開した。


益若の人気の秘密は何なのか?まるで人形のようなルックスや、乙女心を掴むファッションセンスももちろんだが、その外見からは意外に思える「堅実さ」が女の子たちの共感を呼んでいるようだ。商店街のある下町で夫と子供と仲睦まじく暮らし、買い物も料理もいたって庶民的。そこには華やかなサクセスストーリーやカリスマのイメージではなく、地道な彼女の生き方がある。


これまでのカテゴリーに当てはまらないタイプの人気者。番組では、益若の復帰や人気の秘密に迫りながら、そこに透けて見える現代の若い女性たちの願望を浮き彫りにする。(情熱大陸)


戦後日本の若者文化を一言で表すと、「画一性」ではないでしょうか。最適工業社会の中で上質な平均的製品作りを求め、それに携わる人材も上質な平均的であるように教育され、中流化を促進させ、少品種大量生産の製品を消費させる社会ができあがりました。それが「個性の重視」に向っても、方法論で「ゆとり教育」という画一的な個性化教育に至ったのは、いかにも戦後日本的ではありました。


「画一性」は安心感に担保されます。私達にとって、個性を主張する、自由になるということは、結構プレッシャーのかかることで、不安を増長したりします。かえって制服の中に安心感を充足させ、その中でのわずかな自由を楽しんだりします。私たちの時代にも制服の中のわずかな自己主張がありました。同一規格の学生服のボタンの数を増やしたり、ズボンの裾を広げたり、細くしたり。


日本人にとってファッションとはブームであり、画一性、同一性への入口です。この画一性、同一性の中でいかにささやかな自由、自己主張をするのかが日本人の特性で、そんな要求を満たしてくれるのがH&Mであり、その象徴が「益若つばさ」的なるものという言うことができるのではないかと思います。H&Mのビジネスモデルから、ちゃっかりしまむらにその方法論を援用する日本の消費者は、さすがに賢い。


時代は戦後60年の中流社会を経て平均的な「自分さがし」から、到来した格差社会の現実の中で、そんなささやかな「自分づくり」へ移行していると言えるのでしょう。それでも、このムーブメントをビジネスに乗っける場合は、この「ささやかな」というところがポイントになるのでしょうね。祭りの掛け声、「ワッショイ」は、「和を背負う」ということから変化した言葉だというくらい、日本人には「和」を大切にしてきたDNAがあるのですから。


関橋英作さんのコラム「マーケティング・ゼロ 」について、詳しくはコチラ。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/nmg/20080925/171593/?P=1&ST=nmg



関橋栄作

関橋英作(せきはし・えいさく);マーケティング・コミュニケーション・ユニットMUSB1949年、青森県生まれ。外資系広告代理店JWTでコピーライターから副社長までを歴任。ハーゲンダッツ、キットカット、デビアス・ダイヤモンド、NOVA英会話学校など、数多くのブランドを担当。その多くを、トップブランドに導き、ギャラクシー賞グランプリをはじめ、NYADC賞、ACC賞など数多く受賞した。


特にキットカットにおいては、クリエイティブの斬新さに加え、ビジネスの結果を出さなければ受賞できないAME(アジア・マーケティング・イフェクティブ賞)2年連続グランプリの快挙。アジアマーケットナンバーワンを勝ち得た。また、日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラーを取得。消費者インサイトを深く洞察する。女子美術大学・拓殖大学非常勤講師。


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