おそらく、こう質問すると、きっとみなさん、てんでに一番好きな人の名前をあげるに違いありませんが(笑)、あえてこの質問を出して、思い切り主観的な好みで答えたいと思います。
歴史上の人物はちょっと置いておいて、ここ100年くらいの間にエンターテイメントに関わった男性に限定して、舞台や映画やテレビなどで動いている姿を観たことがあるすべての人の中で、自分がナンバー1にカッコいいと思う人物は?
それは、フレッド・アステアです。
…誰それ?
とか、言わないように(笑)。
フレッド・アステアは、1930年代から50年代にかけてハリウッドのミュージカル映画で活躍した、ダンサーです。
俳優としても歌手としても一流でしたが、なんといってもやはりダンサーとして有名で、この時代のハリウッドミュージカルを席巻した、といっていい存在でした。
そのアステア、じゃあ、どんだけイケ面かというと、彼は残念ながら、いわゆる二枚目とは、ちょっと言えません。
ガリガリにやせていて、頭はラッキョウのような形で、なんというか、大人になって細くなったキューピーちゃん、という外見です。
ところが、このアステアが、ひとたび踊りだすと、周りにいる二枚目もマッチョマンも色を失い、その場の老若男女すべての視線が、彼に釘付けになってしまいます。
この時代にはまだ、ストリートダンスもディスコダンスもありませんから、彼が踊るのは、いわゆるソシアルダンスや、タップダンスなどですが、とにかく彼のダンスは、優雅です。
文字どおり、フロアーの上を滑っていくようで、時にペアで踊ると、相手の女性は、まるで空気に運ばれているかのように見えます。
この世には、ごくごく稀に、本当に魔法が使える人がいるのですが、フレッド・アステアは、そんな魔法使いの一人です。
また彼は、振り付けのあるダンスだけが優雅なのではなく、日常の動きの一つ一つが、実に洗練されていました。
一度、彼の出演した映画の中で、ダンスの流れからネクタイをしめるシーンがあったのですが、あれほどスムーズに素早く美しくタイをしめられる人を、他に知りません。
ハリウッドの30年代から40年代にかけての映画は、残念ながら、スクリーンで上映される機会がほとんどありません。
DVDで観ることはできますが、それでは彼の本当のカッコよさは、たぶん半分も伝わらないでしょう。
彼のダンスを観ていただけないのは残念ですが、外見や容姿ではなく、表現と動きが粋で美しいフレッド・アステアは、自分の中では、いつもいつまでも、カッコいい男ナンバー1なのです。