正造の強気と弱気と二枚舌⑮ | 足尾鉱毒事件自由討論会

正造の強気と弱気と二枚舌⑮

彼は、世の中のほとんどのことが気に入らず、友人達への手紙でその不満をぶちまけています。その前提は自分は正しいことをしていると言う意識ですが、しかし、単なる利己主義に過ぎないと言うことができます。
ここでは2通の手紙を紹介します。


「医者は病人すらあれば繁盛す。経済家は悪事を働けば繁盛す。法律家は愚人を欺けば繁盛し、政治家も賄賂で繁盛して、共に国家の悲惨を知らず。農民と労働者は食乏しく、家屋破れて雨は漏る。衣も汚れて虱(しらみ)多し。国家は早晩下落してほとんど株式の下落のごとし」(原田勘七郎宛。明治40年7月24日)


「国家は疾く滅亡して、社会独り苦悶の中にあり。東京はその病原地にして地方は被害地。・・・東京は実に良心保全の地にあらず。東京の一般は乱心するものの如し。本心を有する者ほど憐れなり。有するものほど悲惨なり」(逸見斧吉宛。明治42年11月10日)


彼が、物事を実に単純に、善と悪に分けていることがわかります。
農民と労働者は正直で貧乏であり、政治家や医者その他の社会の上層部の人々は悪事を働いてうまくやっている、東京は加害者で地方は被害者だ、と決めつけています。現実の世界では、このように単純ではありえません。しかし、彼は自己中心に物事を解釈しているため、世の中のことを観念でしか理解できないのです。なんと幼い精神構造なのでしょう。