この世は夢のごとくに候
建武三年(1336年)、楠木正成を湊川の戦いで破って京へ向かう足利尊氏の軍勢に後醍醐天皇は比叡山へ逃亡。上洛した尊氏は光明天皇を擁立するが、その二日後に突然出家すると言い出し、清水寺に願文を奉納した。「この世は夢のごとくに候」尊氏が清水寺に奉納した願文の書き出しにある言葉。私はこの言葉の響きがとても好きだ。この世は夢のようなもの。尊氏が願ったそれとは違うだろうが、「夢のような人生だった」と微笑んで生涯を振り返られる生き方ができればいいと思う。足利尊氏直筆、清水寺に納めた願文❝ この世は夢のごとくに候尊氏に だう心(道心)たはせ給候て、後生たすけさせ をはしまし候べく候猶々とく とんせい(遁世)したく候、道心たはせ給候べく候今生のくわほう(果報)にかへて後生たすけさせ給候べく候今生のくわほう(果報)をば直義にたはせ給候て直義あんおん(安穏)に まもらせ給候べく候建武三年八月十七日 尊氏清水寺 ❞(現代語訳)この世は夢のようなもの。もはやこの世で望むものはありません。私は出家しますので、来世の幸福をお与えください。現世の幸福は直義(弟)に譲りますので直義をお守りください。