田中啓文『罪火大戦ジャン・ゴーレ1』(ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)を読了
増田幹生=カバーイラスト
岩郷重力+Y.S=カバーディレクション&デザイン

2011年4月20日 初版印刷
2011年4月25日 初版発行
ISBN978-4-15-209207-6 C0093 Y2000E
定価:本体2,000円+税

メモあらすじ

西暦2192年、世界中で600億の死者の復活が始まった。
「最後の審判」ともいえる事態に従来の国家は崩壊、
人々は、スリル・スルリルリ博士が発明した“魂摘出装置”によって、
他者の肉体に“寄宿”する運命を余儀なくされた。
2217年、宇宙軍に入隊した桃屋ピンクは、
一休さんら5人で肉体を共有するクインテットだったが、
対エゾゲバロ・ログロ人の戦況悪化に伴い、
イエス・キリスト、ジャンヌ・ダルクらとともに
宇宙甲殻類ジャン・ゴーレによって惑星“ジュエル”へと向かう。
しかし“エデンの園”と噂される星でピンクらが目にしたのは、
神のあまりにも残酷な意志だった…。
もはや伝説のワイドスクリーン・バロック第1部。


(本書カバーより)

本

はじめに断っておくと
関西弁丸出しの「でんがなまんがな」口調に馴染めない人には不向きです
小学生男児レベルの下ネタの連続に精神的に耐えられない人にも向いていません
異種姦や迸るいろんな体液描写に「うっ」となる人にも向いていません
また何といってもオヤジギャグに嫌悪感を抱く方には絶対におすすめできません

それでもこんなに馬鹿なのに(いや阿呆なのに)
どこがすごいのかとワタクシなりに考えたのですが
死者の復活によって禁断のアノ人物(いや神)までも生き返らせて
その登場人物にしてしまったことだ
しかも神が◯◯◯(小学生が好きなあのネタ)だったとか
信心深い人からみたらそれはもう冒瀆の限り…
しかしさすがに偶像崇拝できないあの人物は直接には出てこなかったなあ
そこまで踏み込んだら文字通り「作家生命を賭けた」作品になりそうだ(笑)

そういった歴史の有名人たちの魂を肉体から分離して
人口過密状態だからという理由でひとりの肉体につき3~5人の魂を収容する
数時間交代(24時間を頭数いや魂数で割った時間)で覚醒して活動し
同居人の魂が覚醒しているときは他者の魂は寝ているという基本設定がすごい
リアル多重人格なのである
直近に覚醒していた魂の行動の途中で次の魂が目覚めるからこそ生まれてくる
登場人物たちのとまどいがあるのかと思っていたのだけれど
意外とあっさりいろいろなことを受け入れてしまうものだから
慣れって怖いな(←違う)と思うのでした

そしてそういった人物(魂)のひとりが日々の生活に倦み疲れ
駆け込んだはずの宇宙軍でさらにひどいめに遭うという展開…
そこからは怒濤のオヤジギャグ&下ネタ
これは ひ…酷い いや 凄い
敵はもちろん味方の宇宙軍すらひとりとしてマトモな人物がいないのだ
どういう頭の中をしているのだろうと思ってしまう

なぜエゾゲバロ・ログロ人が人類を襲うのかといった謎は残ったまま
宇宙船の航法も魂を分離抽出する方法も
もっといえばそもそもなぜ死者が蘇ったのかも
なぜみんな関西弁でしゃべっているのかも(笑)
すべてがぼんやりと謎のまま
とても深い話をしていそうでとても薄っぺらな話のようでもあり
ウイットに富んでいそうでたんなるナンセンスなのかもしれないし
時空を駆け巡っているようでじつはひとりの妄想・夢オチのようでもあり
なにやらやはりすべてがぼんやりとしているのです
これをワイドスクリーンバロックというのか?
結末篇にてさらなるとんでもないシカケと解決があることを期待しております

独断評価:80/100

罪火大戦ジャン・ゴーレ 1 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)/田中啓文

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