ちゃんのためなら エンヤコラ

母ちゃんのためなら エンヤコラ      

もひとつおまけに  エンヤコラ

 
じっと耳をすます  身体に染み込ませるように 


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この曲を踊られる方に出会ったのは桃太郎座長が初めて。
昨年拝見した際にも、曲の世界を体ひとつで表現する姿に驚いたことが記憶に新しい。
 
そして3月のある日、再び拝見することができた。


初見の時には気づかなかった、また新たに描かれた世界がそこにはあって不思議な感覚で劇場を後にした。
 



“役者さんが踊る舞踊”
 
このおもしろさを改めて感じた一曲だった
 
大衆演劇の役者さんは毎日毎日違う人を演じて、違う世界を生きる。
演じる役の人物ならどんな感情になるか、どういう行動をとるか、どんな言葉を発するか…
考えては身体に落とし込み、舞台の上の世界を生きる。
 
そういう役者さんだからこそ踊れる舞踊、現すことができる世界がある。
 
役者さんが踊る舞踊は色んな景色を見せてくれる
 
ピンスポットの下、心無い言葉や暴力に怯える少年が生きた世界を、見た景色を…


 

子どもの頃に 小学校で
ヨイトマケの子ども きたない子どもと
いじめぬかれて はやされて

 

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四方八方から襲ってくる嵐が去った時、その少年はふっと息を吐いた。
まるで“今日も終わった”というような表情で
 


この瞬間に彼が生きる毎日が浮かび上がった
 
この少年は来る日も来る日も暴力に耐えている
身体の痛さも心の痛さも、ただただ過ぎ去るのを待つしかない。
自分の力ではどうしようもないその現実に潰されてしまわないように
来る日も来る日も耐えては、自分自身で区切りをつけて毎日を生きているのだろう。

これが彼の日常なのだ

 


背負ったカバンに手をかけて下を向いたまま帰り道を歩く少年
 
膝をついたままの桃太郎座長がトボトボと歩く少年に見える
 
舞台の上に曲の中の“誰か”が見えたとき、その先にはもう一つの世界が広がる
 
姉さんかむりで 泥にまみれて
日に焼けながら 汗を流して
男にまじって  綱を引き
天にむかって  声あげて
力の限りに   うたってた
母ちゃんの働く とこを見た

 

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悔し涙で滲んだ彼の目が母親の姿をとらえる
その姿は徐々に鮮明になっていく
 
少年の目を通して汗を流して働く母の姿が見えてくる
 


 
母親の姿を見て、母親の唄を聴いて、たくましい大人になっていく少年。

ここにも役者さんが描く世界があった

 
ピョンと飛び跳ねた少年の手には、何か果物が握られていた。
木からもぎ取ったその果実を一口かじり、空に向かってポンポンと投げる。


直接的ににはうたわれていない少年の姿が、役者さんの身体を通して見えてくる。


少年らしいこんな無邪気な一面があるんだ、彼の毎日の中にもこんな穏やかな一瞬があるんだと張り詰めた空気が少し和らぐ。


 
そんな無邪気な少年も勉学に励み、立派なエンジニアとなる。
その頃にはもう、あの強い母はいなかった。
 


苦労苦労で   死んでった
母ちゃん見てくれ この姿
母ちゃん見てくれ この姿

 

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泣きながらトボトボと歩いていた少年が見せた、誇らしげでどこか悲しげな表情をお母さんは見ているだろうか。
 
どんな時も彼を支えてくれた唄が聴こえてくる
 
母親の歌声と少年の声が重なるように
 
世界一のあの唄が…
 

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見たこともない世界が見えたり、聴こえるはずのない声が聴こえることがある。
 
役者さんが踊る舞踊にはそんな不思議な力がある
 
その曲の世界を生きる役者さんと、役者さんの目を通して見える世界。
 
この二つの景色が見えたとき、曲の世界に色がついていくような感覚になる。


思いもしなかった、考えもつかなかった世界が時には鮮やかな、時には悲しげな色で彩られていく。
 
踊る役者さんが変われば、現れる世界も色も変わる。
 
その時、その瞬間にしか描かれない世界、つけられない色。

今日はどんな世界をどんな風に彩って見せてもらえるだろうか?

役者さん一人一人の感性と身体一つで描かれる世界

ほんの数分で消えていくその世界は観客の心の隅にそっとしまわれて、ずっと思われていく。

 



 

2017年3月26日 @十三 遊楽館

 

 

 

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「よく俺に縄をかけてくれた…」

 

ずっと暗闇を歩いてきた人が、どこかホッとしたような顔で言った

 

この時やっと、彼は暗闇から抜け出せたのかもしれない

 

 

 

キリシタン狩りによって二親を亡くした幼い三人の兄弟妹は、小さな手と手を繋いでただただ走った

 

人ごみの中でいつしか離れてしまったそれぞれの手

 

突然の別れからどれだけの時が経っただろうか

 

それぞれが懸命に生きた道は思いもよらないところで交わる

 


 

碇床の卯之吉の妻となった妹・花江

 

十手持ちになって悪人を追う次男・月太郎

 

伴天連組の頭となり罪を犯してきた長男・雪太郎

 


永遠の別れを意味する三人の再会は、喜びよりも悲しみに満ちていた

 

兄は弟妹に詫びる

「お前たちは主の導きで明るい方へと行った。

でも俺は違った。坂道を転がるように暗闇に落ちてしまった。」と

 

歩んだ道は違っても、それぞれが生きるのに必死で、それぞれが兄・弟・妹との再会を願った


鬼十郎と名前を変えて暗闇を歩きながら、腰からさげた十字架と亡き母が持たせてくれた花守りを信じた雪太郎

 

望んだ形の再会では無かったかもしれない


それでもきっと彼は救われた

 


あの日、離してしまった手…  

 

花江の手には今、卯之吉との間にできた小さな小さな子どもが抱かれている

 

雪太郎の手には今、お上から預かった十手が握りしめられている

 

月太郎の手には今、弟が打った縄が…

 

 

「よく俺に縄をかけてくれた…ありがとうなぁ」

 

兄は弟に言う

 

真っ暗闇を生きてきた彼が、最後に見た光は一番見たかった光だったのだろう

 

兄の前を歩けない弟

 

妹の簪を手に、打たれた縄をグッと強く引く兄

 

あの日、月太郎が必死に追った兄の背中

 

今はどう見えているのだろうか

 

 

弟の前をゆっくりと歩く兄の目は真っ赤で、恐ろしいほど真っ直ぐと前を見据えていた

 

振り返らない、振り返ってはいけない

 

戻りたくても戻れない


二度目の別れを迎えた三人


どんな道を歩んできても兄は兄


三つの魂はそれぞれの心の中で生きて行く

 

 

 

 



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伴天連鬼十郎(長男・雪太郎)を演じた博多家桃太郎座長

真っ黒な衣裳に身を包み登場

その只者ではない空気は不気味さを感じるほど

縄を打たれている状態で交わされる、三人の言葉にはならない感情の行き来に胸が締め付けられる

弟を引っ張るように歩いて行くときの目は、圧倒されるような力を帯びていた

ほのぼのとしたセンターの雰囲気に桃太郎座長の溢れる気迫がひときわ浮き立ってみえた

 

 

 

 

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役人・清五郎(次男・月太郎)を演じた筑紫桃之助座長

月太郎としての気持ちと役人・清五郎としての役目の間で揺れ動く

どうしても兄の縄を引くことができず、兄に引っ張られるように歩く姿が印象的だった

随所に桃之助座長の役への誠実さがみられた

 

 

 

 

{3B30F5B0-5C26-431A-A0F8-819BB1DB064D}妹・花江を演じた筑紫あいさん

たとえ罪を犯してしまっていても純粋に兄を思い続ける健気な姿が印象的だった

雪太郎が歩む背中に響いた「兄ちゃーん!」と叫ぶ声が今も耳に残っている

 

 

 

 2017年2月7日  @ゆの蔵

 

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じゃあ兄の幸せは誰が祈ってくれるんだろう

この人の幸せは誰が祈ってくれるんだろう

顔の半分に痛々しい火傷の痕が残るこの人の…




「弟の幸せを祈ってやるのが兄のつとめか…」

大きな身体の強い兄は、何度も何度も、その言葉をつぶやいた



喧嘩にはめっぽう強い、男気溢れる兄・鉄治

喧嘩は弱いが優しい弟・万治

綺麗な顔の弟と顔に火傷の痕がある兄


万治は一家のお嬢さん・お花と末を誓い合う仲
親分に二人の仲を切り出せない万治に、痺れを切らしたお花が親分に打ち明ける
誰と一緒になりたいんだ?と聞く父にお花は答える
「私ね!鉄治の…」

この言葉で喜んだ父
「お前はやっぱり見る目があるな!」

鉄治の弟・万治と一緒になりたいお花

娘は鉄治と一緒になりたいと勘違いした父


縁談話を鉄治に伝える親分
「本当にあっしですかい?」
「誰かと間違ってるんですよ!」
と相手にしない

「見た目じゃなく、お前の男気に惚れたんだ!」という親分の言葉にも首を縦にはふらない

もし本当だとしても恋ってのは熱と一緒で、いつかは冷める
なんでこんな面の男と結婚したんだろうと後悔する日が必ず来ると

そう笑ってあしらう鉄治


なんて軽くこんな事を言えるんだろう
この人はどうやって生きて来たんだろ

〝誰かが自分の事を好きになる″という事は自分の人生においてある訳がない、とそう思って生きてきた人


それでも真剣な親分の言葉に、最後には縁談話を受ける鉄治


ほんの束の間の幸せ


この幸せはすぐ崩れ始める


親分の早とちりだと分かり、弟は兄へと真実を伝える


「そんな話!信じられるか!」とつっぱねる兄

「本当なんだ、信じてくれ」と頭を下げる弟


お前の言葉なんて信じられない、お嬢さんに直接聞きに行くという兄に、弟は口にしてはいけない言葉を吐く


「嬢さんが兄ちゃんの顔見たら、怖がるじゃねぇか!」


聞きたくなかった、弟だけはそんな風に思っていないと信じていたのに、そう思いたかったのに


そして兄もまた、弟に口にしてはいけない言葉を吐いてしまう…

二人っきりの兄弟の間に、生まれる深い溝


自分が顔に火傷を負った訳を、世間の人にいくら化け物扱いされても、お前だけは違うと信じて生きてきたことを、溢れる怒りを抑えて話す兄


ずっと我慢してたのに、ずっとこれで良かったと言い聞かせてきたのに
自分が守った人からの許せない言葉
その人を信じることだけを支えにしていた自分の生き方が崩れる瞬間


兄が弟に放った言葉もまた、言ってはいけない一言だった

でも人ってそんなに強くない、そんなにカッコ良く生きられない

弟だから、兄だから…
なんだよそれ…

弟の一言がどうしても許せなかった兄

家を出て行く弟


そこにやって来たのは親分
娘のお花がさらわれた

もう自分には関係ない

親分は言う「弟の幸せを祈ってやるのが兄のつとめだろう」と

そうなのか?弟の幸せを祈るのが俺のつとめか?

言い聞かせるように呟いて、乗り込む鉄治

あっさり捕まっている弟と、捕らわれたお嬢さんを助け、相手はみんな一人で斬った

お嬢さんを守ったのは俺だ

こんな弱っちい弟じゃない、俺がお嬢さんを助けたんだ

嬢さんは俺と一緒になってくれるはずだ

それでもお花は万治を思う

お嬢さんから発された言葉が鉄治に突き刺さる
弟だけじゃない、まただ
守ったのに助けたのに…
その言葉に抑えていた怒りが爆発する


気づけば大きな大きな兄が、小さな小さなお嬢さんに刀を振り上げている

泣きながら兄ちゃん!と叫ぶ弟の声が邪魔をする


強かったんじゃない、強くなるしか無かった


「あれから俺は自分の面は見ちゃぁいねぇ」


そう言っていた兄が刀に映る自分の顔を見る

見なくても知っていたから

散々化け物呼ばわりされて来たから

どう刀に映しても、顔の半分には火傷の痕

なんでだ?なんだこの面は

弟を助けたからだ

でもそれでいいって生きてきたんだ

弟じゃなくて、俺でよかったって

そりゃ無理だよな、この面じゃ…



泣いて叫ぶ弟は、自分が命をかけて助けた弟

鉄治はやっぱり兄だった

でも最後まで欲と見栄と意地が邪魔をする



最後まで強くあろうとした鉄治

そんな強い兄の事が本当は大好きな万治

鉄治が結んだ二人の手

兄の胸で泣く万治


弟の幸せを祈ってやるのが兄のつとめなんだろ?


そんな風にめいいっぱい意地を張って、めいいっぱいカッコつけて去って行く兄


あなたの幸せもきっと誰かが祈ってくれる
私たち観客は祈ってるよ!
そうじゃないとあんまりだよなぁと花道を去って行く鉄治の横顔を観ながら思った


もっといい人にも、もっとカッコよくも、もっといい話にもできるだろうけど、人ってそんなにできてない、人生ってそんなに簡単じゃない
強そうに見える人も抱えているものがあって
頼りなく見える人もじっと耐えてる事がある

みんなそうやって生きてくんだ

鉄治が歩いて行く先に、強く強くならずにすむ未来が待っていればいいなぁ



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兄・鉄治を演じられた弟座長・博多家桃太郎さん

痛々しい火傷の痕とは裏腹に「こんな面ですよ!」と軽く言ってのける
心の奥底にしまっていた思いが爆発する時は、観ているこちらもヒヤヒヤするほどの気迫
万治とお花の手を取るものの、なかなか結んでやれず、逡巡の末、後ろ手で結ばせたシーンがとても印象的だった
静と動の切り替え、間の使い方が大胆かつ丁寧で、鉄治の気持ちがグッと押し寄せて来るようだった



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弟・万治を演じられた座長の筑紫桃之助さん

親分、お花の前と鉄治の前での変貌ぶりに驚いた
兄に対して言ってはいけない事を言ってしまった、と心では思っていても、それを素直に認められない
今までこの強い兄にたくさん助けられてきたと同時に、我慢もたくさんしてきたんだろうなと思わせる

本当はお兄さんの桃之助座長、でも兄弟喧嘩した時に意地でも謝らない、謝れない弟という姿がとても自然だった



2017年1月27日   @和歌山 夢芝居


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