職場の「万里の長城」 - 前編
弊事務所には「万里の長城」があります。
"Chinese Wall"と言われております。
何のことかと申しますと、つまり「侵入禁止の壁」です、「バリア」です。
法律事務所って、新しい案件を受ける前にまず「コンフリクト・チェック」をするんですよ。
既存のクライアントさんの案件と利益の相反がないかどうか過去の案件データを調べて確かめるわけですね。
もし利益の相反が見つかってしまった場合は残念ながら新規案件は門前払いということになります。
ところがですね、利益相反のあるクライアントさんの双方が「それを承知の上で頼みます」と言ってきた時には引き受けるんです。
そして"Chinese Wall"の出番となるわけです。
"Chinese Wall"の指令が出されますとそれはそれは大変なんですよ。
A側の案件「プロジェクト・ゴジラ」を担当するゴジラチームに組み込まれるスタッフ
B側の案件「プロジェクト・モスラ」を担当するモスラチームに組み込まれるスタッフ
というようにまずチーム編成がなされて、各メンバーはそれぞれのプロジェクト進行に関する誓約書に署名しなければなりません。
各チームメンバーはそのプロジェクト固有のパスワードを与えられ、コンピューターの書類作成時にはアクセス制限をかけて外部に漏れないように配慮するほか、使うプリンターもコピーもファックスも別々のものを使うのです。ゴジラチームの各弁護士のオフィスの入り口には「注意! ここからモスラチームの出入り禁止!」という張り紙がはられ、気軽におしゃべりに入ることも出来ません。
そんなの別に大変じゃないでしょ、と思われるかもしれません。
でも同じ部署で同じ階で同じキュービクルで働いている同僚が2つのチームにまっぷたつに分けられてしまうってことはですね。
何十件もある案件のうちゴジラ案件一つだけのためにわざわざ別の階に移動してFAXしたり、コピーしなきゃいけないわけです。
コピー一枚のためにいちいち指定階の指定コピー機におでかけしなくちゃいけないのですよ。
普段はコピー専用係がやってくれる大量コピーも社内バリアのせいで自分達で全て行わなければなりません。
ゴジラ案件で超忙しい時に、手の空いてる近くのモスラ秘書には手伝ってもらえないのです。
秘書にとって更に困るのはですね、自分の上司の弁護士達がゴジラチームとモスラチームに分けられてしまう場合です。
つづく