チャンドゥさんのご実家へおよばれに行く(2006年1月25日、結婚式の翌日の夕方) | ナマステー! *アーティチョークのインド見聞録*

チャンドゥさんのご実家へおよばれに行く(2006年1月25日、結婚式の翌日の夕方)

今朝早くお迎えが来て、よっちゃんはチャンドゥさんとともにカタックのご実家へ行ってしまった。2月の初めに香港の新居へ引っ越すまでの短いあいだ、新婚夫婦はチャンドゥさんの実家で過ごすことになっている。
よっちゃんの大学時代のクリケット部のチームメイトの皆さんやチャンドゥさんのご友人は、帰国のためブバネーシュワルを離れデリーへ。残ったのはよっちゃんの親戚一同とよっちゃんの大学時代のクリケット部の先輩Yさんご夫妻、そして添乗員のKさん。人数が大幅に減ってちょっと寂しくなってしまったけれど、このあとも披露宴、観光などのお楽しみが待っている。

今日の夕方は、チャンドゥさんのご両親の家へおよばれに行くことになり、インド居残り組とよっちゃんの家族の皆さんでタクシーに分乗してカタックへと向かった。
到着してまず目に入ったのは家全体に飾られたイルミネーションである。濃くなり始めた夕闇に浮かぶ光はまるでクリスマスみたいなムードである。昨日訪れたときは昼間だったので気が付かなかったのかもしれない。よっちゃんのおかあさんが「わぁ、凄い。」といって驚いていた。くにちゃんを除くと、よっちゃんのご家族がチャンドゥさんのご実家を訪れるのは今日が初めてということだった。
ご家族と親戚の皆さんの歓迎を受け、ヒンディー語と英語が堪能な添乗員のKさんに通訳してもらいながら、ご両親とチャンドゥさんに家を案内してもらう。家の外で最も興味深かったのが、結婚式の時と同じような四角い天蓋付きのスペースである。



ヒンドゥー教徒として様々な儀式をここで行うということだそうだ。ご自宅にこれがあるのを拝見すると、ヒンドゥー教徒にとって宗教儀式がいかに大切にされているかが理解できるような気がした。チャンドゥさんのご家族にとって、ヒンドゥー教の宗教儀式はおそらく日常の一部なのだ。結婚式のあとも、新婚夫婦は一週間毎日ここでお祈りをするということだった。

家の周りにはバナナなど様々な種類の樹木が植わっていて、ポットにもたくさんの種類の苗木や花がある。まるで紐のように細長い実がたくさんなる珍しい樹木もあって名前を教えてもらったのだが、それはSHOESTRINGだったかSHOELACEだったか?とにかく「靴紐の木」という面白い名前だった。
チャンドゥさんのお父さんの趣味はガーデニングで、この家へ引越してくるとき、若木や苗のポットがトラック三台分(!)もあったということだ。私たちが驚いて「ええーっ?!」と声を上げると、お母さんが「そうなのよ。ま、しょうがないわね。」という感じで、おどけたように目をくるくる回して笑った。お父さんはいろんな花や樹木について説明をしながら庭を案内してくださった。

家の中も案内していただいたあと居間で親戚の皆さんとともにくつろいでいると、愛犬プルートがリードを解かれて嬉しそうに尻尾を振りながらこちらへやって来た。よっちゃんの実家でも犬を飼っているし、私も犬は大好きなのでみんなでプルートを撫で回してやると、プルートは寝転がって愛嬌たっぷりに甘え始め、笑い声が起こってその場の空気がいっぺんになごんだ。
居間には絵の額が飾られていて、なかには日本の五重塔のような絵もあった。昨日訪問したときに、東京神田の専門店で買った浮世絵を額装してチャンドゥさんのご両親へプレゼントしたのだが、それも気に入ってくださればよいのだが。
 
家族で

屋上で夕食もご馳走になった。インド滞在中は、インド料理が辛くて食べられなかったというようなことは一度もなかった。カレー料理にしても、野菜、豆、肉(鶏やマトン)、魚とヴァリエーションはさまざまで、辛さはさほどでもなく香り豊かなスパイスが効いてどれも美味しくいただいた。この地方のインド料理はあまり辛くないのかもしれないとも思ったが、よく考えてみると、食事をしたのはホテルのレストランかチャンドゥさんのお宅ぐらいである。私たちが知らないだけで、ほんとうはこの地方にも辛ーい料理があるのかもしれない。チャンドゥさんに伺うと、今日の料理も私たちのために辛さは控えめにしてくださっているとのことだった。
ちなみに敬虔なヒンドゥー教徒でいらっしゃるチャンドゥさんのご両親は、ヴェジタリアンであり、もちろん飲酒は一切なさらないということである。
香辛料も控えめで全く辛くない料理もいくつかあり、チャンドゥさんのお母さんの手による「ほうれん草のおひたしふう油炒め」のような一品も大変に美味しかった。辛くなくて、野菜と何か豆腐に似た食材を使った料理が美味しいのでチャンドゥさんにきいてみると、この豆腐のようなものはナチュラルチーズの一種でパニールというのだそうだ。そういわれてみるとカッテージチーズに似ている。パニールを使った料理はインド滞在中に三回ほど食べたが、いずれも美味しくいただけた。

新妻のよっちゃんにふと目をやると、両手は腕輪がいっぱいでジャラジャラしているし、指には指輪がいっぱい。さらにはおでこにもチャームがぶら下がっているし、足の指にも指輪。足首にもアンクレットが。
「これでは何をするにも不便やねえ。」
と私が言うと、
「花嫁は結婚式がすんでも全てのアクセサリーを8日間はずさず、つけたままにしなければならないんですって。」
と言うではないか。
「え?お風呂に入るときも?」
と思わず訊いてしまったのだが、よっちゃんの返事は
「うん。」
だった。
「でね、これとこれとこれはずーっと身につけていなくてはいけないの。」
といっていくつかの腕輪や指輪とおでこに下がっている金のチャームを指し示した。

普段はアクセサリーの類をほとんど身につけない私などは、この大量のアクセサリーを見ただけで、インドの新妻家業というのも大変そうだと一瞬思ってしまったのであるが、それは要らぬ心配というものだ。よっちゃんはこういうインドの風習をも受け入れて楽しんでいる様子だったし、それに何より、よっちゃん自身がとても幸せそうだから。
帰り際、よっちゃんのお母さんがチャンドゥさんのお母さんにお別れの挨拶をした。
「よっちゃんがインドの風習になじめるかどうか、ご両親ともうまくやっていけるかどうか、大切な娘のことなのでいろいろと心配しています。娘をどうぞよろしくお願いします。」
するとチャンドゥさんのお母さんは、よっちゃんのお母さんの気持を汲みつつ慎重に言葉を選び、相手の不安をなだめるように「Don't worry.」という言葉を何度か繰り返しながら、優しくゆっくりとした口調で仰った。
「私にも娘がいますから、娘を嫁がせる母親の気持は分かるつもりです。よっちゃんは、これからは私たちの娘でもあるのです。自分の娘と同じように彼女を大切にしますから、どうか心配なさらないでください。あなたたちも、これからは私たちの家族です。これからはこの家をあなたたちの家だと思って、どうぞ遠慮なくいつでもいらしてください。」
このときのチャンドゥさんのお母さんの言葉は大変に印象深いものだったので、今も私の記憶に鮮明に残っている。