お久しぶりです(・_・;)

コソリと続きをアップしてみるｗ

「悪りぃ、俺、今日もデート」

「また？」

「ほら、もぅ迎えに来てるし。んじゃ、また明日な」

「あぁ」

校門の前に横付けされた外車に乗り込むタケルを見送った後

「じゃ、俺らも帰るか」

「うん」

自転車の後ろに流を乗せ走り出す。

俺たちは、あれからも以前と変わらない日々を過ごしていた。

全く意識していない、と言えば嘘になる。

けれど俺は、それを表に出してしまうと終わりになってしまうような気がして、普通のフリをすることに必死になっていた。

「そういえば、マサル君、進路決めたんだよね」

「あぁ。流は？」

「いいな～って専門学校見つけちゃったんだ～」

「へ～。なんて学校？」

「ふふふ。秘密～」

以前と変わらない他愛も無い会話。

何もかもが、俺の心を除けば、今までと変わらない時間。

でも時々。

流の、俺の服を掴む手に力が入っているのを感じていた。

「もう卒業なのね～」

年が明け、受験も終わり、二月も過ぎようとしていたある日、『新年会をやりたい！』という春さんに、俺たち３人は呼び出され、いつものごとく泊りで別荘に集合した。

「よし！もう卒業なんだから、解禁ね♪」

という、訳の分からない理屈によって、俺たちのグラスにはアルコールが注がれる。

「はい、じゃ、かんぱ～い」

無邪気な声を張り上げる春さんは、少し寂しそうな笑顔を見せ、

「みんな本当に素敵な進路なんだものね～。春ちゃん、ずっと応援してるからね、ね！」

と、何度目かの同じセリフを口にし、早いピッチでグラスを空けていく。

そして･･････

「おい、春！は～る！」

ソファにぐったりと凭れて動かなくなる。

「ったく･･･。　仕方ねぇなぁ～」

「このままじゃ、風邪ひいちゃうね」

「だよな～」

「部屋まで運ぶか？」

「あぁ。俺が連れていくよ」

「一人で大丈夫か？」

「俺を誰だと思ってんだよ？酔ってたって春くらい余裕だって。ほら、春、掴まれよ」

「いや～ん･･････。お姫様だっこぉ～」

「はぁ？･･････仕方ねぇなぁ」

酔いつぶれた春さんを軽々と抱きかかえると、タケルは階段を上って行った。

「春ちゃん、珍しいね」

「あぁ」

やっぱり、タケルが留学するっていうのが寂しいのかな。

タケルだけじゃない。

俺も、今までみたいに簡単には会えなくなる。

「ねぇ？」

「ん？」

「今から星を見に行こうよ」

「今から？寒いぞ？」

「うん。ダメ？」

「ダメ、じゃ、ないけど･･････。流の上着薄くないか？」

「うん。でも行きたいんだ」

「･･････解った。確か、何年か前に置いたままになってる防寒着があるかもしれない」

ちょっと見てくるよ。

そういうと俺は階段を上がり部屋へ向かう。

クローゼットの中を探ってみれば、やはり奥の方からダウンジャケットが出てくる。

中学の時に気に入ってたんだけどな～。と記憶が蘇り懐かしく思う。

もっと言えば、コレ、例の初めての相手の先輩に買ってもらったんだよな。

あの人も、結婚するからと去っていったな……と、思い出し胸が重くなる。

いや、違う！

『も』じゃない！

あの人『は』だ。

自分の言葉に打ちのめされ、それを振り払うように大きく首を振る。

「よし」

それから部屋を出て流のもとへ戻る。

「ほら、これ着ろよ」

「いいの？」

「でも、ちょっと埃っぽいぞ？」

「ううん、平気。ありがと」

その上着を羽織るのを待ってから

「じゃ行くか」

「うん」

俺たちはいつもの場所へ向かった。

流と二人だけで夜空を見上げるのは何度目だろう。

そう思っていると

「わたしたち、何度一緒に観てるんだろうね？」

と流が言う。

「俺も。同じことを考えてた」

「そうだと思った」

「そう言うと思った」

冷たい風が頬を撫でるように通り過ぎる。

火照った体が少しずつ醒めていくのが解る。

俺たちは、ただ、黙って静かに見上げていた。

「マサル君は、どうして警察学校なの？」

いつかは聞かれるだろうと思っていた問いだったから、一瞬驚きはしたものの、あらかじめ用意してあった「昔からその職業に憧れてたんだ」という言葉を澱みなく口にする。

「そうなんだ。あんなに一緒に居る時間があったのに全然知らなかったなぁ～」

残念そうにつぶやく流に、俺は心の中で

ごめんな。

嘘なんだ。と、謝る。

そのまま訪れた沈黙が苦しくて、話題を変えようと試みるがなにも浮かんでこなくて、気づけば「流は？」と聞いていた。

「わたし？わたしは母親が看護師で･･････昔から憧れてたの。いつか、大切な人に何かあった時に助けてあげられたらって」

夜空を見上げたままだから、流がどんな顔をしているのかは解らないけど、自分の運命を受け入れ、それでも将来を見据えて着実に歩んでいく姿は格好良いなと思った。

それに比べ俺は･･････。

なんて格好悪いんだろう。

全寮制で、朝から晩まで拘束されて自由な外出も少ない。何も考えず、与えられたことを黙々と熟して、そして。

いつか忙しさに紛れてこの想いを忘れられたら。

そう思って選んだだけなんだ。だから

「マサル君なら、きっとステキなお巡りさんになれるね」

なんて言われると、俺は、罪悪感にさいなまれる。

「流。俺……」

「大丈夫だよ」

「え！？」

「マサル君なら、絶対、大丈夫だよ」

その向けられた笑顔に押され、俺は「ありがとう」と言葉が溢れていた。

「なにが？」

「なんとなく」

「ふふふ。変なの」

「変だな」

「ねぇ？」

「ん？」

「いつか、またこんな風に一緒に星が観れるかな？」

そんな日は訪れるんだろうか？

でも、いつか、を、夢見るくらいは許されるよな。

「たぶん……いつか」

「そうだよね、いつか、きっと」

「あぁ、きっと」

これから先、俺たちの道は一度も交わらないかもしれない。

それでも。

「その時までに、流れ星を見逃さないように練習しておくね」

「じゃ、俺は、何時間寝転んでいても寒くならない毛布でも探しておくよ」

「うん。約束ね」

「あぁ」

差し出された小指。

「約束な」

満点の星空の下、その小さな指に自分の小指を絡ませた。

３月

俺たちは高校を卒業した。

そして、流は、アイツと正式に婚約した。

「なぁマサル？」

いつも通りに突然訪れて、自分の家のように俺のベッドで寝転びながら雑誌を読んでいたタケルが急に改まった顔を向ける。

「なに？」

「俺さ、ちょっと早いけど明日、日本発つわ」

「は？」

「金髪レディでも口説いてくるわ」

と、ニヤリと笑う。

「お前、急じゃねぇか」

「見送りには来なくてもいいぜ」

「行かないよ」

「冷てぇなぁ～」

「どっちだよ！」

こんな他愛も無い会話も、しばらくは出来なくなると思うと感傷的になりそうになる。

「そういえば、俺、お前に餞別持ってきたんだぜ？」

「え？ってか、餞別って普通見送る側からじゃねぇの？」

「まぁまぁ。そんな硬いこと言わずに」

そういうと、タケルはコンビニ名の入ったビニール袋から雑誌サイズの茶封筒を取り出す。

「･･････なんだよその怪しさ満載の袋は」

警戒する俺に、タケルは嬉しそうに笑う。

「エロ本じゃねぇぞ？」

「解ってるよ！」

俺の反応が想像通りだったからか

「一人じゃ何にも出来ないカワイイマサルちゃんに～♪」

と突然嬉しそうに歌い出す。

「なんだよソレ」

「ほらほら～、ムッとしないの～♪」

そういうと、手にしていた封筒を持ったままヒラヒラと舞い、俺の目の前に差し出す。。

「お節介だって言ったんだけど、どうしても春が渡せって譲らなくてさ」

「春さんが？」

「あぁ。ほら」

手渡された封筒は薄くて軽い。

「んじゃ、渡したし、帰るわ」

「え、もぅ？」

「俺の今日の用事、コレだけだし」

「さっきまで思いっきり寛いでたじゃねぇか」

「まぁまぁ。俺もさ、ホントはマサルと過ごしたいところだけどさ、日本のカノジョ達が最後に抱けって煩いんだよな～♪」

「お前らしいな」

「まぁな。んじゃな～って、忘れてた！春から伝言もあったんだった」

そういうと、タケルは俺の耳に口を寄せ……

チュッ♡

「え！おい！なんだよ！！」

「春が、あたしの代わりにしろって」

「はぁ？」

「うそうそ♪」

なんなんだよ！

「ほんとはさ、『また一緒に流星群を観にいらっしゃいね』だってさ」

「ん？」

「『先のことは、誰にも解らないわよ』って」

「え？あぁ。そうだな。じゃ、お前の帰国のタイミングでまた行くか」

「う～ん。そうじゃねぇんだよな～。まったくお前はダメダメだな」

「なんだよそれ」

「最近のお前、お前らしくないぜ？」

「……俺らしくって？」

「まぁいいや。とりあえず、餞別も伝言も伝えたから、こんどこそ、行くわ･･････っと電話だ。あ、もしもし俺。あぁ解ったって今から行くから指示通りの格好で待ってろって、はぁ？お前、そんなんじゃオシオキ増え･･････」

電話を耳に当てながら部屋を出て行くタケルの背に、俺は笑いながら「じゃぁな」と手だけで合図する。

急に静かになった部屋。

まるで取り残されたような気分にさせられる。

確かに、タケルにも、そして流にも置いて行かれたようなもんだけどな……。

って、ダメだな～、俺。

コレがタケルの言う、俺らしくないってことかなぁ～。

ため息を付いたとき、ふと、手渡されていた封筒の存在を思い出す。

糊付けされてない封筒は簡単に開き、中に指を差し込むと、中からは薄い冊子が出てくる。

「なんだこれ、学校、案な……い……」

その瞬間、春さんからの伝言を思い出し、俺の心臓は痛みを感じるほど大きく跳ねた。

そこには、

『警察病院看護専門学校』

と、書かれていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おわり

見切り発車で、たしか１０月くらいの話だったのに、気が付けば４月だよ……。

年月が過ぎるのはあっという間だねぇ～……（遠い目ｗ）