忘れてもいいよ ~アルツハイマーの夫との日々~

忘れてもいいよ ~アルツハイマーの夫との日々~

2004年12月に53歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断された夫と ネコ3匹とのささやかな生活の記録です。

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現在、アルツハイマー病の進行を止める、もしくは若干の治療効果が期待されると


いう、新薬の治験に参加させてもらっています。





初めて大学病院で診察を受けたのが6年前。





当時は若年性アルツハイマーを診てくれる、近隣の病院は私には思いつかず、二人


で電車で行くと、片道2時間程かかる、都心のこの大学病院に通いました。






最初の1~2年位は、診察の他に色々な検査などがあったので、1~2ヶ月に一度は


通っていましたがその後は3ヶ月に一度の診察で、特になにもなければアリセプトを3


か月分頂いて帰るだけになっていました。




今は、車で通っています。



電車だと、トッピーが人疲れすること、車なら二人でワイワイしゃべったり、歌ったりし


ながら行けるのと、帰りに実家の両親の所に寄るのに便利なのが理由です。





アリセプトをもらうだけなら、近くの病院でも良いのは分かっていました。


休みを1日つぶして、交通費もかかる。




でも、病院を替える気にならなかったのは、最新の治療に一番近いのはここだという


思いがあったからでした。




それには、「治験」も含まれていました。




待合室には、いつも「治験に参加しませんか」のポスターが貼ってあります。




随分前に、主治医の先生に治験について尋ねたときは、今はないようなことでそのままになってしまいました。




そして、2009年の春に主治医から治験に参加しませんかという話をいただきました。




今回、参加しているのと同じ薬の治験でしたが、その時は、アルツハイマーになりやすい遺伝子型の人が対象でトッピーは違ったので、参加できませんでした。




2009年の秋に、再び主治医から、今度はアルツハイマーになりにくい遺伝子型の人が対象の治験が始まるとい


うことで、お話がありました。





主治医のほかに治験コーディネーターの薬剤師さんからも、詳細な説明を受けました。





家に帰ってから、何日も、何日も、何度も、何度も、トッピーと治験に参加するか話し合いました。





パンフレットには多くの参加資格が列挙されています。




○過去にアルツハイマーの治験に参加したことがない方


○アリセプト以外の治療薬を服用していない方


○介護者と同居し、介護者も全ての日程に本人と同伴できる方


○日本語の話せる方
  その他、いろいろ・・・・・




トッピーは、私の決めたことに無我に反対することはほとんどありません。



30年間いつも、私の願いを聞いてくれてきたように思います。





でも、今回はトッピーのことです。




トッピーの人生の中の、決定を求められることです。




治験とは何かから始まり、40%は有効成分の含まれていないプラセボであること、



色々な検査で病院に行く回数が増えること等等・・・






私は、最初、アリセプトも飲みながら参加できる治験なので、これで新薬も効果があ


って進行が止まるか多少は改善されるなら参加しない手はないと思っていました。





でも、トッピーと何度も何度も話しているうちに、私の気持ちに変化があらわれました。




プラセボだと、当然だが新薬が効果のある薬であっても、その恩恵は受けられない。





もしかしたら、プラセボ投与になるかもしれないけど、誰かが参加しなければ新薬は出来ない。




どちらも、新薬開発という観点からは同じく大切なのだ。






だから、「治験」に参加することは社会貢献なのだ。






この病気になったのは、とてもとても残念なことだったかもしれないけれど、役立つ


時が目の前に来たのだと。






今回の治験は以前に「治験」に参加したことのある人は参加できないという条件がある。




そうではない、「治験」もあるのだろうが、これが最初で最後の「治験参加」になるかもしれない。






私たちはすでに、アリセプトの恩恵にあずかっている。




6年前、アリセプトがなかったら、今の暮らしはもうなかったかもしれない。




アリセプトがこうして多くの人に飲まれるようになる前にも、治験があったにちがいない。






このチャンスを、生かして誰だかわからない治験にかかわったすべての人にありが


とうを伝えられるのではないかと思うようになりました。






トッピーとは本当に何度も話し合いました。




「私」ではなくトッピーの決定であると「私」が確信できるまで。。。







トッピーは「やる」と。



何度話し合っても、「やる」と。



プラセボかもの話をしても「やる」と。






そして、「つまり、モルモットだな」と。(笑)



「そうね、どうせなら、いいモルモットになれるといいね」(笑)






久しく「社会」と距離を置いていたトッピーの人生が、誰かの役に立つことで意味を持



つ。




トッピーには、それは嬉しいことなのだろう。




そう、私は信じました。






今回の治験は来年の、8月まで続きます。世界中で1000人位参加しているそうです。




同じ薬の治験で既に終了したものや、現在進行中のものに参加している方は世界中でさらに2000人位おられるそうです。




これが、この薬の最後の治験で、来年8月に終了し、大きな問題がなければ国(厚生労働省)への申請という運びになるそうです。









とうとう、一年更新せずに今日に・・・汗



この一年、大雑把に言えば、相変わらずといったところでしょうか。




トッピーは今も近くのスーパーに買い物に行き、炊飯器でご飯を炊き、煮物中心のおかずを作ります。


雨の日は、だいたい買い物はお休みですが、行く時は一日に2~3回同じスーパーに行き、


大体、同じようなものをまた買ってきます。




迷子?も月に何度もあり、相変わらずGPS携帯とカーナビが大活躍です。




今年は猛暑で、長時間外を歩くのが心配だったので、出勤して3時間頃に電話をするようにしました。


電話に出ないときは、位置検索をし、家に携帯があるときにはまた時間をおいて、かけ直すようにしました。




私が電話をかける回数が増えたことで、トッピーが電話に出られる確率は高くなりました。




もしもし、今休憩中なんだけど、帰りに買うものはある?

と聞きながら、家の中か外か、耳を澄ます。



特にないな。



(ブーン)車の通り過ぎる音が、・・・



今、どこにいるの?



うーん、わかんないな。



あっそ、じゃあナビで調べてみるね。

分かったら、すぐ電話するから、一回切るよ。待っててね。


あー分かった。



電話を切って大急ぎで、トッピーの携帯の位置を検索する。




操作をして、位置が特定されるまで早くても2~3分はかかる。


位置が分かって、地図が出る頃にトッピーから電話がかかってくることが多い。





どうだ、分かったか?


○○○という床屋があるよ。それと△△△という看板がある。



と、捜査にとても協力してくれる。



うん。大体分かったよ。××という所みたい。

多分○○分位で迎えに行けると思うから待っててね。




それから、車のナビをセットして、安全運転、安全運転と心を落ち着かせて出発する。




飛行石から出る光りがラピュタの位置を示すように、ナビの中の赤い線の先にトッピーがいる。(笑)





たまたま、トッピーがコンビニや他のお店の前で待っていてくれれば、探すのは容易になる。




目印のない所で、夜になってしまった時などは、何度も車を止めて、位置検索をし直し、


トッピーに回りに何が見えるか、聞きながら距離を縮めてゆく。





今度は、ぺジテの飛行船の位置を見極めようとするナウシカの気分になる。(笑)







トッピー発見!





お待たせ~




分かった~?ナビは凄いな~!




うん、凄いね~!





途中コンビニで飲み物やおにぎりを買って、トッピーを家に送り届け、私も車の中でおにぎりを食べて

何とか休憩時間中に仕事に戻るということも、何度もあります。



それでも、なんとか仕事も続けられるのはトッピーのがんばりのおかげです。音譜



5月からでもう10回以上自力で帰れず、お迎えに行っています。




その内の2度は、携帯電話を持たずに行ってしまい、探しようがなく、警察にも届けを出しました。





一度は、2泊3日でどこかの倉庫のような所にいて、不審者がいると警察に通報が入り、保護されたようです。



保護してすぐパトカーの警察官から家に電話がありました。トッピーが自分で家の番号を言ったそうです。


(家の電話番号は覚えているけれど、じぶんで掛けることは思いつかなかったということでしょう。)



そのときはまだ捜索願いが出ていることを知らなかったようなので、アルツハイマーで迷子になっている事情を簡単に話し25キロ離れた警察署まで迎えに行きました。





もう一度は家を出て、25時間後に28キロ離れたコンビニからトッピー自身の電話がかかってきて、迎えに行きました。



あとで、わかったのですが、財布の中に、家に帰れなくなったら、交番かコンビニで電話を借りて私の携帯に電話するように書いたメモを入れておいたのを見て、公衆電話ではなく、お店の人に言って店の電話からかけてもらったようです。


親切にして頂いた、コンビニの方に感謝しています。




携帯を持っていれば、トッピーは字は読めるので大体の場所は話をするうちに見当をつけて、迎えに行っていたのですが、8月に息子がトッピーの携帯をGPS機能付き
に替えてくれました。




私の携帯からトッピーの携帯の位置を検索できる契約をしてあります。



これまで4回はトッピーに電話を掛ける前に大体の位置がわかり、もの凄く役に立っています。



最も、携帯を持って行かなかったら、同じですが、持っていてくれればこれは本当に便利です。





一昨日も、娘から23時に家に帰ったらトッピーがいないとメールが入りました。


、大急ぎで仕事を切り上げ、位置検索をしたら、職場から20分程で行ける場所にいたのですぐに迎えに行けました。




交差点で待っていたトッピーを無事「保護」し、途中のラーメン屋さんで味噌ラーメンと餃子を食べて帰りました。




トッピーは迎えに行くといつも


「ありがとう。反省しています。」と言います。



「携帯を持っていてくれて本当に助かったわ。携帯さえ持っていてくれたら必ず迎えにいくからね。」



本当は、私の仕事がもっと早い時間に終わればもっと早く迎えに行けるので、私もトッピーに申し訳ない気持ちになります。


一昨日も昼間に出かけたので、薄着でした。


これから、寒くなるので、日が暮れて薄着で帰るに帰れない状況になるのが心配です。




勤務時間の見直しと、いよいよカーナビも必要かなと思案しています。


五月の連休の次の週のある日の午後、ウォーキングに出かけた、トッピーは私が仕事から帰った午前2時に、まだ帰っていませんでした。



どうやら、携帯電話は持って行ったようなので、充電がなくならないように願いながら何度もかけ、ようやく、午前4時に電話に出てくれました。



「今、どこにいるかわかる?」



「わかんないけど、あと、20分位で帰るよ」



「どこかに、住所が書いてある看板とか、ない?」


「お店とか、コンビニは見える?」


「電信柱に住所が書いてない?」



などと、色々きいて、何とか住所がわかり、パソコンで地図検索をしたら、車で最短の道を行っておよそ38キロの3つ隣の市内にいることがわかりました。



そのうち、コンビニがあるというので、そこから動かないでねと言って、4時半前に家を出発しました。



「今から、迎えに行くからね」


「わかった、今ねお寺の前を歩いてるから。」



「えっ?(また歩きだしたってことか・・・)あのね、コンビニで待っててくれないと、会えないよ。コンビニまでもどれる?」



「そうなの? 多分戻れると思う。」



「じゃあ、コンビニで待っててね!」



そんな、会話をして電話を切ったら、10分後位になんとトッピーからかかってきた。


「まだ?」



「うん、まだ。トッピーは今、○○市にいるの。家からだと一時間はかかるからもう少し待っててね。」



「わかった」



そうしたら、20分後位にまたまたトッピーから電話が!



「もしもし、まだ?」



「うん、今、△△市まで来てるからね。トッピーは○○市にいるから、あと30分位かかるけど、コンビニで待っててね。コンビニにいないと会えなくなっちゃうからね。」



「わかった。」



大体、この辺だろうと思われるところまで来たら橋があり、何となくいえの近くの風景にも似ている感じでした。


ここを曲がったら家のほうに行けそうな感じのところのコンビにで、無事、トッピーを見つけることが、出来ました。(確かに、これが家のほうの橋なら20分で帰れました。)



手には、家のほうのドラックストアで買った1.8Lの焼酎の紙パックが・・・コレを下げて半日歩いていたようです。(未開封です)



「トッピーお待たせ~」



少し、脱水症状のような、疲れた様子でしたが、トッピーが夜歩いていても、誰も不審には思わないでしょう。



とりあえず、コンビニで飲み物とおにぎりやパンを買って、帰りの車の中で食べてもらいました。



「帰ったら、いなくてビックリしたよ。お姉ちゃん(娘)も心配してたよ。でも無事でよかったわ~。」



「ご迷惑を、おかけしました。反省しています。」(笑)



「携帯電話を持っていたので、いる場所がわかったんで良かったわ~。電話さえ持っていたら必ず迎えに行くからね。まかしとき!!」




途中、食事のできるお店もあったのですが、トッピーはまっすぐ家に帰りたいというので7時過ぎには家に到着しました。



お風呂に入って、薬を飲んで休んでもらうことにして、私も4時間寝たら仕事に行く時間になってしまい、娘にあとは頼んで出かけました。



こうした、アクシデントに対応できるように仕事の段取りも考えなくてはと思いました。



これ以降、おとといまで、計6回お迎えに出動しています。車



私たち家族から見ても、トッピー自身もこれは、単なる「迷子」です。



ウォーキングに行ってちょっと、いつもより遠くまで行ったら帰り道を間違えた。走る人



それだけです。



でも、このことを話したら、カルテには「徘徊アリ」なんて書かれるのでしょうか?





「忘れてもいいよ」・・・これは、トッピーに向けてではなく、私自身に向けての言葉です。


これから、トッピーは忘れたくないのに、忘れてしまうことが多くなる。


忘れていることに気付かずに何度も同じことを、聞いたり話したりするだろう。


私は、トッピーにいつか名前も思い出してもらえなくなるかもしれない。汗


今まで二人で過ごした時間の全てが、記憶から消され、何をしても無駄に思えてしまう日が、くるかもしれない。汗




トッピーの病気の最たる症状が「物忘れ」ならば、そのことで生じる不都合でトッピーを責めるようなことはしない。


トッピーのために行なったすべてのことを、トッピーが忘れ、感謝してくれなくても
私の出来る最善を尽くして支えていこうという、そんなささやかな決意です。OK



家族や友人の協力を得て、トッピーはのびのびと「物忘れ」ライフを過ごしています。


我が家には10回ルールがあり、トッピーが同じことを聞いたら10回までは初めて聞いたことにして、こちらも同じことを答えます。



トッピーが本気で何度も「初めて」聞いていることを、こちらが意識しているなら、イライラすることも、ほとんどありません。


私の説明の仕方が悪くて聞きなおしているのではないので、私も同じことを、答えます。


もっと、判りやすく別の言い方をしたり、忙しい時は省略して話すことも、ありますが、
たいていは、5回位同じ会話をすれば済みます。



面白いことなら、5倍笑えます。(*^▽^*)



ひとつひとつの出来事は忘れても、今日も笑って過ごせたら、楽しかったと思ってもらえたら私もうれしいのです。音譜



トッピーが「自宅療養」の生活になって、約6年。


トッピーは今も、洗濯、買い物、簡単な料理、散歩をすることができています。宝石緑



毎日とっぴーの笑い声をきき、友人や家族に支えられ、経済的には厳しいのですが、仕事にも恵まれている今の生活は5年前には想像できませんでした。


パソコンでも、やはり、筆不精は同じかとあきらめかけていましたが、ぽちぽちでも日々の出来事の記録は残したいと思います。メモ