2011年某日。

私には付き合いの長い相方がいる。彼女の名はカトリーヌ。
大人しい系女子と見せかけて油断してると結構とんでもない系女子。
多分誰よりも私の扱いを心得ているであろう一人。私に対してだけとてもツンデレ。たまにそれについて物申すと「それがいいんだろ」となじってくれるああんたまらん。



さて。
2013年は彼女と出会って10年目。
旅の始まりは私のこんな発言から。


「なーなー。折角10周年やねんし、一緒にどっか海外旅行とか行かへん?」
「え、嫌」



即答かよ。
もう少し悩めよ。悩んでよ。頼むよ。


えーとね。
自宅仕事な彼女。普段あまり外に出ない。あんまりって言うか出ない。
旅行どころか家からすら中々出ない。数分歩くと疲れを訴えるレベル。筋肉?腕はふにふにしてる。本人曰く「ペンタブより重い物は持ちたくない」


「ええやん行こうや!一緒に旅行しよーやー!
 ほら昔一緒に伊勢行ったとき楽しかったやん!」
「ああ。あのまおたんが待ち合わせ時間に起きた時のね」
「その節はもうほんまに申し訳ございませんでした」


前科持ちは非常につらい。
当時一緒に伊勢に温泉旅行へ行った折、本気で待ちあせ場所に着いたよと言う彼女からの連絡で目覚めるという事態をやらかしたのは今ではいい笑い話。に、したい。
まあそれはともかく。


「つか私がこんなん誘わんと絶対一生海外とか行かんやろ?」
「まあ…」
「一生に一度やと思ってや。行こーや」
「まじでー…」
「ほら!パスポートさえ取ってくれたら飛行機の手配もホテルの手配も日程表とか計画作りは私がやるから!!全部私がやるから!!黙って俺について下さればいいって感じに仕上げるから!!」
「えー……」


そんな感じで。
渋る彼女を必死に(必死すぎる)説き伏せ(って言うか押し切り)、旅行計画がスタート。


まずは、行き先を決めねば。


さて、私自身も海外は過去に一回。
単身ポーランドに行った事しかないんで正直詳しくない。
英語?しゃべれないとも。

「やったらさ、ポーランドは?私案内出来るし」
「嫌」
「なぜ。ええ国やったよポーランド?」
「…ポーランドがどうのって言うんやなくて…こう、人に初めて海外行ったって話して、どこ行ったんて聞かれた時にポーランドって答えるのが嫌っていうか」

どんな理由なの。
マイナーな国にわざわざ行く変人と思われるのが嫌ってか。確かに私自身「ヨーロッパに行ったんです」と言った際、その時点では誰もが「へー、ヨーロッパっていいね。どこ行ったの?」と聞くくせに「ポーランドへ」って返事したら「……へ、へー…。何でまた…?」って反応するもんな。そっか。
そんな訳でポーランド却下。

「とりあえず衛生面で怖いからアジア圏と南米方面は無しな方向で」
「やったらヨーロッパ?」
「かな。アメリカとかカナダとかは…何か普通?やし」

アメリカとカナダよ申し訳ない。
決して貶している訳じゃない。何となく、何となく感覚で英語圏は普通でちょっとつまんない、ってイメージなん。
行ったら行ったで見所は数多くあるのやろうけど。そんな理由でグアム・サイパン・ハワイも候補外。普通に日本人がたくさんいそうな国は、海外旅行!って感じがしませんやん?

「ヨーロッパって言うても多いよな」
「いっこいっこ消してくか」

まず、イギリスが真っ先に却下。

「……ご飯まずいって嫌やもんね」
「…何か、本場のフィッシュアンドチップスは油でベタベタしとるらしいよな…。イギリス人が日本のハードロックカフェで[本場風フィッシュアンドチップス]ってメニュー注文したところ「全然本場風じゃねえよ!(笑)ウチの国のこんなにうまくねーし!(笑)」って言ったって話まであるもんな」

折角の旅、おいしいものが食べたいもの。

「なら、フランスは?」
「んー…でも奴ら頑なにフランス語しか喋らんらしいぞ」
「…あれか、英語理解してるけど、してるって認めたくない的な」

そんな感じでさよならフランス。

「スペインとか?」
「あー私トマト嫌いやから無理」

同じ理由で南イタリアと、スリが多そうって理由で北イタリアも消滅。

「あ、なーなーノルウェイは?最近私ノルウェーに凝っててーー」
「寒い国には行かない」

このカトリーヌのお言葉により、ノルウェーはおろか北欧5国一気に消滅する。

「エジプトとかトルコも…うーん。ちょっと危険っぽいイメージ」
「旅慣れしとらんしやめとくか」

「ロシアはビザ取らんといけんらしい」
「面倒。却下」

その後バルト三国、ウクライナ・ベラルーシ、チェコ・スロバキア等も削り取られ、だいぶ候補が絞り込まれてくる。

「あ、そう言えばスイス。ほんまにハイジの家があるらしいんやけど…」
「へー。それは行きたいかも。ええやん」
「……ただし、ふもとの町から2時間くらい歩ーー」
「じゃあいいや」

即答か。

「あとは…ドイツかオーストリアかな」
「せやったらオーストリアのがよくね?」

これまた、大した意味はない。
ドイツってメジャーな国。それよりもちょっと変化球を狙いたいとか、そんな理由。
それにウィーンと言えば音楽の都。ちょっとお洒落ぽっくね??うん、良いではないか。

そうして、行き先がウィーンに決定。


2011年からじわじわ計画を立て、まだまだ先やと思いつつ月日は流れ、会社に事ある事に「再来年、3連休くらい取るんで」と犯行予告を繰り返した末、ようやく2013年4月25日。
4泊6日の日程で、大阪を出発するのでした。
続く。



予断。
実は計画中の2年の中でも、事あるごとにカトリーヌは「もうええやん…やっぱ海外めんどくさい…て言うか外出たくない…」などなど諦めかける事が片手では足りん回数。
その度に気持ちを浮上させたのは「ウィーン少年合唱団」と「拷問博物館」の存在。
少年合唱団はもう一番って言って良いほどの目玉。
拷問博物館は旅行計画立てるに辺りネットで情報収集してるときに見つけたガイドブックにすら載っていないマイナー博物館。
そう言うもんがあると告げた時のカトリーヌの目は、珍しく輝いていました…

「ウィーン凄いよ!何か拷問器具の博物館がある!!」
「何それめっちゃ行きたい!!!」

この二つのおかげで、何とか2013年初旬パスポートと航空券ゲットに漕ぎ着けたのでした。長かった。事あるごとに天使の歌声ってか天使のショタ達が見えるんやで!!&拷問器具が見れるんやで!アイアンメイデンとか!!!って声かけて。何とか2年引っ張った私の努力。彼女が「パスポート取りに行くのめんどくさい…」って言い出したときもいい引止め剤になってくれたよありがとう天使のショタと拷問器具。
(ちなみに拷問博物館は本気で載ってるガイドブックなくてそれはグーグル地図と3件くらいしかなかった人様の旅行記を頼りに必死に行き方を調べたって言うこの甲斐甲斐しさ)
(あとガイドブックは3冊購入したってんだから)