細菌戦部隊 (2) | 針尾三郎 随想録

細菌戦部隊 (2)

細菌戦部隊と言うのは、千葉県山武郡の出身の 石井四郎 という軍医中将であった人によって、昭和8年に「防疫給水部本部」という名称で、満州のハルピン市の南方20キロの地点に創設をされた。(以下の年号は昭和)


その所属は関東軍であって、その通称は「石井部隊・加茂部隊・東郷部隊・」等と呼ばれて、「満州第731部隊」と呼ばれるようになったのは、第2次ノモンハン事件の後の、16年の8月以降の事であった。


当初のこの部隊の任務は、その最初の名称が示すとおり、作戦行動中の将兵に対して、防疫的な処理をした飲料水を供給をする事であった。


石井中将は、京大の医学部を出て陸軍に入った人で、何かその当時は、京大の医学部を出て医師になっても、医学界ではその評価は低かったと言われていたそうで、その為もあってか石井四郎は、陸軍に入ったとも言われていたらしい。因みに石井四郎は、京大の医学部を、トップで出たと言う。


しかし、石井四郎は、普通の汚水であれば、直ちに飲料可能の水にしてしまう〝石井式濾水器〟を発明し、陸軍軍医としてその地位を不動のものにしたのであった。

この濾水器というのは、大はトラックに積載をするものから、小は、携帯用のものまで数種類あって、満州や中国大陸を転戦する将兵にとっては、防疫上の隠れた〝新兵器〟て゜あったのであった。


〝石井式濾水器〟は、昭和7年当時、帝国医療と言う会社が一手に引き受けて生産をしており、当時軍医少佐であった石井四郎にその遊興の為に、5万円という(今の価値換算で約1億)大金を使わせて、石井は憲兵隊に逮捕されて、あわや陸軍部内の一大汚職事件と言う時に、あの相沢中佐に、10年8月12日に斬殺された永田鉄山(当時大佐、軍務局長)に助けられて、


地団駄を踏んで口惜しがる、牛込憲兵隊を尻目に、陸軍刑務所の門を出たと言う〝いきさつ〟もあった。


石井四郎が、細菌の兵器転用という発想を持ったのは、昭和5年からの2年にもわたる、ヨーロッパでの視察旅行の結果であると言われている。

当時ヨーロッパの列強諸国の間では、すでに細菌兵器の研究が進んでいて特に、ナチスドイツに於ける研究は群を抜いていたと言う。


そしてその研究視察の為に、石井四郎をヨーロッパへ行かせたのは、当時陸軍の一課長であった永田鉄山であったのであった。


731部隊では、各種ウイルス・凍傷・ペスト・赤痢・梅毒・コレラ・チフス・結核などの病原菌の培養、そして感染、治療、そして更に各種の毒ガスによる実験などを、〝マルタ〟と称する人間の生体を使って行っていた。


そしてこの〝マルタ〟と称する実験材料の調達源は、ハルピン市内での住民の拉致、中国軍の捕虜、抗日ゲリラ、浮浪者、そして死刑囚などであったと言い、それらの人種は、中国人は勿論、モンゴル人、ロシヤ人、等々で、老若男女を問わず、子連れの女もいたと言う。


これら〝マルタ〟と言われた人たちは、実験動物の飼育と同様に、実験に適する時期まで飼育棟で、動物と同様に飼育状態で置かれていて、実験の後は、他の実験動物と同様に、効果測定・観察・標本採取などのために解剖されて、焼却をされたと言う。


当時、当然の事ながら、これら〝マルタ〟の取り扱いについては、極秘中の極秘とされていて、石井四郎は、これらのマルタの扱いについては、自分の生家がある千葉県の村から選んで連れてきた人たちに、取り扱いをさせたと言う。


しかし石井は、自分の出身大学の京大の医学部の学生を、3ケ月程のローテーションで、研究と実習の為に部隊内に受け入れていた為に、誰からともなく、731部隊での実態が、日本内地の医学界の医師たちにも洩れ伝わって、大学病院などでは、生体解剖を考える医師たちも出てきて、


現に、九州大学では、20年の5月ごろ、撃墜されたBー29の搭乗員で捕虜となった米兵8名を、軍から貰い受けて、生体解剖をやって、戦後軍事法廷でその罪を問われて、教授の一人は縊死して、5人は絞首刑、4人は終身刑の判決を出された。

しかし25年の、再審減刑で、5人の絞首刑は免れたが。


結果として、731部隊は、その規模は、敷地は6キロ四方の広さであったと言い、人員は2600名ほどの部隊であったそうで、生体実験で殺された〝マルタ〟の数は3000人に近い数であったと言う。

そして秘密保持の為に、日本軍の飛行機であってもその上空は、飛行禁止とされていて、そして更に上空を侵犯した飛行機を撃墜をするために、滑走路を造って戦闘機を待機させて、いつでも発進可能の態勢にしておいたと言う。


しかし今にして考えて見ると、言うべき言葉がない。戦争とはそれほどまでに、と思う。でも現実は他の敵国も、同様な態勢にあったことを思えば、空しいのみである。

次の(3)では、731部隊の結末と、その戦後の波及について述べる。