あの爆弾発言を残した記者会見からはや一ヶ月。


京子の周囲は鎮静化するどころかヒートアップの一途を辿っていた。


マスコミ各社も他社を出し抜こうと、何とか日本の誇る大和撫子の恋の行方を我が物にせんと自社の総力を挙げて探りにかかっていた。



そんな殺伐とした気配を知ってか知らずか、数日前から明らかに京子の様子が様変わり。



顔色の変わった記者たちが文字通り血走った目で京子に詰め寄らんとしていたそんな折、遂にLME側から待ちに待った記者会見の報せがマスコミ各社に送られてきた。



----【京子】に関する重大発表----が行われると。




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事務所が押さえたホテルの大ホールには、雛壇の横に大型モニターが用意されており、確かに何かしら重要な情報がもたらされる事を示していた。


また雛壇と対峙する形で据えられた記者席は凡そ150。


更にその記者席の後ろにカメラマンの為に組まれた足場が階段状に5段。



場所取りで揉めて怪我や刃傷沙汰にでもなったら事務所にも京子にも傷が付いて迷惑千万、今後一切その騒ぎの元凶との関係を断つとのローリィの鶴の一声もあり、記者たちはお行儀良くくじ引きで場所取りをし、件の大和撫子の登場を今か今かと待ち構えていた。




《大変長らくお待たせ致しました。間もなく弊社所属女優、【京子】の記者会見を始めさせて頂きます。》


司会のその一言と共に雛壇のすぐ横のドアが開き、記者待望の【京子】が現れた。



先月の記者会見とはまた違った清楚なスタイルの出で立ちに同性、異性を問わず感嘆の溜め息が洩れ、一つの大きな溜め息の塊になった様にすら聞こえて、京子は一瞬足を止めて目を丸くし、直後に苦笑して席に腰を下ろした。



「…変でしょうか、この格好。
スタイリストさんもメイクさんも大丈夫だと太鼓判を捺して下さっていたのですが、お世辞だったみたいですね。
何だか皆様に溜め息吐かせてしまってますし…。」



京子の言葉に幸運にも正面に座る事を許された女性リポーターが慌てて否定した。



「お間違いにならないでください、京子さん!!
素晴らしい装いに感嘆の溜め息が出てしまったんです!!
その衣装をそこまで着こなせる人などそうは居ませんから。
本当に良くお似合いですよ。」



リポーターの言葉に報道陣一同が激しく同意する様に、京子は僅かに怯んだがすぐに“ありがとうございます”と必殺男性陣腰砕けハニカミスマイルを炸裂させた。


辛うじて腰砕けを免れカメラを構え直した同僚達を横目に、リポーターは司会者に頷いて続けるように合図を出した。



《…では改めまして、これより弊社所属女優、【京子】についてのご質問を受けたいと思います。
今回の記者会見につきましては、弊社社長、ローリィ宝田の意向により、こちらからの“報告”ではなくあくまでも報道各社各位よりの“ご質問”に【京子】が誠意を以て真実を“お答え”するという形を取らせていただく事を予めご了承下さい。》



司会者の口ぶりにリポーター、記者たちは固唾を呑んだ。


それは[どんな質問でも包み隠さず真実を話してもらえる]と同時に、[もし万が一にも自分が的外れな質問をしたら、報道の為に欲しい情報は全く貰えない]、正に天国と地獄、だからである。



そんな報道陣の緊張を気付いていながらも気付かぬ振りしてまるっと完無視した強者司会者は、それでは質問をどうぞと笑顔で記者にスタートを告げた。



「え~、先ず伺いたいのですが、重大発表があるとの事でしたがそれはどういった内容のものでしょうか。」



「…率直に申し上げますと、私事ではございますが、私京子は、ある方と真剣な交際を始めましたことをここに発表させて頂きます。…ということです。」



京子の堂々とした宣言っぷりに、やはりと思った者が殆どの報道陣であった。


同時に会場には閃光弾でも放り込まれたかと思われるほどのフラッシュの嵐が巻き起こった。



「お相手の方の事を伺っても宜しいですか!?」



「この前の記者会見の最後に仰有っていた方で宜しいんですか!?」



「今日はこちらにはいらしてらっしゃらないんですか!?」



「……(苦笑)
順番にお答えしますね。
まず相手の方ですが、皆さんよくご存知の方です。
それからこの前の記者会見で話した方に間違いありません。
今日は来られませんでしたが、こちらのモニターをご覧ください。」



京子の示した先には巨大なモニター。


合図に合わせて切り換えられた画面には、報道陣がよく知る人物の姿が写し出されていた。



《どうも皆さん、こんにちは。
モニター越しで失礼します、アメリカの敦賀 蓮です。》



唖然とする報道陣にトドメを刺すかの如き爆弾が投げ込まれたのは、次の瞬間だった。



「ご紹介…するには及びませんよね。
私と真剣な交際をしてくださっている…敦賀 蓮さんです。」



…どこかのギャグ漫画なら【ちゅどーん!!】とか擬音付きでぶっ飛びそうな衝撃の発言であった。



《…京子、君ねぇ…言い方完璧に間違ってるよ?
俺が君を好きになって、君はそれに応えてくれたでしょ?
想いが通じ合ってるから交際が始まったのであって、“してくれる”という類のものじゃないよ?
それを言うなら俺だって京子に交際“してもらってる”ってことになるけど、それでもいいの?
少なくとも俺は“してあげてる”つもりはこれっぽっちもないし。
とりあえず…今度時間のあるときに“二人っきり”で“じっくり”話をしようね?
  …では画面越しで申し訳ありませんが皆さん、訊きたい事があったら伺いますよ。》



誤解を解くのと訂正かけるのと俺がどれだけ君を愛してるかを懇切丁寧に説明するのは直接逢えた時にしようね何日部屋から出られなくなるか分からないけどさとサラッと宣う蓮に、京子の微笑みがひきつり、報道陣が“本気の敦賀 蓮”の愛情の重さにかつてない程の胸焼けを覚えたのは仕方のないことだった。











切りがいいとこ無くって…ちょっと長めです。(^_^;)


次回、記者会見本番の質疑応答なんだけど……グラニュー糖ご飯代わりにハチミツと水飴かけてどんぶり一杯食わされてるくらい胸焼けな気分になりそうで…。(-_-;)