指を絡め合わせ寄り添う形で辿り着いた社長室で二人を待っていたのは、毎度お馴染み豪奢な出で立ちの事務所社長、ローリィ宝田であった。
「おぅ、来たな?
…うん、この前の記者会見での京子の表情でまず卒業ラインだと分かっちゃいたがな。
おめでとう最上くん、蓮。
良かったなあ蓮、長年の片想いが実って♪
…とはいってもこっちで愛しの京子にまとわりつく鬱陶しい馬の骨が気になってやきもきしてたんだろうが。(^Q^)/^」
二人の様子に満面の笑みを浮かべたローリィは、そうと決まれば卒業式だ、盛大に祝ってやると嬉々として秘書に指示を出そうとしたが、蓮は恨みがましいジト目で見返しながらぶつぶつと文句を垂れていた。
「…どこまで千里眼か知りませんけど、そもそもやきもきしなきゃならなくなったのは社長が漸く彼女に追い付けると意気込んで渡米した俺を、掌で転がして遊ぶように工作したのがいけないと思いますが!?(`´)」
2年越しで再会してやっと想いを告げられたのにたった1週間で遠距離恋愛になったこっちの身にもなって欲しいんですけどと更にぶちぶちぼやく蓮にローリィはしょーがねーだろと悪びれる事なくサラッと開き直った。
「成績優秀すぎる彼女に惚れた自分の運の無さを恨めよ。
俺だってまさかたった2年でスキップして大学卒業して帰国するなんて予想してなかったんだよ。
ま、丁度良く話題に上ったことだし?
お前も遠慮なく馬の骨を蹴散らす大義名分欲しいだろ?
堂々と発表してそのポジションを確固たるものにしちまえよ。」
プカリと煙草を燻らせながらニヤニヤと笑うローリィから視線を外しながら、蓮とキョーコはお互いの意思を確認しあった。
「…良いよね、キョーコ。
俺は堂々と君の横に立つ権利が欲しい。
君の周りに群がる邪魔な馬の骨を正当に蹴散らす権利を、俺に頂戴?」
「えっ…と、馬の骨っていうのはよく分かりませんけど…わ、私こそ…いいですか?
久遠さん…蓮さんの、こっ、こっ、恋…っ人って宣言しても…っ。」
初々しく頬を染めつつ姿勢を正し、ソファーの上で蓮に向かって正座したキョーコは、三つ指ついて深々と頭を下げた。
「あの…ふ、不束ものではございますが、よろしくお願いいたします…。」
…それは宛(さなが)ら結婚の挨拶のようで。
正面に固まった蓮と真横のソファーに呆れ顔のローリィ。
「…おいおい、蓮が固まっちまっただろうが。
その挨拶は時と場所を著しく間違えてるんじゃねぇか、最上くん?
そりゃ結婚した後、二人っきりの部屋ん中でするもんだぞ?
予行練習か?」
目の前でやってくれるたぁなかなかのサービス精神だなとニヤニヤ笑いをしているローリィの表情と身動ぎもしないで目を丸くしながら固まった蓮を見て客観的状況を理解したキョーコは、瞬間湯沸し器の上を行くスピードで茹でダコも呆れる赤さに全身変化し、声も無くその場で卒倒した。
「ちょっ、ちょっと!!
キョ、キョーコ!?
しっかりして!!」
慌てて介抱する蓮の狼狽え振りにローリィが大爆笑したのはお約束である。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「…あの、さ…。
いっそ婚約会見にしてもいい?
恋人宣言くらいじゃ馬の骨増殖に拍車が架かりそうな気がしてきた…。」
気絶したキョーコをコッソリ毛布に包んでまんまとお持ち帰りした蓮は、ソファーに腰かけたままキョーコが目を覚ますまで抱え込んで久々の生キョーコを堪能していたのだが。
…漸く目を覚ましたキョーコのそれは嬉しそうな愛らしい微笑みにブッ飛びな一言をかましていた。
「えぇ…!?
こ、恋人期間、無しですかぁ…?」
未体験なドキドキ期間が少しは過ごせると思ってたのにとこれまた可愛い爆弾発言をかますキョーコに、蓮は苦笑を隠せなかった。
「…拒否されないのは嬉しいけど…そんな可愛い顔して拗ねないでよ。
心配しなくても婚約って近い将来生涯を共にしますって約束なんだし。
…それじゃ、ちゃんと予約させてくれる?
はい、かイエスしか受け付けるつもりないけど…コホン。
最上 キョーコさん。
…貴女を心から愛しています。
これからの人生をお互いに支えあい、高めあう生涯のパートナーになってください。
俺と愛に満ちた家庭を築いてくれませんか。
………返事、貰える?」
「……それ、返事以前に確認だと思いますけど…。
私で良ければ…喜んで。
後でアメリカのパパたちにちゃんと報告しましょうね?」
クスクスと本当に嬉しそうに笑いながら、目尻に浮かぶ涙を拭うキョーコの笑顔に幸せを噛みしめ、その華奢な身体をすっぽりと腕の中に納めてプロポーズ成功の余韻に浸る蓮だったが、同時に海の向こうの超重量級の愛情持ちの両親への報告は、どんな余波を巻き起こすか考えるだけで気が重いとも思っていた。
あと一話くらいで終わる…かなぁ?