「知らねぇよ。
アイツが何考えて言うこと聞かなくなったかなんて、そんなのどうでもいいし?
アイツは俺のなんだから、俺の言うこと聞きゃいいってのに…。」



最後の方をぶちぶち愚痴ってた俺に、何故か監督も真山も久我もお互い顔を見合わせて首を横に振り、仕事に入ろうと話を切り上げた。



それからは特に問題もなく撮影が進み、予定時刻前に終わらせることが出来たのだが。



スタジオから出ていこうとしていた俺を真山が呼び止め、さっきの話だけどと前置きしてから言いにくそうに口を開いた。



「…不破くん、君さ、…俺たちが言った意味、ちゃんと考えてみてよね?
どうしても理解できないと思ったら、…他の人にも訊いて?
少しは参考になるかもしれないし、さ。
  じゃあお疲れ様でした。
  良い感じの画が撮れたと思うんだ。」



また機会があったらお願いしますね、と営業らしい言葉を付け足し、真山は俺と付き添っていた祥子さんに頭を下げてから監督たちの方に戻っていった。



撮影が始まる前の彼らとの会話を、席を外していたため聞いていなかった祥子さんは首を傾げていたが、俺が大した話じゃないと誤魔化すとそれ以上聞いてはこなかった。



………のだが。



無事撮影を終えたCMが映像としてネットやテレビで見られるようになってしばらくした頃、あの製菓会社の同級生、真山から事務所経由で会いたいと連絡が来た。



どうせ売り上げがアップしたことの報告だろうなと気にも留めずに、俺は祥子さんにOKを出したが、顔を合わせた真山の口から発せられた言葉は俺の予想し得ないものだった。



「やぁ、その節はどうも。
幼馴染みの誤解、解けたかなぁと思って。
少しは考えた?」



「…はぁ?
んなの考える必要がどこにあんだよ。
そもそもアンタ、一体何しに俺に会いに来たんだ?」



下らねえ話題で野郎と面付き合わせる趣味はねぇんだけどと仏頂面で答えると、真山はやっぱりと盛大な溜め息を吐いた。



「…いや本当はね、なかなかいい感じでCMが売上に貢献してくれたから次回もお願いするつもりで来たんだけど…その辺りの勘違いを直してないとなると…ちょっと困った事になるなぁと思って。」



訳が分からず首を傾げた俺と意味の解らない祥子さんの前に新しいCMの絵コンテを差し出した真山は、今度は幼馴染みと遊ぶ、をテーマにしてるからとテーブルに拡げたコンテを指で突っついた。



「気心の知れた相手とじゃれ合う砕けた雰囲気出して貰いたいとの監督の意向なんですよ。
その為にも幼馴染みの認識が周囲とずれてないか確かめておいてくださいね。」



詳しい内容は契約書に改めて出しますと言い置いて、真山は帰っていったのだが…。



「…何だったのかしら、今の真山さんの話。
ねぇ尚、この前の撮影の時、貴方真山さんたちとどんな話したの?
次の仕事に拘わる大切なことだわ、詳しく話して頂戴。」



祥子にマネージャーとしての顔をされてしまってはうやむやにするわけにもいかず、結局尚は真山や久我との会話の洗いざらいを白状することになったの…だが。



「…今さら私がこんな事言うなんてと思うでしょうけどねぇ…。」



尚の話を聞き尽くした祥子が頭痛を堪える様な仕種で頭に手をやったのを、尚は不思議そうに眺めていた。



「…尚。
貴方、すっ~ごぉ~く、変。」



真山さんや久我くんの言い分が正しいと私も思うわと一番身近にいた祥子に真顔で断言され、尚はあからさまに絶句していた。



「…いいわ、この際だから若いうちにかける恥はかいときましょ!!」



恥かくなら一蓮托生だわいらっしゃいと有無を言わさず半ば引き摺るようにして祥子が連れてきたのはあるトークバラエティーの控え室。



番組内での話をより円滑に盛り上げやすく進めるために大部屋の控え室にトークに参加する面々が一堂に介しコミュニケーションを図って欲しいとのプロデューサーの意向もあり、大物から無名の新人まで一室に集まった部屋であった。


そこで祥子は控え室内で一番の大物タレントに事情を話して協力を乞うたのである。



「…は~、成る程ねぇ。
そりゃ困るわなぁ。
分かったよ。
アカトキさんには世話んなってるし、一肌脱ぎましょ。」



「本当にお恥ずかしい話で申し訳ありませんが、私が言ったところであの子が納得するとは思えません。
より多くの皆さんから指摘された方がいい薬になると思いますので、ご迷惑をお掛けしますがよろしくご指導の程お願いします。」



「……あなたも苦労するねぇ。
  ああいう世間と常識を弁えない坊やを預かると、さ。」



一応挨拶は済ませたものの、後は顔見知りのタレントと雑談に花を咲かせ、こちらを見向きもしない尚を横目で眺めつつ、大物タレントは目の前に立つ美人マネージャーを苦笑混じりに労っていた。







………うぇ~ん。(ToT)


魔人さまの予言が的中…というか呪(まじな)いが利いちゃった!?



後編へ続くのです!!