完全に京子の姿が見えなくなって漸く、先頃交代したばかりの新マネージャーは尚を突き飛ばす様にして羽交い締めを解いた。



「…ちっ、何でこんなのの後始末を俺が…。
あ~あ、本当に貧乏クジ引いちまったよ。
おい、そこのクビ決定歌手。
仕事は無しだ、事務所に戻るぞ。」



交代して間がない故に人となりを把握出来てはいなかった尚だが、どうやら新マネージャーは外見に違わず体育会系らしい。



「なっ!?
何で!!」



思わず返してしまった返事に、マネージャーは盛大な溜め息に呆れ顔を付けて返してきた。



「本当にバカだなお前。
周りを見てモノ言えよ?
これだけの騒ぎを起こしといて、どの面下げて仕事に行く気だ?」



マネージャーが指差す方向に目を遣り、尚は事の重大さに蒼白となった。



局の廊下や控え室なら少しはマシだったかもしれないが、一悶着起こした場所がよりによってテレビ局の正面玄関。



出待ちのファンや報道関係者がたむろする場所で、尚はキョーコに掴みかかってしまったのだ。



携帯やスマホを構える一般人のいる場所での不祥事は言い逃れも揉み消しもできない。



「その鈍い頭をフル回転させなくたって解るだろ。
さっさと戻るんだよ!!」



マネージャーに腕を引かれ、尚は今度こそ逆らうことなく停まっていたタクシーに急いで乗り込むとテレビ局を後にしたのである。




「………やってくれたか。
ついさっきLMEから正式に抗議がきたぞ。
こちらから謝罪に出向かなきゃならんのだがな、不破 尚君。
先ず真っ先に、君は今すぐ荷物をまとめて来い。
まとめ終わったら即行謝罪だ。
…謝罪を受けてくれるくれないは別にして、LMEの事務所を出た瞬間、君は契約不履行で懲戒解雇となる。
賠償請求は追って実家の方に連絡させて貰うからそのつもりで。
…何か質問があるかね?」



戻った事務所でマネージャーに引っ張られていった先には、アカトキエージェンシーの歌手部門の最高責任者である常務が待っていて、淡々とこれからのスケジュールを並べ立てた。


それは尚にとってあまりにも急すぎる宣告であったため、到底受け入れられる筈がなかった。



「納得…いきません。
何でそんな急にぽんぽん全部決まるんですか!?」



「…簡単だよ、これは君が復帰する2ヶ月前には既に決定済みだったことだ。
つまり事務所からすれば急に決まった事じゃなく、君がもしトラブルを起こした時にはこう対処すると事前にマニュアル化してあったんだ。
ま、思った通りではあったかな?」



予想よりは短かったかなと常務が尚の背後に立つマネージャーを務める部下に目配せすると、彼は自分の予想よりは長かったと苦笑した。



「こうなった以上、事態は粛々とマニュアルに沿って処理される訳だ。
理解できたかね?
…解ったらサッサと行きたまえ。
あぁ、謝罪には部長同伴なのは分かってるな?
報告書は早めに頼むよ。」



もう用は無いとばかりに追い出そうと手をひらひらさせて冷たい視線を尚に向けた常務は、後半を後ろに控えていた貧乏クジ引かされた最後の臨時マネージャーの男に告げ、終わったら一杯奢ってやると労うのであった。



「…さぁて、面倒くさいモンはサッサと済ませるに限る。
先ずは部長に詫び入れろ。
お前みたいなダメダメな若造の尻拭いを、業界長い壮年の上司にさせるんだ。
気の毒としか言いようがない。
お前みたいなのに頭下げて貰ったところで溜飲が下がるとは思えないけどな、こっちも生活懸かってんだ、厄介払いはサッサと済まさないと減給されちまう。」



自分の歌手生命の終焉が自分の予想もつかない形でやって来た事、そのまさに青天の霹靂たる事態に唖然としながら、尚はマネージャーを務めるアカトキ社員に半ば引き摺られる様にしながら歌手部門の部長室に足を運ぶのであった。



遅かれ早かれこうなるのは何となく分かってた気がすると苦笑しつつ立ち上がった部長は、当事者である尚を完全無視した形で部下であるマネージャーとざっと打ち合わせをすると、サッサと済ませようと言い放ち部屋のドアに向かって歩き出した。



結局尚は部長に謝罪するチャンスすら貰えぬままただ黙って彼らの後を追うしか出来なかったのである。



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アポイントメントを入れたLMEにやって来た3人を待っていたのは、彼らにとって予想もしなかった人物であった。



京子が所属するタレント部の主任が対応すると思っていた予想を飛び越え、案内されたのは最上階の最も広い部屋。


部長もマネージャーも、尚はとんでもない人物を敵に回したと痛感したのである。



尚に冷酷極まりない視線を向けつつも同行してきた部長とマネージャーを労う様子を見せた奇抜な格好の男こそLMEの頂点に立つ、ローリィ宝田その人であった。



「さて…君に直接会うのは恐らく最初で最後だろうから、ハッキリ教えといてやろう。
何故こんなことになったのか分かっちゃいないんだろうな、不破 尚…いや、不破 松太郎。
君は君のしてきたことのしっぺ返しを受けているに過ぎない。
お前は幼い時から不遇な立場で生活せざるをえなかった女の子を幼馴染みというだけで何を勘違いしたのか知らないが召し使いか奴隷か分からない扱いをしていたそうじゃないか?
そんな不遇な立場の彼女が上京して、デビューして、頑張る姿を見守ってきた者たちがお前の彼女に対する不当な扱いを知って、黙って見ていると思うか?
…答えは否だ。
お前の過去の悪行、悪癖が京子を見守る者たちにあまねく知れ渡った結果が、お前の今の状況という訳だ。
京子を見守る者たち…守護者と呼ばれている彼らが本気で怒ったからこそ、アカトキ歌手全員のランク外現象なんてとんでもない事が起きたんだからな?」



ローリィの口からの爆弾発言に蒼白通り越して真っ白になった部長とマネージャーの姿がそこにあった。











ちょっと切れ目が…(;^_^A


長いっ!!


でもぼちぼち終われそう?