「…だけど今、ちょっとだけジレンマかな。
このプレゼントを自分にして良かったな、とやるんじゃなかった、ってのと。」



「………え?」



意味がわからず首を傾げるキョーコに、蓮は苦笑しながら理由を紐解いてみせた。



「だからね、自分の手で最高にドレスアップさせられてすっごく気分いいけど、その綺麗な姿を他の男の目に晒してしまうな…とか、俺のものだーって見せびらかしたいのに自分だけの宝物だって閉じ込めたくなって困る…とかいうジレンマだよ。」



あまりにもストレートな、しかも強烈な口説き文句に持っていたシルバー類を思わず取り落としたキョーコは、真っ赤になったまま皿とフォークが立てた不協和音にビクリと肩を震わせ潤ませた瞳を蓮に向けた。



「…な、何を言って…っ…。」



「本気で口説いたら駄目なの?
冗談にするつもりも、からかってるつもりもないよ?」



「だ、だってぇ…前に敦賀さん、仰いましたよ?
私には泣かれたら困るから何にもしない、って…っ。」



赤面して明らかに動揺しているキョーコに、蓮は畳み掛ける様に言葉を重ねた。



「うん、言ったよ。
だってまだ君は恋を否定して頑なになってたから、気持ちをありのまま晒して泣かせて嫌われたくなかったし、泣かれるのも嫌だったからね。
でもあれから随分経って、君も成人したし、一段と注目を集める様になって、周りに群がる男が気になって、こっちも君の気持ちが和らぐのを待ってられる余裕も無くなっちゃって…焦って。」



あまりにも赤裸々に心情を吐露する蓮にポカンとしながらも、キョーコはその言葉に全く嘘が無い事を感じ取っていた。


かつて恋の演技に悩んだ蓮が友の鶏に見せたもじもじと恥じらう姿を、今自分に晒しているのだ。



〈…うわ…敦賀さん、顔が真っ赤…こんなの演技でも観た事ないわ…。
  ででででも、私相手になんで!?〉



「あ…の、敦賀さん、確か以前に私、噂で聞いた事があるんですが…敦賀さんには片想いの女の子がいるって…。
聞いた当時で確か女子高生だったと記憶しているんですが…その方とはその後どうなったのでしょうか…。」



鶏越しにした話を噂で聞いたとオブラートに包みながらも、やはりはっきりと訊ねるのは心苦しいキョーコの声は、尻すぼみに小さくなっていた。



「いいいいい、いつっ!?
どこからそんな噂っ…!?」



狼狽え青ざめる蓮の態度が何を意味しているのか、キョーコには判断出来なかったが、噂の出所が坊で、中身が実は自分なのは墓場まで持っていこうと決めている。


当然といえば当然だが巧みに誤魔化した。



「…さ、さぁ…もう結構前ですから誰からだったかまでは分かりませんけど…?
あ、あの、その方とは…どう…。」



訊きながら胸の奥底がチクチク痛むのを感じつつ、キョーコは自分を口説こうとする蓮の真意を問うた。



「…なんて顔で訊くの。
訊かれたこっちが嬉しくなっちゃうよ?」



先程までの狼狽え様が嘘のように嬉しそうな神々スマイルを浮かべながらテーブル越しに手を伸ばし頬に触れた蓮に、キョーコの頬はこれ以上無いほどに紅く染まった。



「…噂の出所(でどころ)はまぁ、いいや。
君の…キョーコちゃんのこんな可愛い顔見られたし。
そんな顔してくれるなら…噂も悪いものじゃないね。
ただ…その相手が自分だとは思ってくれなかったの?」



思いもよらぬ一言に一時頭が回らずキョトンとしたキョーコだったが、だんだん言われた言葉の意味を理解するにつれ、逆に混乱していった。



「…ふぇ?
キョーコちゃんって…?
あ、あれぇ!?
だ、だって…え、えぇえ!?」



「ずっと前から片想いしていた相手は君なんだけど?
何年か前は君だって女子高生だったじゃない。」



ともかく続きの話は邪魔が入らないとこでしたいな、と言う蓮に促され、キョーコは混乱する頭のまま物凄く美味しい筈なのに全く味が判らなくなった超高級ディナーコースを無理矢理口に押し込んで終わらせたのだった。




…その後まんまと蓮の口車に乗せられ、押さえてあったロイヤルスイートに引っ張り込まれたキョーコは、自身が蓮に美味しく頂かれてしまうのだが…。



「愛しい女(ヒト)にプレゼントした服を脱がせるのは、彼氏の役目だろう?
  …最高のバースデープレゼントをありがとう。
愛してるよ、キョーコ…。」



「しょ…初心者相手に暴走しすぎです…。
仕事はどうするんですか…!?
わ、私…全然動けないのにぃ…。」



「社長が手を回してくれたから心配要らないよ?
この部屋予約したの社長なんだから。
俺へのバースデープレゼントだって♪」



あと3日はなんとかしてくれるってメッセージ入ってたよと心底嬉しそうにスマホをちらつかせた蓮に、キョーコは身動ぎも儘ならぬ身体に鞭打ちながら、頭の下にあった枕を投げつけた。



「~~~んもうっ!!
つ…れ、蓮さんのばかぁっ!!
もう知らないっ!!」



軽々と枕を受け止めた蓮は、そんな事いう口は塞ぐに限るねとキョーコに覆い被さると、彼女の声が嗄れ果てるまで恋人の嬌声を堪能したのである。






~後日談~



「…箍が外れるにも限度っつーモンがあるだろうが、このバカ!!
お前向こう2週間最上くんとの接触禁止だ!!」



「そ、そんな!!
愛するキョーコに2週間も!?
あんまりです社長っ!!」



「…ホントにお前の愛の重さは親譲りだったんだな、蓮よ…。」










何やら無理矢理終わらせた感が強いんですが、ま、書き逃げっつー事で♪