京子---もとい、素に戻ってしまったキョーコは、記者の目の前で“優美な大和撫子”から“純情可憐な乙女”に一瞬で変貌し、記者に俄然喰い付かせる気を起こさせた。



「そのご様子ですと既に意中の方がいらっしゃるのではありませんか?」



素に戻っていたキョーコだったが、直ぐに“京子”としての笑みを取り戻し、そうですねと口を開いた。



「それは今のところ申し上げられない、とだけお応えしたいと思います。
“京子”としての私と、プライベートの私。
どちらにも関わる大事な事ですから。」



もう少し待ってくださいね、と人差し指を唇の前に立てて軽く首を傾げウインクした“京子”は、先ほどまでの純情可憐な乙女ではなく、大和撫子でもない、コケティッシュな魅力を放つ全く別の美女で、画面越しにハートを撃ち抜かれた輩が大増殖し、後々ファンクラブ会員が爆発的に増えたらしい。



その後も延々と質問は続いたが恋人の存在に近づけた記者は誰一人としておらず、結局謎を残したまま記者会見はとうとう時間切れとなった。



「京子さんっ!!
せめてヒントを!!
貴女の心を射止めた果報者の条件を教えて下さいぃ~っ!!」



これだけの大スクープネタだというのに、核心に迫れる要素が何一つ持ち帰れないのでは帰るに帰れないと終いには土下座de号泣し始める者まで現れはじめ、とうとう京子は仕方ないからひとつだけ、と溜め息交じりに一度置いたマイクを手に取った。



「…果報者なのは私の方です。
自分が目指す未来に真っ直ぐ向き合い、その上で私に共に高みを目指そうと言ってくれる…そんなひとです。」



これでいいですよね、と一瞬見せた恋する乙女の顔をするりと隠し、京子は一礼すると司会者に合図をして退場していった。




記者会見が終了した事を司会者に告げられた途端、報道陣は大昔のマンガの如き土煙を上げる勢いでそれぞれ自社に駈け戻り、大和撫子のハートを射止めた男の影を探し始めたのであった。



必然的に京子はその後マスコミ各社に張り付かれる破目になるわけだが、実は京子を本当に悩ませたのは彼らではなかった。



『…Mr。
この際ですのではっきりお断りしますが、私には好きなひとがいるんです。
それは貴方ではありませんし、そちらにいらっしゃる方でもありません。
貴方は何度か共演させて頂く機会に恵まれた共演者の中のお一人であって、それ以上にはなりませんから。』



『そ、そんな…キョウコ…。
で、でもまだチャンスはあるんじゃ!?』



『そうだよ、キミが好きな相手がいようが、相手がキミを好きだとは…っ!!』



『チャンス?
  …敢えて言わせて頂くならそれもありません。
私と彼、もうお互いの気持ちを打ち明けあっていて、きちんと恋人になってますから。
あ…この事、他言無用でお願いしますね。
まだ発表できる段階じゃないので。』



でも気持ちは嬉しかったです、ありがとうございますと付け加えられた、ネットで記者会見を見て慌ててスケジュールを遣り繰りし来日して京子の所属事務所まで乗り込んで交際を申し込んだパワフルなアメリカ人俳優2人は、ガックリと項垂れながらも今は引き下がる、諦めないと言い残し帰って行った。



スゴスゴと帰っていく男たちを見送りながら溜め息を吐いたキョーコは、視線を逸らすこと無く後ろから近付いてきた気配に向かって呟いた。



「…忙しい筈なのに、良く来られましたね?
確か映画の撮影に入ってたと記憶してましたけど?」



「さっきの2人が共演者なんだよ。
彼らと絡む役どころだからね、居なければ当然俺も休みになっちゃう訳。
それに監督もそんな2人にあわよくば君のハートを射止めて来いって面白がって休みやってけしかけるから、俺もこっそり別便で戻って来たんだ。」



「……私が心配で?
彼らの勢いに押されるかと思ったんですか?」



「まさか。
  君を信じてるからそんな心配はしてないけど。
ただでさえ遠距離恋愛だから、逢いたかったから少しでも時間が出来れば直接逢いたいと思っちゃダメかな?」



後ろからフワリと抱き締めてきた懐かしい薫りのする優しい腕に、キョーコは嬉しそうに頬を擦り寄せた。



「…ダメなわけないじゃないですか。
…相談したいこともあったし、電話やメールじゃ久遠さん不足だったから…帰って来てくれて凄く嬉しいです…。」



「…逢いたかったよキョーコ…。」



「………私も…。」



もぞもぞと身動ぎして身体の向きを変えたキョーコが、自分の腕から胸元に頬を寄せ替えて背中に手を回してくる感覚に、久遠は至上の歓びを感じていた。



「………お~い、お二人さ~ん。
少しは場所を考えろ~。」



「…確かに、部外者の目が入りにくいとはいえ、事務所の廊下は戴けませんね。
  せめて社長室に移動してからお願いします、敦賀様。
  京子も。」



至福の時間を邪魔したのは敏腕マネージャーと辣腕な付き人。



腕の中の彼女は状況を理解し茹でダコも裸足で逃げ出す赤さに染まり、閉じ込めた側の彼は心底名残惜しそうに腕を緩めたが、それでも手だけは絡められたまま離されることはなく、社長室まで所謂カップル繋ぎのまま移動となったのである。










久々の再会、アーンド甘甘♪




記者会見から再会するまでの経緯は次回で!!