「うわぁ…毎度の事ながら凄いなぁ。」



事務所の会議室一杯に詰め込まれた荷物を眺めてげんなりする社に、申し訳なさそうな顔をした良い男俳優は素直に頭を下げた。



「…毎度の事ながらすみません、社さん。」



「分かってるよ、これも俺の仕事だからな。
…しかし今回は何日懸かるかな…。
いつまでも会議室占拠してる訳にはいかないから、増援頼んどこ。」



スケジュールはさっき話した通りだから、先に行っててくれと毎度お馴染みの手袋を嵌める社に言われ、蓮は素直に会議室を後にした。



「…と言う訳でお願いします、ラブミー部のお三方。」



やって来たのは雑用セクションとも言われるラブミー部の面々。


マネージャー業務に戻らなければならない社に渡されたマニュアル通り仕事はこなしていたが、それぞれ売り出し中の実力派若手女優たち。


当然全員が長時間会議室で作業に当たり続ける事など出来る筈もなく、千織が抜け奏江も抜け、最終的にはその日と翌日オフになったキョーコ1人で仕分け作業をしていた。


-----と、不意に手元が暗くなった奇妙な事態に首を傾げた途端、真上から聞き慣れたテノールボイスが響いてきた。



「………1人でこんな時間まで。
  頑張り屋にも程があるんじゃないかな、お嬢さん?」



「…へ?」



見上げた先にはこの膨大な数のプレゼントを贈られた本人の神々スマイル。



「こんばんはお嬢さん。
そろそろ切り上げない?」



「…はっ、はにゃあぁっ!?
つつつ敦賀さぁんっ!?」



「今何時か分かってる?
確か朝一に社さんが頼んだはずだし…いくら何でも根を詰めすぎだよ。
…もしかして晩ごはん食べてないんじゃない?」



気付けば既に夜8時をすっかり回っていて、キョーコの腹の虫が元気に返事を返していた。



真っ赤になって慌てるキョーコを可愛いと思いながら、蓮はさりげなくその小さな手をふんわりと握り、椅子から立ち上がらせた。



「あ、あの、敦賀さんお仕事は…?」



「ん?今日は誕生日だからね、社さんがプレゼント代わりに早上がりさせてくれたんだよ。
だから何処かで晩ごはん、一緒に食べてくれないかな。
  多分俺1人だとこのままマンション直行で夕食抜きに…。」



「勿論喜んでお供させて頂きますっ!!
不肖最上 キョーコ、敦賀さんの食生活に関われるチャンスさえあれば全力で関わる事を心に誓っておりますれば!!」



最敬礼でビシッと一礼したキョーコは手早く会議室の机の上を片付けると、直ぐに着替えてきますと言い置いて物凄い勢いで蓮の目の前から姿を消していた。



〈車で待ってればいいかな…。〉



携帯を取り出し、キョーコへのメールを打ちながら蓮の足はエレベーターホールに向かっていた。


自然と顔が綻んでしまうのを隠しきれないまま。




「………あのぉ…どう見てもただのお夕食を召し上がる場所ではないと思われますが…。」



いつもの元気の良さは何処へやら、真正面の席で縮こまる少女を蓮は解きほぐそうと出来るだけ優しく説得に掛かった。



「折角社さんが時間くれたしね、誕生日の最後はゆっくりとディナーでも、と思っただけなんだよ。
…気に入らなかったかな?」



「それは勿論大歓迎なのですが…ここまでする必要がお有りですかっ!?」



超高級ブティックに連れ込まれドレスをあれやこれやフィッティングさせられ、いつの間にか店の外で待機していたテンにローリィ御用達のキャンピングカーに押し込められ、散々弄くり倒されたキョーコが疲労困憊のまま超高級ホテルのレストランの椅子に腰を下ろして顔を上げると、目前には満足げに微笑む超絶美男子が。



「勿論あるよ?
自分への誕生日プレゼントなんだ、最高にドレスアップした最上さんと誕生日の夜、夜景の綺麗なタワーホテルのレストランでディナー。
俺はこの時間が欲しかったんだから。」



ダメ?とかつて何処かで見たわんこが耳としっぽを垂らしたようなすがるような視線を向けられ、キョーコははい、と返すしか出来なかった。


…子分の怨キョ達が数えられないほど浄化されていくのを感じながら。











蓮誕に出す筈が風邪っぴきで流れ、SSの筈が何故か前後編…。


どこまで行き当たりばったりだ私。(ToT)|-orz