自分を追いかけ追い越して、案内する形になった鶏の慌てぶりに苦笑しながらもトサカの横に付けられた小型カメラから仕事の一貫なのだろうと察した蓮は、いつもの人目に付かぬ場所での軽口は避け当たり障りのない話をしながら目的の場所へと導くジェスチャーの鶏の後を着いていった。



導かれた先はスタジオの中でも指折りの広さの撮影スペース。



『おぉっと!?
なんとハンデをものともせず一番に戻ってきたのはスペシャルゲストを連れた“きまぐれロック”の人気者《坊》だぁっ!!
坊がご案内してきたのは芸能界にその名を轟かすイケメン俳優、敦賀 蓮さん!!
さぁ、最後の課題をクリアしゴールすれば坊の優勝が決まりますが、ここで他のキャラクター達の姿も後ろに見え始めました。
坊が逃げ切るか、それとも逆転劇が見られるか!?』



司会者の実況放送で全てを悟った蓮は隣に並ぶ鶏の友人の背中をポン、と叩き手に当たるだろう羽根を掴むとスタッフの指示に従って走り出した。



走った先にはくじ引きの箱。



蓮は躊躇う事なく一枚を引き、サッと拡げて読み上げた。



「【ゲストが着ぐるみ抱っこしてゴール】…だってさ。
大丈夫だよね、君嵩張ってるけど軽そうだし。」



その言葉に鶏がたじろいだのが蓮には直ぐに判ったが、蓮は小さい声で鶏(カレ) にだけ聞こえるように続けた。



「…君なら逃げないだろ?
これは仕事なんだから。」



自分の言葉にびしりと固まった鶏の羽根を遠慮無しに引き、ひょいと横抱きに抱え上げた蓮はあまりの軽さに驚きを隠せなかった。


確かに嵩張ってるが、中身は人間で小柄とはいえ男だと思っていたのに。



(これはまるで女の子の軽さだぞ!?)



自分を抱え上げたまま今度は蓮が動かなくなってしまったことに戸惑った鶏(キョーコ)が蓮の肩に回した大きな翼を動かし先を促すと、蓮は我に還ったようで無言のままゴールに向かって走り出した。



そのまま難なくゴールインし、あっさり降ろされた坊とその坊を降ろした蓮の元に花吹雪と共にリポーターが勝利者インタビューにやって来たが、勿論話せない坊はアクションで喜びを表現していたの、だが…。




「お疲れ様です!!
他のキャラクターが戻って来てから表彰式と閉会式ですし時間までまだ間がありますから、今のうちに休憩取ってくださいね。」



ADのその言葉に、僅かにキョーコの緊張の糸が弛んだのか、急に目の前が薄暗く感じたと思った途端足元がぐらついて立っていられなくなった。



「あ、ちょ…っ!!」



ガクリと足から崩れ落ちた坊に驚いた蓮が慌てて支えると項垂れた頭がコロリと零れ落ち、その下から華奢な首筋と茶色の髪が顕れた。



すぐに救護班呼んで来ますと駆け出したADを見送り、蓮は知己の鶏を抱え直したのだが、今度こそ完全に固まってしまった。




「………さん、も………さんっ、しっかりっ!!
これからまだ閉会式残ってるんだろ!?」



聞き慣れたテノールボイスの言動に一気に意識を取り戻したキョーコは、顔の周りが涼しいのに困惑しながらも目を開けたが、視界の広さと目の前にいた声の主に一気に青ざめた。



「……………っ。」



「…あと少しだ、頑張れるね?
その後…大事な話があるのは分かるよね?
逃げたりしないよね?」



キュラキュラと耀く笑顔に大魔王がダブって見えたキョーコに否やが言える筈もなく、コクコクと頭を上下に揺さぶると蓮は羽根の付け根を掴んで立ち上がらせ、閉会式で集まっている着ぐるみ集団へと押しやり、自分は他のゲストの集まっているスペースへと足を向けていった。




「………いつから?
あの鶏くんの中身が君になったのは…。」



なんとか仕事を終え着替えも済ませたキョーコの元に社が顔を出し、駐車場でドナドナよろしく蓮が待つ車に引き渡されたキョーコは、運転する彼の横顔を見ることも出来ずただ俯いていたのだが、呟くようにされた質問から怒りの波動を感じなかった事に驚きながら顔を上げた。



もはや取り繕うつもりもなくなっていたキョーコは、シートベルトをした助手席故に土下座は叶わぬまでも出来るだけ頭を下げて洗いざらい白状したのだった。



「…顔が見えていなかったからといって、生意気にも相談になんか乗れる立場じゃないのに…本当に申し訳ありませんでした!!」



「……………。」



「…敦賀…さん?
…やっぱり怒りを通り越して呆れていらっしゃるんですね。
こんな私じゃ…もう後輩としてお世話になるわけにもいきませんね…。
今までありがとうございました…っ!?」



いつの間にかマンションの駐車場に入っていた車から降りようとしてシートベルトを外したキョーコの手を蓮が引き留める。



「ま、待ってくれ!!
怒ってなんかいないし呆れてた訳でもないんだ。
 だから…っ、何処にも行かないでくれっ!!」



ただ自分が恥ずかしかっただけなのだと頬を染めて言いにくそうにする蓮に、キョーコの中で〈なにこの可愛いの!!〉と叫ぶ何かがいたのは確かである。



その後どういう会話をしたのかは当人たちのみが知るところではあるが、きっかけとなった『着ぐるみアスリート選手権』の放送を境にあの鶏の中身は誰だと話題になり、番組経由でLMEに着ぐるみオファーが殺到し、実はキョーコが中身だと公表する破目になったのは言うまでもない。



そして社が重箱を抱えて移動する姿が頻繁に目撃されるようになったのもこの後である。




「…キョーコちゃんの美味しいお昼かぁ…。
ま、食生活がより一層健康的になったのとラブミー部に依頼しなくても頻繁に会えるようになっただけ進歩か?蓮。」



控え室で重箱をつつきながら生暖かい目で弟分を見詰める優秀なマネージャーは、顔に《どこまでヘタレだ》と書いたまま弄り倒していた。



「…ラスボスは手強いんですよ、どんなイベントでも。」



弄られる側の呟きは果たして届くのやら。











甘さなんか欠片もなく新年一発目でございます!!



この件で二人の仲が動くかどうかは皆様次第っつー事で♪(o^o^o)