やっと手を付けます、なんと半年以上空いてすっかり皆さんに忘れ去られていただろう完結済み作品の番外編!!



憶えてらっしゃいますか、皆さん!?



魔人seiさんの罠でした《大和撫子を探せ!!》のその後、です。











大和撫子の余波--1--





必死の想いで辿り着いた最愛の女性との再会も、僅か1週間で再び離れ離れの生活を余儀無くされた蓮だが、今までの様に連絡出来ないという事が無かったのが僅かながらの救いであった。



…いや、それは救いになるどころか更なる苦悶の日々の幕開けだったかも知れない…。




『…という訳でこっちで試写会のジャパンプレミアに参加したんですが、共演した俳優の▲▲さんが今度は私に是非相手役をと過大なお褒めの言葉を下さったんです。
この前は新作の公開に合わせて□■監督が来日された時、お忙しいスケジュールの合間を縫うようにして態々事務所まで来てくださったし…。
流石ビッグネームな監督さんやハリウッドスターの皆さんは違いますね!!
未だ未だ未熟者の日本人女優にまで心遣いしてくださって…感動します!!』


メールで日々の細々とした事を遣り取りしているが、遥か海の向こうの愛しい女性(ヒト)は相変わらず無防備らしい。



(▲▲も□■も遣り手のイケメンで独身で有名な男じゃないか!!)



取り敢えず遠距離とはいえ恋人同士になったキョーコが海の向こうで無防備に、しかも無意識に、全く危機感無く馬の骨を大量生産しているこの状況。



今や《京子》は日本国内、アメリカのみならずヨーロッパにまで名を轟かし産油国のセレブにまで求婚者がいるとの噂が日本から遠く離れた地にまでとどいていた。



それなのに当の本人は相変わらず自分に向けられる評価を過大だのリップサービスだのと言う始末。



キョーコの側で馬の骨を蹴散らしたいのにそれが出来ないもどかしさに苦悶しながらも、電話の声で怯えさせずに済むと気持ちを切り替えノートPCのキーボードに手を伸ばす蓮であった。



『それだけ君の仕事を皆が評価してくれている、ってことだろう?
それに君は未熟なんかじゃないよ。
アメリカで揉まれた立派な女優になっているんだ、もっと自分を正しく評価したほうがいい。
▲▲も□■も羨ましいな。
君に直接逢えるんだから。
毎日君の事を夢に見るよ。
目を閉じれば君の笑顔がいつも見える。
君の夢の中にも俺が出て来ているといいんだけど。
キョーコ、君に直接逢いたい。
逢って、抱き締めて、君の髪の柔らかさをこの手に感じたいよ。


海の向こうから愛を込めて

愛しいキョーコへ、クオン・ヒズリ』



送信ボタンをクリックし、深く溜め息を吐いた蓮はノートPCを閉じると、月の輝く空を見上げた。



遠い日本の空の下で輝きを放っているだろう愛しい女性(ヒト)に想いを馳せて…。




一方こちらはそんな恋人の苦悩なんぞお構い無しの天然無防備乙女。


僅か1週間、出来立ての恋人と過ごしたくらいでそうそう雰囲気が変わるわけもなく。


遠い空の下で恋人がやきもきしている事など考えもせずに今日も今日とて馬の骨を量産し続けていた。



…勿論本人にそんなつもりはこれっぽっちも無いのだが。



「おはようございます。
今日も宜しくお願いいたします。」



ドラマの現場にやって来た京子に視線が集まる。


日本を離れて2年。


目覚ましい活躍を海外留学期間に果たしてきたキョーコはそれだけでも十分注目の存在なのだが、中身は日本にいた頃とまるで変わらず謙虚で礼儀正しい。



いや、日本にいなかった2年で立ち居振舞いが更に洗練され、キョーコは今や芸能界のみならず財界からも目を点けられる完全絶滅危惧種の大和撫子になっていた。



ローリィもそんなキョーコを1人で放って置いたらどんなトラブルに巻き込まれるかわかったものでは無いと思ったのだろう。


帰国の挨拶に事務所に顔を出したキョーコを見るなり、臨時付き人としてセバスチャンをキョーコに貼り付かせた。



「2年の間にすっかりいい感じに成長してきたみたいだな。
…それにラブミー部の卒業条件をも満たしたいい面構えだ。
正式な担当が決まるまで、最上くん…いや、京子。
お前さんにはセバスチャンを臨時付き人として付ける。
昔みたいに1人で出歩くような真似は絶対にするんじゃねーぞ!?
…やりそうだから敢えて言っておこう。
朝はセバスチャンが迎えに行くまで部屋から出るな。
仕事の合間に買い物がしたくてもセバスチャンがいない時に勝手に出歩くような真似をするなよ?
  料理したけりゃ食材は通販でお取り寄せしろ。
  以前日本にいた時とは自分を取り巻く環境がまるで違っているってことをよ~く、弁えて行動するんだぞ?」



「…あのぉ…社長さん。
  一応私、成人式こそ参加しませんでしたが二十歳越えてるんですけど、お忘れではありませんか?」



「君の警戒心の無さは幼稚園児より悪い。
今どきの娘っ子みたいに節操なしなのも困るが、お前さんみたいな無防備なのもまた困るんだよ。」



だからセバスチャンを付けるんだと言われ、納得しきれないまでも社長命令だからと頷いたキョーコであった。