「…尚、貴方何かしたの?
貴方のプロモーションビデオの相手役のオファー、どこに出しても引き受けてくれないのよ。
最初は良い反応なのに、相手が貴方だと分かった途端手のひら返したみたいにこの話無かったことにしてくれって言われるのよ!?
  クイーンやアカトキの名前出して、大口だって言ってもダメ。
さっきのが探しまくった最後の相手候補だったんだけど…もう、嫌んなっちゃう…。」



こうなったら発売日をずらして公募するしかないわね、とぼやき始める春樹の様子に尚も祥子も顔を見合せるしか無かったのだ。




…これこそがLMEの守護隊の活動の始まりに過ぎなかった。



じわじわと業界内の包囲網を拡げ、真綿で首を絞めるが如き圧力を掛けてきていたのだ。



そうしてそんな不穏な空気を感じ取った記者達から遂に業界内の尚の立ち位置が表沙汰になり、漸く尚自身がその事実を知る頃には、最早手の付けられない事態に発展していた。



あちこちの伝言板で尚の隠したかった過去や、幼馴染みに吐いた暴言、暴挙、悪行の数々が次々に明るみになったのだ。



勿論幼馴染みが誰かだけは完全に伏せられた状態で。



幼馴染みしか知り得ない内容まで含まれていたそれに、尚は京子に遭遇した途端詰め寄ろうとしたのだが…。



「…しらばっくれんじゃねーよっ!!
お前以外誰があんなこと知ってるっていうんだよ!?」



「何訳分かんないこと言ってんの?
  五月蝿いわよショータロー。
知らないものは知らない。
私はアンタを蹴落としたいのよ、それも正々堂々とね。
そんなもの流して何のメリットがあるって言うの?」



「…その呼び方やめろっつってんだろが。
大体キョーコの癖に生意気に…。」



振り向かせる為に掴んでいたキョーコの腕を、第三者の手で弾き落とされ尚は弾き落とした手の持ち主に目を向けた。



「…はいそこの不埒を働くお馬鹿さん。
京子はうちの大事なタレントなのよ。
腕なんか掴んで傷でも付けられちゃ堪らないわ。
それからこのお馬鹿さんのマネージャーさん?
ちゃんと教育…じゃないわね、躾くらいしといてくれないと困るんだけど!?
あぁ…これは失礼しました。
つい、ね…。
初めまして、LMEタレント、京子担当マネージャーの緑川 和泉と申します。
…宜しくお願いします。」



初っぱなからの威嚇にたじろぎながらも祥子は和泉からの名刺を受け取り、自分の名刺を差し出した。



「こちらこそご挨拶が遅れまして申し訳ありません。
アカトキエージェンシー所属歌手、不破 尚担当マネージャーの安芸 祥子と申します。
宜しく…。」



最後まで言わせる事無く和泉は祥子の言葉を遮るように口を開いた。



「本当にちゃんと躾してくれないと困りますよ?
京子はうちの大事な商品なんですから。
女優でもあるこの子の身体に傷なんかつけたら賠償ものだって事、この業界に居れば判るでしょうが…。」



まさかそんな事も判らないなんて言わないだろうな、と目が口以上に物を言っている和泉に、祥子は反論しようと口を開きかけたところでグッと距離を詰められ息を呑んだ。


そして耳元で囁かれた言葉に一気に背筋を凍りつかせたのだった。



《犯罪覚悟で未成年の…それも自分の担当してる歌手と同棲して下半身のお世話までしちゃってるんでしょ?
躾るくらい出来なきゃ大人のオンナが廃るってモンじゃない?》



蒼白になる祥子を後目に、和泉は未だキャンキャンと喚いている尚を無視して京子を促しその場を後にした。



尚が後を追わなかったのは京子と和泉が背を向けて間もなく顔色を失くした祥子が尚の上着の裾を掴んだままへたり込んだが故であった。




それから暫くの後、尚は祥子に訳は訊かないでくれと涙ながらに懇願されアカトキエージェンシーの独身寮に入ることになるのだが、同時に事務所からマネージャーの交代も告げられ、祥子は尚の前から姿を消す事になる。



「…何が起こってんだよ…?」



訳も解らず困惑しまくり、事務所での打ち合わせに戻った尚に、歌手部門の主任を飛び越えて常務からの呼び出しが掛かった。



「…呼ばれた理由は分かっているかね?」



「いいえ…。
ここ最近訳分かんない事が自分の周りで起きてるんだけど、事務所の方で何か手懸かりでも掴んでくれたのかな~とは思ってますけど…常務なんて上のヒトに呼ばれる理由なんて俺には見当もつきませんね。」



「…成る程。
では話そうか。
その前に確かめたいのだが、君は最近の報道がまるっきりのでっち上げだと言い切れるのかね?
幼馴染みにしたと言われる数々の所業なのだが…。」



「ふん、アイツは俺のモンだから、何しようが俺の勝手でしょ?」



「…何だと?」



「アイツを自由に使えるのは俺の権利だと思ってますけど、それが何か?」



何一つ罪悪感を持つ事無く、それが当たり前の事だと思い込んでいた尚は躊躇いなく思ったままを口にしていた。


それが更なる墓穴を掘ったなどと思いもせず。



「………解った。
そういう事ならもういい。
不破 尚、君には再教育プログラムを受けてもらう。
人としての常識が著しく欠けた人間を、アカトキエージェンシーは社名を背負った商品として売り出す訳にはいかない。
最低でも3ヶ月、最大1年のプログラムが終了するまで、君は活動休止だ。
尚(なお)、1年経っても改善の兆しが見られぬ場合は、解雇もやむ無しとする。
以上だ!!
何か質問はあるかね?」



常務に厳しい視線を向けられ言われた意味を、尚は直ぐには理解できなかった。










今回は難産でした。(^。^;)


一回書いた物を半分以上ボツりまして、書き直したものが出ております。



だって前のはローリィが黒いわ守護隊の出番が無いわ…。


ダメぢゃんコレ、てな訳で書き直しました。



先ずはダメマネージャー祥子を排除です♪