報道陣はほとんど灰か消し炭状態だった。
熱々ラブラブな記者会見で焦げた上に、寝耳に水の爆弾発言を連発されたのだから堪ったものではない。
それでも記者の根性は見上げたもの。
なんとか立ち直った強者は写真撮影の間中笑みを絶やさぬ2人に、何とか食らい付こうと必死に質問を飛ばしまくったが、結局質問には答えてもらえず終了されてしまった。
こうなったら記事は自分達の足と目と耳でかき集めた情報で書くしかない。
記者達が一番食らい付いたのが2人が結び付く為には欠かせなかった、京子の上京のきっかけになった当時15歳の詐欺師紛いの幼なじみの正体だった。
日々加熱する報道合戦に困惑するものが一人いた。
件(くだん)の当時15歳な幼なじみ、本名松太郎の不破 尚である。
罪悪感をまるで持っていなかった尚にしてみれば、キョーコをただ使っただけで何故世間がそんなに騒ぐのか、まるで理解出来なかったからである。
そうこうしている内に包囲網はみるみる狭まり、遂に正体のバレた尚が非道な幼なじみのレッテルを貼られ、事務所をクビになったのは言うまでもない。
「…久遠さん、これ狙ってばらしたの?
アイツのした事…。」
芸能誌に書き立てられた尚のバッシング記事とそれに伴う事務所解雇、芸能界追放報道に、すっかり現実が新婚生活になっていたキョーコは蓮と並んでソファーに座り、テレビの内容に顔をしかめた。
「いや、キョーコの周りを彷徨いて欲しくなかったから牽制のつもりで言っただけだったんだけど…自業自得だから仕方がないんじゃないかな?」
爽やかな笑みを浮かべながら隣に座る愛しい妻の肩を抱く夫は、何の感慨も持たずに告げた。
…が、その笑顔に薄ら寒いものを新妻が感じ取ったのは決して気のせいではない。
「…さ、休憩時間はおしまいにして、忘れ物ないか確認しよう?
明日の今頃は飛行機の中だし、書類の不備があっても取りに戻って来るの面倒だしね。
やっと正式に俺の奥さんだね、キョーコ?」
待ち望んでいた日が遂にやって来ると微笑む久遠は、あの記者会見の後の舞台裏を思い起こしてキョーコと笑い合った。
「…お久しぶりです。
こんな形でのご挨拶になってしまって申し訳ありません、お、お義父(とう)…さま。
それから、は、初めましてっ、キョーコといいます。
よろしくお願いいたします、お、お義母(かあ)…さま…っ!?」
キョーコが挨拶を言い終わるか終わらぬ内に、クーとジュリが息苦しい程の力で左右両側からキョーコをがっちりと抱き締めた。
「いやぁんっっ!!
なんて可愛いのぉっ!!
こんな可愛い娘(こ)が本当に娘になってくれるだなんて!!
素晴らしいわクオンっ!!
ね、いつこっちに来るの!?
ウェディングドレスは勿論ママと選んでくれるわよね!?
あなたたちのベビーならきっと最高に可愛いに決まってるわ!!
あぁ、なんて素晴らしい未来が待ってるのかしら~っ!!」
「全くだ!!
しかしジュリ、先ずは新居を調えよう!!
若い二人の愛の新居だ、最高な物を用意したいからな?
あぁそれから、お義父さまなんて堅っ苦しい呼び方しないでパパでいいぞっ!?」
暴走する母、ジュリを煽るようにこれまた暴走親父と化したクーが満面の笑みでキョーコを抱き締めたものだから、真ん中でサンドイッチの中身状態に押し潰されたキョーコが目を回すのに大した時間は必要なかった。
スケジュールの関係で、ヒズリ夫妻は参列して貰いたいキョーコの親代わりだというだるまや夫妻の店だけを訪れ挨拶した。
…大将と意気投合したクーが食事をご馳走になるに至り、リミッターぶっちぎりに食べまくりその日の営業を不能に陥れ雷を落とされていたのもいい思い出の一つだ。
そして明日、2人はアメリカに旅立つ。
あの番組が放送される直前、2人はそれぞれハリウッドに挑戦すべくオーディションに参加し、見事その切符を手にしていた。
「…この先どんなに苦しい事が待ち受けていたとしても、俺の傍にはキョーコが居てくれるんだよね?」
「当たり前の事言わなくてもいいの。
私が辛い時は久遠さんが抱き締めてくれるでしょ?」
「…確かに当たり前だね。」
もう一度クスクスと笑い合って、2人の影が一つに重なりあうと、程なくしてリビングの灯りが落とされた。
2人を邪魔するものは最早ない。
甘い蕩ける様な一夜が今夜もまた2人を包むのだ…。
END
……ってことでおしまいです!!
え?バカ尚に甘過ぎた?
もちっと苛めたかったんですけどね~、ついクーパパとジュリママの暴走が楽しくって。(笑)
読んでくださった皆さんにお礼申し上げます。
ありがとうございました!!