司会者の絶叫にも似た予告の挨拶で番組は終わり、ファミリー向けの軽やかなBGMに乗ったCMが流れはじめても、尚は固まったまま動く事が出来なかった。



たった今目の前で繰り広げられた公開プロポーズを、理解する事を全身が拒否していた。



〈…はっ、馬鹿らしい。
あのキョーコが?
結婚するだと!?
しかもあの敦賀 蓮と?
何かの間違いか、それともドッキリじゃねーのか?
そうに決まってるさ、アイツは俺のモンなんだからなっ!!〉



現実逃避にも程がある。



尚を追い駆ける様に芸能界に飛び込んだキョーコが“京子”として輝き始めてから早数年。



自分もキョーコも既に成人し、親の承諾を得ずとも結婚出来る歳になっていたが、尚は全くと言っていい程変わらなかった。



勿論外見的には青年となっていたのだが内面は上京してきた頃とさして変わらないと言えた。



尚が確実に止めを刺されたのは、翌日の京子と蓮の金屏風前の記者会見であった。




『昨日放送されました内容について、改めてご報告申し上げます。
この度私、敦賀 蓮は、隣にいるタレント、京子さんに結婚を申し込み、無事承諾して貰いました。
放送されるまでは内密にという事務所の意向もありまして報告が遅れました事、報道機関及びファンの皆様にお詫び申し上げます。』



蓮の挨拶を皮切りに、報道陣から矢のような質問が2人に浴びせられていた。



『お付き合いなさっていたのはどのくらい前からなんですか?』



『恋人としてならそろそろ2年になりますね。
事務所の先輩後輩としてなら5年程ですが、俺が彼女と知り合って好きになったのはもう15年も前になります。』



『それはどういう事でしょうか!?』



『実は俺にとって、彼女が初恋のひとなんです。
俺が10歳、彼女が6歳の時に出逢って、ほんの数日ですが輝くような夏の思い出を作ったんです。
10年後に運命的な再会を果たして…それからは猛アタックを掛けました。』



『京子さんはそれについてどう思われますか?』



『正式に交際を始めるまで、彼が想い出の男の子だなんて気付きもしませんでした。
でも幼かったあの日、再会を約束することさえ出来なかったのに、時間も場所も越えてこうしてまた逢えたのはやはり運命を感じますね。』



『あ、あのっ!!
結婚式のご予定は!?
それから入籍はお済みなんですか?』



『結婚式はごく内輪で、海外で行う予定です。
俺の両親のスケジュールと照らし合わせなければなりませんから。
彼女の母親とは…色々事情がありまして残念ながら連絡が取れませんので、育ての親になって下さった方々に連絡を取るつもりでいます。
入籍は手続き上、少し掛かってしまいますが、出来るだけ早くとは思っています。』



披露宴に関しては事務所の社長が仕切ると聞かないので諦めましたと苦笑する2人に、腑に落ちないと言った様子の記者が質問を投げ掛けた。



『手続きと仰いましたが、婚姻届の関係書類だけではないということですか?』



記者の質問に京子と蓮は顔を見合わせると目で会話するように頷きあい、その質問に応えた。



『…実は彼女と俺は国際結婚になります。
俺の国籍は日本にはありませんから。』



ですから手続きに時間が掛かるんですとさらっと何でもない風に爆弾を落っことした蓮に、報道陣は開いた口が塞がらなかった。



『公にしているプロフィールには出身地が未公表になってますよね?
実は俺、国籍はアメリカで日本人のクォーターなんです。』



実は髪も瞳も色を変えてあるんですと事もなさげにすっきりさっぱり言ってのける蓮には、自分の容姿や出自に対するこだわりは最早無い。



全てキョーコに話し、受け止めて貰い、自分の中で昇華する事が出来たからなのだ。



『あ、だから海外での挙式なんですね!?』



記者が確認すると、それもありますがと蓮は苦笑いしながら付け加えた。



『内輪でなく俺の両親が参列すると式場が大パニックになって結婚式が滅茶苦茶になりますから。』



せっかくの晴れやかな式を滅茶苦茶にされたらキョーコに嫌われますと笑う蓮に取材陣は更に首を傾げた。


その時。



バターン!!と盛大な音を立てて会場のドアが開かれると、世界的に有名な一対の男女が姿を現した。



慌てたのはそこに居た全員だったが、一番慌てたのは記者会見を開いた本人たちだった。



『なっ、何故ここにっ!?
確かお父様は北欧ロケで、お母様はパリコレに参加なさると…っ!!』



京子が立ち上がって駆け寄ろうとする手を、蓮が握って抑えた。



『大丈夫、慌てなくても来てくれるよ。』



焦る自分を宥める様に微笑う蓮に、京子はほっとしたのか席に戻って再び蓮と見つめあって微笑んだ。











…すみません、長くなりすぎたのでもう一話続きます。

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