「…でもね、吉野さん。
そんな彼でも歌手として、捨てるのは惜しいのよ。
だから性根を叩き直して、自分のしてきた事の大きさをしっかり自覚させようっていうところからこの集まりは生まれたの。
尚が今後も芸能活動を続けていくには、今の態度ではいずれ業界の重鎮に目を付けられて潰されるわ。
事務所としてもそれは損失に繋がるんじゃありません?
私も貴方もそんなのに付き合わされて評価を下げさせられるのは御免でしょ?
だからこそ協力して欲しいの。」



春樹の物言いに半ば呆れながらもここ数日のマネジメントでそれが事実だと実感していた吉野は、ぐるりと全員を見渡して頷いた。



「…具体的に俺は何をすればいいのかな。
皆さん役割は決まってるんじゃありませんか?」


恐らく間違いなく首魁であろうローリィに言葉を向けると、ローリィはニヤリと不敵な笑みを浮かべてグラスを持ち上げて見せた。



「…敢えて言うなら彼らがしている事をバックアップさ。
不破は自分の立場もしてきた事がどんな意味を持つのかもまるで考えて無いように見える。
そういう意味で彼らがしていることの意味を理解させる役割を担って貰いたい。
今回の映画で、不破はあの役が自分自身だと気付いていたと思うかい?
…恐らく答えは“否”だろうな。
次に彼に課された仕事もほぼ今回の映画に準じた役だ。
同じような役をやらされる事の意味を気付かせてくれる人が居ないと何度やっても同じであろうと結論付いてね、君に白羽の矢を立てたと、そういう訳さ。
やってくれるかね?」



自分の役割を理解した吉野は、事務所に於ける自分の立場も明かしてみせた。



「…その役、喜んでお受けしますよ。
元々、俺はアカトキでも問題児に付いて矯正させるのがメインのマネージャーなんですよ。
そういう事なら全面的なバックアップ、任せて貰います。
…しかし筋金入りの甘ちゃんですね、不破は。
皆さんの怒りのきっかけが掴みきれてないのが俺としては気になるんですが…。」



来ていない緒方さんが仕事の邪魔された、ってレベルじゃこうはなりませんよね、と吉野が疑問を投げ掛けると、春樹は黙ってバッグからICレコーダーを取り出した。



「みんな京子ちゃん繋がりで仕事をしたのはさっき言いましたよね。
その中で啓文…緒方監督が仕事の邪魔された訳ですけど、邪魔の仕方が男として最低で…あ~、今思い返してもムカつくーっ!!!」



座卓をバン!!と叩いて激昂する春樹を両側から新開と黒崎が宥める。



こりゃ相当だと腹を括って吉野が出されたICレコーダーに視線を落とすと、ローリィも聴いていなかったのだろうか興味を示した。


「…とにかく聴けば分かりますよ、彼女の言った意味。」



横にいた新開がレコーダーを操作して再生した。



「…これ、事の真偽を確かめたかったのと、何を考えていたのか知りたかったので録音したものなんですよ。
会話が始まる直前、俺と黒崎くんで彼に直接会いましてね…。」



その時の経緯をざっと説明しているうちに音が再生され始めたので、後は聴き終わってからと新開は口を閉じた。


…のだが。


聴き終わったところで妙に静かになっている事に気付いた新開が顔を上げると、やや俯き加減で難しい顔をした吉野と、閻魔大王もかくやといった表情を貼り付かせたローリィと、そのローリィを見て青ざめる一同の姿がそこにあった。



「…俺はな、京子君の才能と将来を楽しみにしてるんだよ。
時間がかかろうともいつかはラブミー部を卒業して羽ばたく日が来る、とな。
…おい社?
お前この事件の時現場に居合わせたんだよなぁ…?
俺はこんな報告受けちゃいねぇぞ!?」



「さ、椹主任には報告してあります!!
そちらからアカトキには抗議がいってるはずですが!?」



社長のお耳に入れる事もないと思ったんじゃないんですか、と言うとローリィは漸く少しだけ怒りを収め、大きく溜め息を吐いた。



恐々としながらも追加情報として社が報告した事に、ローリィは更なる怒りを覚えて怒りの鉄槌の重量アップを心に決めたのだった。



「…社長、先程も吉野さんに話しましたが、キョーコちゃんが愛したくも愛されたくもない病持ちになった要因の半分は、不破 尚という幼馴染みと生活してきたからのようです。
上京前後のキョーコちゃんの様子を本人から訊きましたけど、不破はキョーコちゃんを言葉巧みに騙して、自分勝手に都合よく食いものにしていたみたいです。
中卒でアルバイトなんて大した稼ぎはできないはずなのに、キョーコちゃんは寝る時間も惜しんでバイトをハシゴして生活の全てを支え続け、不破は事務所に入りのうのうと高校に通っていた事も知らず、挙げ句ボロ雑巾の様に棄てられる、という形でしたから…復讐したくなる気持ちも解らなくは無いです。
とにかく男としてと言うよりも人間として最低ですよ、不破は。
しゃ、社長…!?」



「…すまんな、麻生君。
場合によっては不破は再起不能にするかもしれん。
俺は若いもんの過ちってぇのは誰しもあるとは思っちゃいるがな、最上くん…京子と同い年にしてここまで腐った餓鬼を見逃せるほど甘かぁねぇんだ。」



つまりは不破の態度次第で制裁が厳しくなるか少しは緩むか分からないとローリィに告げられ、春樹も仕方ないと頭を下げるしかなかった。


それほど尚の悪行はローリィの逆鱗に触れたのだと、その場に居合わせた全員が納得せざるを得なかったのだった。











しばらく空いちゃいました~。


上手く吉野さんを仲間に引っ張り込んだ宝田一味ですが、首魁ローリィの怒りの鉄槌が巨大化しそうな雰囲気です。


しかし文章にすると、とことんバカ尚は人非人…。

( ̄~ ̄;)


いりるの文章力でどこまで鉄槌が振り下ろせるか、次はもちょっと早く更新したいところでございます。


ではまた。m(__)m