「……成る程なぁ。
事情は分かった。」



その日のうちにローリィへのアポイントメントを取り付けた椹は、田村と有里子から聞いた話を事細かに報告した。



「…それで今後の対応ですが…。
やはり電車で事務所に来るのは止めさせないと、何かあってからでは遅いですし…。」



「…うん…まぁ止むを得ないだろうな。
だが見守ってくれていたファンクラブの方々に断りもなくいきなり通勤を止めたのでは申し訳が立たん。
…そこでだ!!
タレントの京子ファンクラブ、初のファンの集いをその守護者の皆様限定で行い、その際に事務所の都合で通勤を止めることになったと報告するしかあるまいな。」



京子くんはスケジュールもきつくなってきたし、そろそろちゃんとマネージャー付けてやらなきゃいかんなぁとは思ってはいたんだよと話すローリィに、椹も同意して早速ファンクラブに告知を出すと言ったのだが…。



「…問題は何処の誰が守護者か分からんってトコだな。
ここは1つ、守護者のみに判る符丁の様なものを作るか、若しくは教えてくれた彼らの助力を乞うか、だな…。」



「…そういう事なら、私は後者を取りますね。
符丁ですと守護者以外の人間に伝わって判別がつかなくなる可能性もありますが、彼らの手を借りれば少なくとも大体の人物の把握も可能だと思います。」


人数だけでも把握しないと会場の確保もままなりませんし、と椹が告げるとローリィも同意して指示を出した。



「…では早速その守護者の代表者2人にアポを取ってくれ。
あちらの都合に併せてこちらの時間を空けて打ち合わせしよう。」



ファンは大事にしないとな、と言うローリィに頷き、早速連絡を取るべく椹は社長室を後にした。




…それから10日後。

漸く都合の着いた2人に事務所まで来て貰い、ローリィを交えて社長室での話し合いが行われた。


初めて会ったLME社長、ローリィ宝田の風貌とキャラの濃さにドン引きしていた田村と有里子だったが、決して悪い人物でないと分かると、寧ろ違和感なく馴染んでいった。




「…という訳で、君たち守護者には今まで世話になったままいきなり通勤止めましたなんて不義理な真似をしたくはないということになってね。
京子が毎年個人的に行っているパーティーと同じものを、一度だけ君たち守護者の為だけに開催する方向で準備を進めている。
それを守護者の皆様への感謝を込めた集いとさせて貰いたいのだが…構わないだろうか。」



風貌に似合わず真摯な物言いをするローリィに、田村と有里子は顔を見合わせ、仕方ない事ですと頷いて見せた。



「感謝の集いを開いて下さるのはとても嬉しいです。
それで私達を呼んだ理由は…。」



「先日椹から聞いた話では、あなた方も守護者の正確な人数を把握していないとか。
我々が守護者を把握しようとして動くと、守護者以外のファンクラブメンバーにファンの集いを限定で行おうとしてしまうのがバレる可能性がある。
そこであなた方にお願いしたい。
…一度オフ会という形で、守護者の皆様を集めて貰いたいのだが、手伝ってくれないかね?」



「…口コミでの召集になりますから、少し時間が懸かりますが構いませんか?
くれぐれも守護者以外には伝わらないようにしないといけませんし…。」



ローリィを筆頭にLME側が頷くと、有里子が口を開いた。



「椹さんとお話しした後、一応仲間同士で確かめられる限りの人数を調べてみたんです。
…そしたら、その…。
私、せいぜいいっても4、50人だと思っていたんですけど、確認が取れただけで既に120人を超えてました…。
あっ、その顔は信じてませんね!?
  私だって最初は嘘だろうって思いましたよ!?
  だって電車の中で京子さんがトラブルに巻き込まれないように見守ってるだけの筈なんです。
なのにこの人数…。」



本当なんですと言いながら、有里子はバッグの中に入れてあった封筒を目の前のテーブルに置いて、ローリィ達の前に押し出した。



「調べられるだけ調べて来ました。
田村くんにもまだ見せていなかったんですが、守護者の中には京子さんがどの駅から乗っているのか知ってる人が結構いました。
当然こちらの最寄り駅で下車することも。その合間合間で途中までとか、二駅だけという人達も含めるとその人数みたいです。」


予想以上の人数の増えように、開いた口が塞がらないローリィ以下LME社員達であった…。










でんでん虫更新になってしまってます。m(__)m