さて、皆さんお気付きの事と思いますが、敢えて書いておこうと思います。


劇中劇【華恋】、時代劇によくありがちなオチです。

ま、若旦那はイジリますけどね♪



それでは続きを↓からどうぞ。












「先程は失礼しました、急にメルアドやら訊いてしまって。
さっきは話せなかったのですが、キョーコちゃんと不破くんの関係は少し込み入ったものなんですよ。
安芸さんからは何も聞いてらっしゃらないご様子とお見受けしましたが…。」



確かに吉野は祥子から何も聞かされてはいない。


と言うより引き継いだのはマネージャーとして尚のスケジュールだけで、他は全く引き継げなかったのだ。


「…何しろ事務所の都合とはいえ急な事でしたから。
…相当込み入った事情なんですね?」



真剣な眼差しの社の様子から長い話で人目を気にしない場所でしたいのだという事を察した吉野は、そちらの都合に併せますよとスケジュール帳を出して社に笑いかけた。




対する社はというと、尚の先代のマネージャー、安芸 祥子とは親しく話をするような間柄ではなかったし、あの不破のマネージャーということもあって遠巻きに見る程度に止めていたせいか好感を持つには到らなかった経緯がある。


しかしこの男はそういった意識をまるで感じさせない人当たりの良さがあった。


事務所の枠を越えていい友人になれそうな、そんな予感すらしていた…。






~再び劇中劇~



「…他藩の江戸家老を呼びつけるような不躾な真似をして相済まぬと思うておるが、事態を重く受け止めての事と思うてくれると有り難い。
家老どの、先日のおりょうに関して、おりょうの母が遺した品が出て参ってな。
これに見憶えはあるまいか。」



奥方の言葉に平伏していた顔を上げ、先日おりょうの顔を幽霊でも見たかの様な態度で狼狽えていた壮年の江戸家老は、差し出された品を見てさっと顔色を変えた。



「こっ、これはっ!!
…た、確かに見憶えがございます。
この品は…亡き姫様がご誕生の折、我が殿が国元一の細工師に命じて創らせました逸品…蒔絵の硯箱にございます!!
此処に我が藩藩主の家紋もございますし、間違いござりませぬ!!
しかし姫様が身罷られ、葬儀の折に姫様の亡骸と共に姫様ご愛用の副葬品として間違いなく私が墓に納めました…。
もしや墓荒らしをした不届きものが!?」



「…落ち着かれよ。
  先程も申し上げたがこれはおりょうの母が長きに渡り隠し続けた品。
真実を知るはおそらく今臥せっておいでのそちらの奥方さまだけであろうが…とにかくおりょうは何かしらそちらと縁のある者であることは明白なようです。」



気を昂らせた家老を宥めた奥方は、はっきりしたことが分かるまでは自分達の藩でおりょうを預かる旨を説明し、真実を解明して欲しいと家老に頭を下げた。



「お顔をお上げ下さい、奥方さま!!
もし此度の事が善き方向に進めば跡取り不在の当藩にとってもこの上無き朗報にございます。
我が藩のお方さまにも事情をご説明申し上げ、一刻も早く真相を突き止めたく存じまする。」



再び平伏した家老は硯箱を預かると大切に包み、下屋敷を辞していった。



「…聞いての通りじゃ。
おりょう、そなたはただの町娘ではないかもしれぬ。
確かな証が立つまでは当藩で身柄を預からねばならぬが、どうか堪えておくれ。
何より決して悪い話ではない筈なのじゃ。
  そなたにとっても、永遠どのにとってものう…。」



隣の間に控えて、飛び込みたいのを必死に堪えていたおりょうに語りかける奥方の目は優しい母の目をしていた。



一方おりょうに狼藉を働いたとして下屋敷の座敷牢に籠められていた相模屋の若旦那、正太はというと自分が何故牢屋に閉じ込められているのか理解出来ずにひたすら喚き散らしていた。



「出せよ!!
何だってこの俺がこんな所に入れられなきゃならねぇんだよっ!!
出せぇ!!出しやがれ!
聞こえてんだろ!?」



目を覚ましてから状況を把握して後、既に一刻(2時間)以上も喚き続ける男に、応える者は誰一人としていなかった。



そんな正太が牢から出されたのは、それから五日の後の事だった。



「…何なんだよ。
風呂まで使わせておいて、座らせんのは庭の玉砂利の上っていうのはさ。」



牢屋から出されるなり湯殿に放り込まれたと思えば、着物を着た途端に後ろ手に縛られて玉砂利の敷かれた庭の蓙(ござ)の上に座らされたのだ。


訳が分からなかった仏頂面の正太だが、その問いに庭先に引き立てて来た侍が答えた。



「…本来ならばお前ごときが目通りも叶わぬご身分のお方が、利助どののたっての願いをお聞き届けになっての事だ。
黙って居らねば猿轡でも噛ませて置くがどうする?」



「…おりょうの親父が!?
何でそんな事…!!」



「…訳は直ぐに分かるそうだ。
これ以上は本当に猿轡を噛ませるぞ?」



そう言って懐から手拭いを出した侍を見た正太は、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべながら黙り込んだのだった。