祥子が事務所に出勤してから合流する事になっていた為に、そんな事態を知る事なく現場に入った尚だったが既に撮影は始まっていて相も変わらずキョーコに接触する事は出来ず、渋々自分の撮影準備に楽屋に戻って行った。
一方こちらはアカトキエージェンシー、歌手部門部長デスク前に立たされた不破 尚マネージャー、安芸 祥子。
「…教えて頂けませんか。
何故私は尚の担当を外されるんですか?」
直属の上司と歌手部門のトップが並ぶデスクの前で、祥子は納得がいかないと理由を求めた。
「…今、尚は映画撮影の真っ最中だったな。
共演している大御所俳優とそのマネージャー、更に所属事務所連名で抗議文がうちに送られてきたんだよ。
アカトキは教育も満足に出来ていない所属歌手を売り出して恥ずかしくないのか、とね。
あんな歌手1人満足に教育出来ないマネージャーでは同じ現場にいるのも不快だ、とな。
尚は作品上外す訳にはいかないが、君は替えが利く。
暫く資料室で資料整理でもしていたまえ。
尚にはもっとまともなマネージャーを付けるから心配は要らない。」
もう行っていいと追い払われて、祥子は弁解の余地もなく部長室から追い出され、その日から薄暗い資料室で資料整理をせざるを得なくなったのだった。
しかし、その仕事からも祥子は直ぐに追い出される事になる。
マネージャーから外された事で尚が祥子のマンションに転がり込んで同棲していた事が発覚し、管理不行き届きどころか未成年との不純異性交遊という犯罪行為があったという理由で即刻解雇と決まったのだった。
祥子は放り出されるようにアカトキを去り、二度と芸能界に関わる仕事には就けなかった。
話はスタジオにいる尚にもどる。
そんなことになっているとも知らず、尚は久々に撮影に参加するという事もあって、衣装やカツラを整えてスタジオ入りすると例によってキョーコに話し掛けようと画策したのだが、LME側からの依頼によりスタッフ、キャストとも余程の事がない限り近付けさせようとはしない上、話せたとしても第三者無しの状況は作らせない。
撮影も大詰め、尚の出番も残り数シーンを残すだけとなっていた。
「先日決まったそなたの縁組みだが…先方の事情で白紙になった。
婿入りする筈だった姫君が急な病で身罷られたそうだ。」
そなたは安堵しているのやも知れぬがな、と父に心の内を覗かれているような気分になり、永遠は黙って頭を下げた。
一方こちらはおりょう。
「…先方の奥方…姫の母君は私の遠縁に当たる方。
お悔やみに参るので伴をしておくれ。」
おりょうは自分の心の卑しさを奥方に知られたくなくて、黙ったまま深々と頭を下げた。
そしておりょうは奥方と共に奇妙な体験をして帰ってくる事になる。
「急ぎ利助を呼んで参れ!!
但しおりょうに知られてはならぬ。」
下屋敷に戻るなりおりょうを下がらせた奥方は、衣類を調えた直後に側に控えていた女中に命じた。
程なくやって来た利助は、顔色の悪い奥方を気遣ったが、奥方は大事ないと手を振り人払いした。
「…奥方さま。
何か私にご用と伺いましたが…。」
「…有り体(ありてい)に訊こう。
おりょうはそなたの真(まこと)の娘か?」
奥方の問いかけに利助はがばっと顔を上げた。
「な、何を…。」
「…その様子では違うのじゃな。
そなたは知っておるのか?
おりょうがどのような出自なのか…。」
利助の狼狽え様から確信を持った奥方は、今日の出来事をありのまま伝えた。
訪問した遠縁筋の下屋敷に入った途端、おりょうを見た女中や腰元、家臣に到るまで悉く幽霊を見たかの様に悲鳴を上げたり腰を抜かしたりした事。
あまりの不審な態度に首を傾げていたのだが、応対した江戸家老の話に合点が入ったこと。
おりょうは先日亡くなったばかりの姫に瓜二つだというのだ。
あまりにも似ているために家老から必死に出自を問われたが、本人も奥方も分からないと断って帰ってきたのだと。
そこまでの話を聞いた利助は、俯いたまま大きくため息を吐いた。
そうして重い口を開き、真実を語ったのであった。
「…では、手掛かりはそなたらの住まいであった長屋に置き去りか!?」
「はい…。
死んだ女房がいまわの際に言いましたのはそれだけでして…私も奥方さまからお話を聞くまで忘れておりました。」
「急ぎその品を持ってきてはくれぬか!?
私が思うような話であればおりょうにも永遠どのにも決して悪い話には成らぬ筈じゃ!!」
奥方のその言葉に利助は黙って頷き、部屋を辞していった。
「………カーット!!
OKです!!」
スタッフの声に張り詰めた緊張感がフッと解け、たった今まで芝居に集中していた役者たちが一体感を持って演技の内容を話し合うのを、演技のえの字も知らない尚は疎外感を持って遠巻きに見詰めるしか出来なかった…。
…はい、ほんっとーに久し振りの“誰一”です!!
今回は、馬鹿尚は指をくわえて見てるだけ~、の回です。
そしてマネージャーもさよならです!!
後で祥子さんにはもう一度出てもらいますけどね♪
一方こちらはアカトキエージェンシー、歌手部門部長デスク前に立たされた不破 尚マネージャー、安芸 祥子。
「…教えて頂けませんか。
何故私は尚の担当を外されるんですか?」
直属の上司と歌手部門のトップが並ぶデスクの前で、祥子は納得がいかないと理由を求めた。
「…今、尚は映画撮影の真っ最中だったな。
共演している大御所俳優とそのマネージャー、更に所属事務所連名で抗議文がうちに送られてきたんだよ。
アカトキは教育も満足に出来ていない所属歌手を売り出して恥ずかしくないのか、とね。
あんな歌手1人満足に教育出来ないマネージャーでは同じ現場にいるのも不快だ、とな。
尚は作品上外す訳にはいかないが、君は替えが利く。
暫く資料室で資料整理でもしていたまえ。
尚にはもっとまともなマネージャーを付けるから心配は要らない。」
もう行っていいと追い払われて、祥子は弁解の余地もなく部長室から追い出され、その日から薄暗い資料室で資料整理をせざるを得なくなったのだった。
しかし、その仕事からも祥子は直ぐに追い出される事になる。
マネージャーから外された事で尚が祥子のマンションに転がり込んで同棲していた事が発覚し、管理不行き届きどころか未成年との不純異性交遊という犯罪行為があったという理由で即刻解雇と決まったのだった。
祥子は放り出されるようにアカトキを去り、二度と芸能界に関わる仕事には就けなかった。
話はスタジオにいる尚にもどる。
そんなことになっているとも知らず、尚は久々に撮影に参加するという事もあって、衣装やカツラを整えてスタジオ入りすると例によってキョーコに話し掛けようと画策したのだが、LME側からの依頼によりスタッフ、キャストとも余程の事がない限り近付けさせようとはしない上、話せたとしても第三者無しの状況は作らせない。
撮影も大詰め、尚の出番も残り数シーンを残すだけとなっていた。
「先日決まったそなたの縁組みだが…先方の事情で白紙になった。
婿入りする筈だった姫君が急な病で身罷られたそうだ。」
そなたは安堵しているのやも知れぬがな、と父に心の内を覗かれているような気分になり、永遠は黙って頭を下げた。
一方こちらはおりょう。
「…先方の奥方…姫の母君は私の遠縁に当たる方。
お悔やみに参るので伴をしておくれ。」
おりょうは自分の心の卑しさを奥方に知られたくなくて、黙ったまま深々と頭を下げた。
そしておりょうは奥方と共に奇妙な体験をして帰ってくる事になる。
「急ぎ利助を呼んで参れ!!
但しおりょうに知られてはならぬ。」
下屋敷に戻るなりおりょうを下がらせた奥方は、衣類を調えた直後に側に控えていた女中に命じた。
程なくやって来た利助は、顔色の悪い奥方を気遣ったが、奥方は大事ないと手を振り人払いした。
「…奥方さま。
何か私にご用と伺いましたが…。」
「…有り体(ありてい)に訊こう。
おりょうはそなたの真(まこと)の娘か?」
奥方の問いかけに利助はがばっと顔を上げた。
「な、何を…。」
「…その様子では違うのじゃな。
そなたは知っておるのか?
おりょうがどのような出自なのか…。」
利助の狼狽え様から確信を持った奥方は、今日の出来事をありのまま伝えた。
訪問した遠縁筋の下屋敷に入った途端、おりょうを見た女中や腰元、家臣に到るまで悉く幽霊を見たかの様に悲鳴を上げたり腰を抜かしたりした事。
あまりの不審な態度に首を傾げていたのだが、応対した江戸家老の話に合点が入ったこと。
おりょうは先日亡くなったばかりの姫に瓜二つだというのだ。
あまりにも似ているために家老から必死に出自を問われたが、本人も奥方も分からないと断って帰ってきたのだと。
そこまでの話を聞いた利助は、俯いたまま大きくため息を吐いた。
そうして重い口を開き、真実を語ったのであった。
「…では、手掛かりはそなたらの住まいであった長屋に置き去りか!?」
「はい…。
死んだ女房がいまわの際に言いましたのはそれだけでして…私も奥方さまからお話を聞くまで忘れておりました。」
「急ぎその品を持ってきてはくれぬか!?
私が思うような話であればおりょうにも永遠どのにも決して悪い話には成らぬ筈じゃ!!」
奥方のその言葉に利助は黙って頷き、部屋を辞していった。
「………カーット!!
OKです!!」
スタッフの声に張り詰めた緊張感がフッと解け、たった今まで芝居に集中していた役者たちが一体感を持って演技の内容を話し合うのを、演技のえの字も知らない尚は疎外感を持って遠巻きに見詰めるしか出来なかった…。
…はい、ほんっとーに久し振りの“誰一”です!!
今回は、馬鹿尚は指をくわえて見てるだけ~、の回です。
そしてマネージャーもさよならです!!
後で祥子さんにはもう一度出てもらいますけどね♪