「…それは君の事だとは思わないのか?
今17歳の女子高生、あいつの側にいる17歳の女子高生は君だけだぞ?
第一…。」



「そんなこと、あり得ないです…ってあ、あいつ!?」


「俺を誰だと思ってる?
ま、全部お見通しだな。
それを踏まえて訊くぞ?
あいつに想いを伝える気は?」



耳まで紅く染めたキョーコが、桃色くらいの頬に戻って首を横に振った。



「…今の私が言っても、きっと迷惑になってしまいます。
それに…、あの人に恥じない自分になって、それから堂々と言いたいです。」



「…あいつの気持ちは?
君に想いを寄せていたとしたら?」



「………分かりません。
あの人にとって私がどんな存在なのか。
答えは帰って来てからです。
向こうで精一杯、勉強して来ます。
あの人に恥じない自分になるために。」



「…9割方卒業なんだがなぁ。
想う気持ちは目覚めても、想われることの受け入れ方を知らないからな、君は。
恋愛は理屈じゃないんだぞ?」



こればかりは時間が必要か、とローリィは頭をかきかきデスクに向かい、応接セットのテーブルに書類を持ってきてばさり、と広げた。



「…ラブミー部の話はここまでだ。
さー!!
選り取り見取りだ!!
持ってけドロボー!!
どこにするか好きなだけ悩め、青少年!!」



さっきまでのシリアスモードはどこいった、と内心でツッコミを入れつつ、キョーコは自分の未来を見据えた留学先の選定をするべく、目の前の書類を一つ一つ確認していった。


…のだが。


真面目な話が終わり、書類を見ていたキョーコが急にコックリコックリ、眠そうにし始めた。



「…すまん、忘れてた。
その書類持ってけ。
時差ボケがあるんだ、すぐに下宿に帰って休め。」



「で、でも…。
時間がありませんから…。」



明日の夕方持って来ればいい、とまとめた書類を袋に突っ込み、秘書にキョーコを送る様に指示を出して、ローリィはキョーコを退室させた。



〈さ~て、と…。
  あのヘタレ男、どうするかな…。
ギリギリまで黙って置くか、邪魔しといて気付くまで放って置くか…。
………後者だな。
せっかくの原石、日本だけで磨くには惜しいからな~。
徹底して接触させないように、渡米まではあいつの食事の依頼も弁当止まりにさせよう。〉



恋する男には残酷だが、少女の可能性の翼を拡げ、より大きく羽ばたかせる為には仕方ない選択であった。



翌日。

ゆっくり休んだキョーコが元気に事務所に顔を出すと、椹から早速今後のスケジュールについての打ち合わせがなされた。



「あちらのエージェントとの契約についても、後は細かいところを詰めているだけだから一両日中にはサインの取り交わしになる。
それさえ終われば具体的なスケジュールが組めるからな、今日のところは社長への報告と、暫く使わなくなるラブミー部のロッカーの整理くらいだろう。
部員仲間くらいには話して構わないと社長から許可が出てるぞ。」



分かりましたといつもながらの綺麗な所作で一礼し、キョーコはアポを取りつけた社長の元へ向かうべくその場を辞去した。


椹の元には社長命令でキョーコのスケジュールに関して特命が下っていた。


学校に出来るだけ登校できるように、夕方以降のラブミー部の依頼は断るように、というものだった。


近く留学する彼女が学校に出来るだけ登校できるようにというのは理解できるが、その事と夕方以降のラブミー部の依頼を断るというのが繋がらず、椹は首を傾げていた。




キョーコは自分なりに吟味した上で選んだ学校をローリィに示し、ローリィも同意の上でその書類を受け取った。

最大の問題、保護者に関しては家庭の事情を知ったローリィが自分に委せろと言ってくれたので、キョーコはその言葉に甘える事にした。




「…さて、と。
後は私物の整理なんだけど…大したもの、入ってないのよねぇ…。」



ラブミー部の部室に戻って来たキョーコは、自分のロッカーの中身を全部テーブルの上に出して眺めてみたが、今日持って来た鞄に全部詰めておしまいにできそうなほど少なかった。

残ったのは替えのラブミーつなぎだけ。


キョーコは自分のラブミーつなぎだけをロッカーに戻し、残りを全部鞄に詰め込んだ。



「…ちょっとだけ…寂しいかな。」



しんみりしていると部室のドアが開き、久しぶりに親友の顔が現れた。



「あら、久しぶり。
何辛気臭い顔してんのよ。」



「~~~~モーーー子さぁぁぁぁん!!!!!」



毎度お馴染みのやり取りを経て、キョーコ特製お肌に嬉しいハーブティーを飲みながら、奏江は今までの経緯をキョーコから訊いた。



「…一足先を超されたけど、負けないからね。
目指す先にアンタがいると思って私もそっちを目標に据えるから。
アンタもあっちで潰されんじゃないわよ!?
私とアンタ、きっと天宮さんも向こうで競演するんですからね!?」



アンタの根性があればどこだってやってけるわ、しっかりやんなさいと励ましの言葉を残し、奏江は次の仕事へと去っていった。