荷物の手続きを終えた社がタクシーの運転手に指定した場所に行くと、上手く黒山集団から脱出出来たらしいタクシーがキチンとその姿を現していた。
運転席の窓ガラスを軽くノックしてボストンバックとキャリーケースをトランクに仕舞い、キョーコが待つ後部座席に座り込んで漸く大きく息を吐いた。
「…すみません社さん、大丈夫ですか?
ただでさえ敦賀さんのマネージメントでお忙しいのに、私なんかの迎えにまでお手を煩わせて…。」
「気にしない気にしない。
それよりキョーコちゃん、社長から連絡もらった時は俺、ここで待ってたのが君だったなんて知らなかったけど、君1人で事務所に帰るつもりだったって本当?
どうやって?」
動き出したタクシーの中で社からぶつけられた疑問に、キョーコは不思議そうに答えた。
「え?普通に帰るつもりでしたよ?
電車に乗って…。」
「…あんな大きなボストンバックとキャリーバック持ってその格好で!?」
こくりと頷くキョーコのあまりの言い様に、社は前の座席に頭をぶつけてしまった。
「や、社さん!?」
頭を運転席の背中にぶつけたままギギギ、と自分の方に首だけを向けた社に、キョーコはつい反対のドアまで後退りしてしまった。
「…キョーコちゃん、本当にいい加減芸能人の自覚、持って?
君さっき何でタクシーが一回りして戻って来たのか分かってるの?」
「…へ?
タクシープールにいつまでもいたら他のお客様の迷惑だからですよね。
荷物持って来てませんでしたし…。」
ムクリと身体を起こした社はやっぱりと額に手を当てた。
「…最後の部分しか合ってないよ、キョーコちゃん。
君ね、あの時あのままあそこにいたら、すぐに男性ファンに取り囲まれて、タクシーが身動き取れなくなるところだったんだからね?」
社が語る真実にキョーコは驚きを隠せなかった。
「え、だって…空港の中ではそんな…。」
「…だから自覚が足りないの。
何かのきっかけに取り返しのつかない事態に陥りそうな、そんな雰囲気だったんだよ?あの時。」
良く覚えておきなさい、と社が注意するとキョーコはシュンとなって、はい、と頭を下げた。
「まぁ、無事で何より。
お兄さん久しぶりに会えて嬉しいよ、キョーコちゃん。
マリアちゃんのお供ってことはアメリカだろう?
楽しかったかい?」
しょげていた頭を社がぽんぽんと撫で、海外の土産話を訊くとキョーコはパッと花開いたように明るい笑顔で楽しそうに話した。
社はこんな事、蓮にバレたら闇の国に引き摺り込まれて恐怖の坩堝に叩き込まれるな、と背筋をぞくぞくさせながら事務所に着くまでキョーコの土産話に笑顔で耳を傾け続けたのだった…。
キョーコと荷物を事務所で降ろし、社は再びタクシーで蓮に合流するべく去って行った。
手にはアメリカ土産の、キョーコの目がねに叶ったお菓子を持って。
キョーコは去って行くタクシーに深々と頭を下げ、事務所の中に入って行った。
「椹主任、ただいま戻りました。」
キョーコが椹のデスクの前に立ち一礼すると、椹はぱちぱちと瞬きを繰り返してからうん、と軽く頷いた。
「おお、帰って来たか。
どうだった?アメリカは。
…と訊きたいところだが、着き次第社長室に連れて来いと言われてるんだ。
休めなくて悪いが行くぞ、最上君。」
椹の最後の一言に、今までキョーコとすれ違ってそのままタレント部を覗き見していた野次馬と、訊きたいが我慢していたタレント部の面々が一気にずっこけた。
キョーコは笑顔で頷き、荷物だけ置かせて下さいと近くにいた女性社員に言い置いて椹と共にタレント部を後にした。
見送った男性社員全員の心の声がフロア全体に響き渡るようであった。
[[[[[[あれがどピンクつなぎのラブミー部員1号~!?!?!?!?!?]]]]]]
???コンコン。
「椹です。
最上君が戻りましたので連れてきました。」
「おう、入れや。
お帰り、最上君。
首尾良くいったようだな。
クーからも皇貴からも報告は受けてるし、先方から契約書の内容についてエージェントを通して今詰めてる段階だ。
良くやったな。
ハリウッドデビュー決定だ。
…ま、あちらは日本より厳しい世界だ。
最後まで演じ切れれば、の話だが君の根性は並じゃない。
俺の勘も間違いなくいけると言ってるんだ、心配は要らんさ。」
入って来たキョーコを相変わらずの豪奢なのか奇抜なのか分からぬ衣装のローリィが出迎え、キョーコと椹がソファーに腰を下ろすまでの間に、秘書は手際よくコーヒーを用意していた。
「…はい、契約に関しては社長さんに全面的にお委せします。
それから今後の事なのですが…。」
椹とローリィを交互に見て、キョーコは意を決して告げた。
「あちらでの仕事も出来ましたし、ご厄介になりましたヒズリご夫妻のご厚意もあって、演技の勉強も学校の勉強もあちらで進めていきたいと思っています。
つきましては…。」
「分かってるさ。
クーからもその話は来てるからな。
最上 キョーコ君。
いや、タレント“京子”君。
君の芸能活動は今後、アメリカでのものを基本とし、帰国の際は日本でも活動するとしよう。
椹、それで調整してくれ。」
「…海外留学に伴い、活動拠点をアメリカに移すと発表して宜しいのですね。」
椹の記者発表を踏まえた確認に、ローリィは首肯したが1つだけ注意を加えた。
「今回ハリウッドデビューする件だけはまだ極秘扱いとする。
契約もまだ済んでいない事だしな。
…じゃあ任せたぞ。
最上君は留学話の事があるから残りなさい。
帰りは送ってやる。」
そうして椹は調整と他の仕事の為に退室し、ローリィとキョーコの2人だけになった。
ローリィにはキョーコに訊きたい事が残っていた。
ラブミー部員のキョーコに。
やっしー、爽やかに退場もあとで魔王降臨か?
運転席の窓ガラスを軽くノックしてボストンバックとキャリーケースをトランクに仕舞い、キョーコが待つ後部座席に座り込んで漸く大きく息を吐いた。
「…すみません社さん、大丈夫ですか?
ただでさえ敦賀さんのマネージメントでお忙しいのに、私なんかの迎えにまでお手を煩わせて…。」
「気にしない気にしない。
それよりキョーコちゃん、社長から連絡もらった時は俺、ここで待ってたのが君だったなんて知らなかったけど、君1人で事務所に帰るつもりだったって本当?
どうやって?」
動き出したタクシーの中で社からぶつけられた疑問に、キョーコは不思議そうに答えた。
「え?普通に帰るつもりでしたよ?
電車に乗って…。」
「…あんな大きなボストンバックとキャリーバック持ってその格好で!?」
こくりと頷くキョーコのあまりの言い様に、社は前の座席に頭をぶつけてしまった。
「や、社さん!?」
頭を運転席の背中にぶつけたままギギギ、と自分の方に首だけを向けた社に、キョーコはつい反対のドアまで後退りしてしまった。
「…キョーコちゃん、本当にいい加減芸能人の自覚、持って?
君さっき何でタクシーが一回りして戻って来たのか分かってるの?」
「…へ?
タクシープールにいつまでもいたら他のお客様の迷惑だからですよね。
荷物持って来てませんでしたし…。」
ムクリと身体を起こした社はやっぱりと額に手を当てた。
「…最後の部分しか合ってないよ、キョーコちゃん。
君ね、あの時あのままあそこにいたら、すぐに男性ファンに取り囲まれて、タクシーが身動き取れなくなるところだったんだからね?」
社が語る真実にキョーコは驚きを隠せなかった。
「え、だって…空港の中ではそんな…。」
「…だから自覚が足りないの。
何かのきっかけに取り返しのつかない事態に陥りそうな、そんな雰囲気だったんだよ?あの時。」
良く覚えておきなさい、と社が注意するとキョーコはシュンとなって、はい、と頭を下げた。
「まぁ、無事で何より。
お兄さん久しぶりに会えて嬉しいよ、キョーコちゃん。
マリアちゃんのお供ってことはアメリカだろう?
楽しかったかい?」
しょげていた頭を社がぽんぽんと撫で、海外の土産話を訊くとキョーコはパッと花開いたように明るい笑顔で楽しそうに話した。
社はこんな事、蓮にバレたら闇の国に引き摺り込まれて恐怖の坩堝に叩き込まれるな、と背筋をぞくぞくさせながら事務所に着くまでキョーコの土産話に笑顔で耳を傾け続けたのだった…。
キョーコと荷物を事務所で降ろし、社は再びタクシーで蓮に合流するべく去って行った。
手にはアメリカ土産の、キョーコの目がねに叶ったお菓子を持って。
キョーコは去って行くタクシーに深々と頭を下げ、事務所の中に入って行った。
「椹主任、ただいま戻りました。」
キョーコが椹のデスクの前に立ち一礼すると、椹はぱちぱちと瞬きを繰り返してからうん、と軽く頷いた。
「おお、帰って来たか。
どうだった?アメリカは。
…と訊きたいところだが、着き次第社長室に連れて来いと言われてるんだ。
休めなくて悪いが行くぞ、最上君。」
椹の最後の一言に、今までキョーコとすれ違ってそのままタレント部を覗き見していた野次馬と、訊きたいが我慢していたタレント部の面々が一気にずっこけた。
キョーコは笑顔で頷き、荷物だけ置かせて下さいと近くにいた女性社員に言い置いて椹と共にタレント部を後にした。
見送った男性社員全員の心の声がフロア全体に響き渡るようであった。
[[[[[[あれがどピンクつなぎのラブミー部員1号~!?!?!?!?!?]]]]]]
???コンコン。
「椹です。
最上君が戻りましたので連れてきました。」
「おう、入れや。
お帰り、最上君。
首尾良くいったようだな。
クーからも皇貴からも報告は受けてるし、先方から契約書の内容についてエージェントを通して今詰めてる段階だ。
良くやったな。
ハリウッドデビュー決定だ。
…ま、あちらは日本より厳しい世界だ。
最後まで演じ切れれば、の話だが君の根性は並じゃない。
俺の勘も間違いなくいけると言ってるんだ、心配は要らんさ。」
入って来たキョーコを相変わらずの豪奢なのか奇抜なのか分からぬ衣装のローリィが出迎え、キョーコと椹がソファーに腰を下ろすまでの間に、秘書は手際よくコーヒーを用意していた。
「…はい、契約に関しては社長さんに全面的にお委せします。
それから今後の事なのですが…。」
椹とローリィを交互に見て、キョーコは意を決して告げた。
「あちらでの仕事も出来ましたし、ご厄介になりましたヒズリご夫妻のご厚意もあって、演技の勉強も学校の勉強もあちらで進めていきたいと思っています。
つきましては…。」
「分かってるさ。
クーからもその話は来てるからな。
最上 キョーコ君。
いや、タレント“京子”君。
君の芸能活動は今後、アメリカでのものを基本とし、帰国の際は日本でも活動するとしよう。
椹、それで調整してくれ。」
「…海外留学に伴い、活動拠点をアメリカに移すと発表して宜しいのですね。」
椹の記者発表を踏まえた確認に、ローリィは首肯したが1つだけ注意を加えた。
「今回ハリウッドデビューする件だけはまだ極秘扱いとする。
契約もまだ済んでいない事だしな。
…じゃあ任せたぞ。
最上君は留学話の事があるから残りなさい。
帰りは送ってやる。」
そうして椹は調整と他の仕事の為に退室し、ローリィとキョーコの2人だけになった。
ローリィにはキョーコに訊きたい事が残っていた。
ラブミー部員のキョーコに。
やっしー、爽やかに退場もあとで魔王降臨か?