2人が社に押されて向かった先には、見慣れたキャンピングカーが待っていた。


「…よう、こっちは全部済んだぞ。
…何してやがる、さっさと座れ。
車が出せねえだろが。」



ローリィに示されたシートに急いで2人並んで座り、社が少し離れたシートに腰を下ろすと車は目立たぬスピードで走り出した。



「…すみません社長さん、ご迷惑をお掛けして…。」



動き出した車内でキョーコが口火を切ると、気にすることじゃねぇよ、とローリィは返してきた。



「第一、今回もこっちは被害者だ。
報復はきっちりしといたから心配すんな。」



「…というと?」



蓮の問いにローリィはニヤリと悪どい笑みを浮かべると、俺を敵に回したあの餓鬼に俺直々に正義の鉄槌を下しただけだぜ~、と言うだけで詳しくは話してはくれなかったが、翌日のスポーツ新聞芸能欄に【不破 尚、アカトキを解雇、芸能界を永久追放!!】という文字がでかでかと載せられ、こういう事かと納得した2人だった。





それは尚が事務所関係者によって警察から引き渡され、事務所に戻った所まで遡る。




尚に弁解の機会は全く与えられず、ただひたすら広い会議室の真ん中にポツンと置き去りにさせられた。

出て行こうとしても外から鍵を掛けられそれも叶わず、自分が座っていた椅子に八つ当たりするのが精一杯だった。




どれだけの時間が経ったのか。


鍵の掛けられていた扉が開き、見覚えのある3人の男が入って来た。


警察から尚を引き取って来たアカトキの社員と、最近尚の担当マネージャーになったばかりの小柄な男。


そして歌手部門の主任であった。



前の2人は1つずつ大きな荷物を抱えていた。
それを尚の足元に黙ったまま些か乱暴に置くと、2人はそのまま主任の後ろに控えた。



「…君の私物だ。
寮から持って来させた。
それを持ってとっとと此処を出ていきたまえ。」



「!!!!」



あまりの言われように尚は頭が真っ白になりそうだったが、なんとか堪える事には成功した。



「…何で…だよ。」



「簡単だよ。
傷害事件に相手がしないでいてくれただけで、お情けで歌手活動をさせてもらっていた癖に、その相手に再び傷を負わせ挙げ句それを一般人に動画で撮られてネットに流される、終いには警察に連行される!?
そんな会社に損害を与えるしか出来ないような歌手、飼っておく価値があると思うのか?
喩えどんなに歌が上手かろうが出来た曲が良かろうが、ファンなんか付かないんだよ!!
そういう訳でさっき別室で緊急役員会が行われてね、全会一致で君の解雇が決定した。
君の契約破棄やそれに伴う違約金等、纏まり次第実家に送ってやる。
ああ、一応今まで稼いでくれた最後のお情けだ。
京都までの新幹線のチケットくらいはくれてやるから、さっさと出ていきなさい。
田中、戻って来ない様にちゃんと新幹線に乗るまで確かめて報告するようにな。
…では不破 尚…じゃないな。
不破 松太郎君、二度と会うことは無いだろう。
元気にやりたまえよ。




ずっと忌々しげに話し続けた主任は、最後の別れの言葉だけは心からの笑顔で告げて、マネージャーだけを残して部屋を後にした。



「…さぁ、行くよ不破君。
早くしないと最終の新幹線の時間が迫ってる。
俺の最後の君に関する仕事だ、煩わせないでくれよ。」



松太郎に最早反抗する気力は残っていなかった。

促されるまま自分の荷物を肩に背負い、追われるようにしてアカトキ本社ビルを後にした。

タクシーの中でも一言も口をきかず、黙って流れる街の景色をただ眺めていた。


新幹線の乗車券や座席自由券を押し付けられ、乗車口に押しやられた松太郎は、最後にマネージャーであった男からとどめの一言を浴びせ掛けられた。



「…これで本当にお別れだ。
君をうちに置いておくと、うちはLMEに潰されるんだ。
それだけじゃない、君は日本のみならず世界各地にコネを持つLMEの社長を敵に回したからね。
もう二度と、路上ライブですら歌うことは出来ないだろう。
いいものを持っていながら、君は自分でその夢を潰したんだ。
その意味をよく考えてこれからの人生を生きるといい。」



その言葉を最後に新幹線のドアが閉まり、京都に向けて静かに走り出す様を元マネージャー、田中は何の感慨も持たずに見送り、その場を去って行った。



こうして不破 尚は永遠に芸能界から姿を消したのである。



その後失意の帰郷を果たした松太郎は、事情を知った両親から更に責められ、高額な違約金の返済に自身が最もやりたくないと言っていた料亭旅館の若旦那としての仕事をせざるを得ず、言われるがままの相手を結婚相手として生きて行く事になる。



画面の向こうで華やかに微笑むかつての幼なじみが、自分が嫌ったあの男の妻となり、その子を産み母となっていく姿を見送りながら…。





END











5話かかっちゃいました!!
いかがだったでしょうか。

mariemonさん以下、凹凹大好きな皆さんに納得していただける作品になっていると嬉しいです。



読んでくださってありがとうございました。