諸々の手続きも終わり、尚の活動停止が発表されて3ヶ月後。

アカトキエージェンシーで最も礼節に厳しいと言われる大物演歌歌手に、黒ブチメガネに黒髪の弟子が付き従うようになった。


師匠の命で髪を黒に染め、顔立ちを隠す為に黒ブチの伊達眼鏡を掛けた不破 尚である。


あれだけ売れっ子だった筈なのに、この程度の変装で知り合いも気付かない事に驚いた尚だが、自分が居ると思っていない彼等からの本音にショックは隠し切れなかった。


「不破さぁ。暫く見てないけどこのまま引退じゃね?」


「べっつにいいよ、あんな奴見なくなって清清するし。
うわべだけは挨拶するけどさ、俺あいつ嫌いだし。
ちょっと顔が良いかもしれないけどさ、礼儀知らなくて先輩やらプロデューサーやらすっげー頭キテたらしいぜ?」


「案外礼儀知らずなせいで仕事干されそうになったんで恥ずかしいから活動停止とか言ってんじゃねーの?」



笑いながら目の前を横切って行くかつての知り合い達に、今までの自分が如何に生意気だったか、マネージャーの祥子が自分を守ってくれたかを痛感していた。


その祥子もマネージャーとしての範疇を超えた尚との同棲生活が発覚し、既にアカトキを解雇されている事など知るよしもない尚であった。




結局一から仕込まれ直した尚だったが、生き馬の目を抜く芸能界での2年のブランクはあまりにも大きく、かつての輝きを取り戻すのになんと5年の月日を要したという。



追われる立場だった筈のキョーコを追う形になり、取り戻せない時間を悔やむ事になるのもまた別の話である。


「これが…因果応報ってやつなのかな…。
アイツが…キョーコが二度と手の届かない女になるなんて…。」


控え室で広げた新聞の芸能欄に、金髪の男と並んで金屏風の前で左手を挙げて幸せそうに笑う幼なじみの姿に、尚は空しさを感じずには居れなかった。












…という訳で巡った因果、完結です。


このまま芸能界引退も有りかなぁ~とは思ったんですが、売れないドサ回り生活してもらおうと思いまして…。←え?そっちのがえげつない?


祥子さんはあの後未成年の尚との同棲生活が発覚してクビになって貰いました。

だって犯罪じみてたし、あの2人の関係って。
( ̄~ ̄;)


ともあれ、これにて完結です。