翌朝。

「…なぁ~祥子さん。
何でこの俺が朝っぱらから社長に呼び出されなきゃなんねーの?」


面倒くさそうに欠伸をかみ殺しながらだらだら歩く尚に、祥子は小声でたしなめつつ歩く。


「もう少しシャキッとしなさい。
社長が貴方に訊きたい事があるって言ってたのよ。
とにかく粗相の無いようにね!!」


常にない険しい表情に気付く様子も無く、尚は気の抜けた返事をした。


「へいへい。」




社長秘書に先導されて、尚と祥子が社長室に入ると昨日祥子が対面した面子が再び揃っていた。


「…待っていたよ、不破 尚君。
早速だが長い話になりそうだ、掛けたまえ。」


社長に促され、2人は下座に当たるソファーに腰掛けた。


「…率直に聞こう。
LMEの京子君を知っているね?」


尚はいきなり言われた言葉に戸惑った。


「…アイツは俺の幼なじみです。
それが何か?」


「…幼なじみをこの業界に誘ったりはしなかったのかね?」


「冗談でしょう?
あんな地味で色気もないヤツが、俺と同じ事務所に入れるなんて思いませんよ。」


尚のその言葉に、祥子は思わず額に手を当てた。


「…ほぉ。
では先日、彼女が出演しているドラマの撮影所に態々(わざわざ)行ったのは何故かな?」


「別に…大した用じゃありませんよ。
個人的な用事です。」


「…彼女に悪いことをしたとは思わないのかね?」


社長に訊かれる事に答えていくうちに、付け焼き刃の礼儀が剥がれていくのに尚は気付かなかった。


「…はぁ?
何でアイツに悪いんですか?
アイツにそんなの関係ないですからね。」


尚の答えに社長は盛大なため息を吐いた。


「…安芸くん、君は彼に何を教育したのかね?
仕事をしていてギャラを貰い生活している以上、喩え未成年でも社会人としての礼儀やルールは弁えて然るべきだろう!?
彼がこの業界に入ってからずっと面倒を見てきたのは君なのだから、そこをきちんと教育するべきだったな。」


「……申し訳ありません…。」


社長の言葉に反論の余地は無く、祥子はただ項垂れるばかりだった。


「安芸くん、君には不破の担当から外れてもらう。
マネージャーとして一から勉強し直したまえ。」

社長の言葉に祥子が顔色を失うのと尚が社長に噛みつくのは同時だった。