記者会見が終わり、ツーショット写真を撮影させるために2人並んで仲睦まじい姿をカメラのフラッシュの光の中に沈めている丁度同じ時間。


他局の控え室でテレビの画面に向かって灰になっている男がいた。


蓮と同じように京子の事務所での先輩である、しかも同じタレント部所属の先輩だから寧ろ蓮より親しい筈…な3人組、ブリッジ・ロックのリーダー、石橋 光である。


「リ、リーダー!!
お~い、大丈夫か!?
気ィをしっかり持たんかい!!」


「あかんわ、慎一。
完っ璧に真っ白や。」


光の目の前で手をヒラヒラさせて雄生はため息を吐いた。


「そない言うても、もうすぐ収録始まんのに、どないすんねん。
凹むんは収録終わってからにしてもらわんと、仕事とプライベートは別やで。
…まぁ、ショックなんは分からん訳やないけどな。」


「…せやな。
リーダー、今度こそ告白するんやって意気込んでたしなぁ…。」


「…なぁ、雄生。
とにかく直前の問題や。
あと何分ある?」


「丁度リハが押したぶんだけ昼休憩がずれ込んどるさかいな、あと30分はある筈や。」


携帯の時計を確認した雄生に、慎一は頷き返し、魂の抜けた光を楽屋の奥にある畳の上に引き摺って行った。



「~~~ひぃいぃ~っ!!!!
や、やめぇっ慎一、い、息がぁ…!!!
う、うひゃひゃ、ひゃあぁっっっ!!」


…楽屋の外から聞いていたら何事かと思う様な絶叫。


「ほれっ、も少し笑わんかい!!
リーダーがくすぐったがりなん、ちゃあんと知っとんねんで~!!」


うつ伏せに転がされて、慎一、雄生の2人ががりで悶絶させられている光は、とても敦賀 蓮より年上には見えない。


「ほれほれ~!
まだまだ笑いが足り~ん!!
ここはどうや!?」


「くわぁぁっ!!
そっ、そこはアカンて!!
ぐははははっっ!!
はっ腹が痛い~!!
  や、やめてくれ雄生っ!!」



気が付くと控え室の隅に転がされ、仲間2人にくすぐり倒され、涙まみれの腹痛と窒息寸前の笑い死にさせられそうになっていた光は、漸く自分を解放した犯人たちを転がったまま睨み付けた。


「お…お前ら…なんちゅう事するんや。
何で…こないな事しよったんや?」


睨み付けてはいても怒っている訳ではない。

彼らが訳もなくこんな事をする者達でない事を、光もちゃんと知っているからだった。

2人は気まずそうにしながらぺこりと頭を下げた。


「…済まんなぁ、リーダー。
そっとしといてやりたかったんやけど…。」


「…俺ら芸能人やし。
この後の収録、まだあるしな。
沈んだまんまの顔(ツラ)をみんなに見せる訳にはいかへんやろ?
やけ酒でもやけ食いでも、今夜は気ィの済むまで付き合うよって、今は浮上しといてくれや。な?」


彼らは彼らなりに、光の気持ちを慮(おもんばか)っての行動だったのだ。

下手に慰めても気持ちの切り替えは難しかっただろう。

不器用な彼らの優しさが目に染みた。


「…ありがとうな、慎一、雄生。
じゃあ仕事上がったら…やけ酒付き合ってくれな?」


起き上がって頭を下げた光に、慎一も雄生も歩み寄り、肩を叩いて笑いかけた。


「おうっ、今夜はオールナイトで騒ぐか?」


「カラオケ歌いまくりも付けようや!!」


「喉潰さんように気ィ付けような。」


そう言って3人が笑みを交わし合っていると、スタッフが休憩時間の終わりを知らせに来た。

3人は元気良く立ち上がり、控え室を後にした。

ただひとり、彼だけは最後に部屋を出ながら既にスイッチを切られたテレビに視線を向け、寂しそうに笑った。








光くん、不憫です…。

ま、気のいい仲間が側にいますから、頑張ってくれるでしょう。

今さらですが、ブリッジロックの3人はここまで関西弁使ってなかった気が…。
関西圏の皆さま方、おかしな関西弁には目を瞑って下さいませ。←どこが変なのかも分かってませんから。